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賢者様を待っている世界で  作者: 三條聡
第2章 テグネール村 2
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祭りの催し

「で、朝から私がパン作りを教えたり、お昼のご飯を作っている間、何もしてなかったと言うの?」

「なっ、何もしてなかった訳じゃないんだよ」


 慌ててアーベルが否定をする。いや、アーベル君、君には何も責任は無いのだよ?


「そんなこと言ったってさ、全然まとまらないんだぜ」


 次はどのサンドウィッチを食べようかと、目を輝かせているダニエルの言い訳。まず、君には皆の意見をまとめるという仕事は出来ないし、する気も無いんだね。


「ダニエルが無理なことばっかり言うからじゃないか!」


 ヨエルは、頬を膨らませてダニエルを睨むが、ダニエルがそれに気がつくことはない。そう言えばダニエルの目立ちたがりとは真逆のヨエルは、とのかく人前に出ることを嫌がっている。この家でも、レギンやアーベルの言うことには意見をせず、末っ子らしく指示をされていることが多いし、それに反論しているのを今の所見ていない。


「そもそも、やりたいことを言い合うのに意味が無いんだよ。みんなそれぞれ違うのは解っているんだから」


 ブロル、それが解っていて何故放っておく? お姉さんはその『お金大好き』に期待したいのだけど? 何かお金儲けできそうな屋台を思いつかなかったのだろうかと不思議に思う。私が作った新しいものを見ているのに?


「……」


 ニルスくんはノーコメントですか……。何かしたいことが無いのか、それとも言っても無駄だと思っているのか不明。


「で、何がしたいのよ」

「みんなをあっと驚かせるようなことだ!」

「ダニエル、それはどんなことなの」

「だから、みんなをあっと驚かせるようなことだよ」

「それはどんなことなの? 歌を4人で歌うの? 劇でもやるの? それとも裸踊り?」

「ぶーっ……」


 アーベルが盛大に吹いてくれた。ダニエルはキョトンとした顔をし、ヨエルとブロルは嫌な顔を見せた。ニルスは……まぁ、想像通りです。


「そんなに皆をあっと言わせたいなら、裸踊りでもすればいいじゃない」

「そっ、そんなことしたら、オヤジに殺される!」

「でも、皆をあっと言わせること請け合いよ」

「エルナ……それはちょっと……」


 アーベルが止めに入ったので、これ以上は止めてあげることにした。裸踊りなんて、最初に『あっ!』と思われるが、そのすぐ後にどうなるか推して知るべしだ。


「で、ヨエルは何をしたいの?」

「僕は……人前は嫌だなって思ったから、屋台で何か売ったらいいんじゃないかって思う」

「何を売るの?」

「笛とか、剣とか……」

「それを売るほど作る時間があるの?」

「ううぅ〜」

「で、ブロルは何がしたいの?」

「何もしたくはない。……村長さんとの約束が無ければの話しだけど」

「だから、積極的に考えないのね」

「まぁね」


 くそっ、だから面倒くさいことは丸投げか! 面倒くさい!

 私はこれからフェルトのマットレスをレギンとアーベルとヨエルの分を作らなければならないのだ。ニルスにも作ってあげると約束した。レギンん家にある大きな四角いエサ箱のサイズでは、レギンとアーベルは6枚、ヨエルとニルスは4枚も必要になる。全部で20枚も作らなければならないのだ。こんな面倒ごとに構っていられない。


「そうだ!」


 アーベルが突然叫んだ。嫌な予感がするのは私だけだろうか、嫌、ブロルも身構えている。


「エルナが案を一緒に考えてくれるお返しに、アッフたちはお祭りまでエルナの手伝いをしするって言うのはどうだい?」

「反対!」

「はんた〜い!」

「却下だよ、そんなの」


 私が開口一番に反対したのは、誰でも理解できるだろう。アッフたちに手伝ってもらっても、余計な仕事が増えそうなのは誰にでも想像できる。が、ダニエルとブロルが反対するのは理解できない。解せないぞ!


「ダニエル、贅沢を言うなよ。お前たちだけで話しがまとまるわけないじゃないか」

「そう言うけど、エルナは容赦なさそうだし〜」

「その前に、エルナの要求に添えないと思う」

「ブロル、じゃあお前がまとめられるのか?」

「出来る出来ないじゃなくって、したくないと言うか……」

「しなくちゃいけないんだ!」


 ダニエルはとにかく目立ちたくて、ヨエルは目立ちたくないというところが、解決を難しくしている『その1』だ。そのうえ、まとめるのが上手そうなブロルが、やる気が全然みられないのが『その2』だ。さらに言えば、この4人は個性が強すぎているわりに、まとめ役というものが存在していない。アーベルでは、この4つの個性には太刀打ちできないのだろう。

 私は深い溜め息をついた。ここは、一番年長者である私がどうにかしないと収拾がつかないのは目に見えている。


「じゃあ、みんなをアッと言わせて、ヨエルは人前に出なくてすんで、お金儲けが出来る案を考える」


 私がそう言うと、アッフたちの目が輝いた。


「ただし、お祭りまでは私の手伝いをしてちょうだいね」

「何を手伝うの?」

「フェルトを作ってちょうだい」

「フェルトって何?」

「ああ、昨日エルナがベッドに敷いていたものか」

「なんだ、それ」

「これよ、これ!」


 ブリッドが、傍らにあるフェルトでできた犬を見せる。すると、こんなもん作れねぇ〜とか、無理を連呼されたりする。


「当たり前じゃない、これを作れなんて言わないわよ。大丈夫、あなたたちにも作れるものを作ってもらうの」

「で、エルナは何か案は思いついたのかな?」

「1つ確認。催し物は舞台があるの? それはどんな大きさなの? その場所を見てみたい」

「じゃあ、食べ終わったら行ってみようか」

「はぁ、なんで私が……」

「よしゃぁ〜、メシ食ったら何やる?」

「フェルト作りです!」


 なんと、ダニエルは私に手伝わせておいて自分は遊ぶ気満々。前に『憎めない』などと言ったが撤回である! 思わずテーブルをダンと叩いてしまった。


「ええ〜、だってエルナの案というのが、俺たちが気に入るか解んないだろ!」

「気に入るものを考えるって言ったよ」

「ダニエル、いいじゃないか。俺たちが逆立ちしてもいい案なんか浮かばないんだしさ」

「そうだよ、僕はエルナの案に賛成!」


 頬杖ついてブロルが溜め息混じりにダニエルに異論を唱える。ヨエルなんかは、諸手を上げて賛成のようだ。ニルスもこくこくと頷いている。この子らは、本当に考えることを止めてしまったのだ。


「多数決で決定だね。じゃあ、僕とエルナで広場に行ってくるから、君たちはちゃんとエルナの言う通りにするんだよ」

「アーベル、ずりぃ〜!」

「何言ってるんだよ、僕も部外者だよ」


 揉めに揉めている食卓で、1人レギンだけは可笑しそうに微笑みながら眺めていた。ブリッドは、ダニエルに自分の作ったフェルトの犬が、お祭りの屋台でどんなに売れるかを力説していた。なんと、ブレンダはお祭りで屋台を出す気のようだ。


「ブリッドは屋台でそのフェルトの犬を売るの?」

「あっ、考えたのはエルナなので、売れたら幾らか……」

「いらないよぉ、その代わりにいろいろと教えてね」

「いいの?」

「もちろん、知らないこといっぱいあるし。それで、屋台は1人で出すの?」

「毎年自分たちが作った靴下とか、刺繍をしたテーブルクロスとかを売るお店を友達とやっているの」

「じゃあ、ブリッドの屋台はそのフェルトの犬が目玉だね」

「そうなの! 犬の他にも猫を作ってみようと思うの。だから、アーベル、私にそのヒツジの毛を売ってくれない?」

「えっ? それって捨てるものだから、必要なだけ持って行ってくれていいよ」

「でも、悪いじゃない」

「じゃあさ、エルナに冬用のセーターやカーディガンを編んでくれないかな。エルナは寒がりなんだけど、冬の支度はまだ何もできていないくて……」

「えぇ、あのゴミの毛とセーターを交換するの?」


 私の疑問にアーベルはすぐに否定する。


「そんなわけないじゃないか、それなりの代価は払うって!」

「セーターを編むくらい何でもないわ。でも、冬のもの一式を揃えるのは、私一人じゃ時間が無いわね」

「それなら、明後日は隣町まで行ってエルナのものを買って来る」


 レギンはそう宣言した。買うって、そんな散財をさせられない。


「そんな、レギン。私も頑張って靴下とか作るから、そんな勿体ないことしないで」

「勿体なくはない、それにヒツジの毛やチーズなんかを売りに行かなければならない」

「でも……」

「だから、明後日はみんなでオリアンへ行く」

「僕も?」


 ヨエルの質問に、レギンは少し考えたが頷いた。それを伺っていたヨエルは、大喜びで椅子から勝ち上がる。まぁ、こんな僻地の村に住んでいると、町へ行くのは子供にとっては大冒険なのはわかる。ああ、私がテグネールを僻地だと思っているわけではないですよ、皆の話を要約すると、この国では僻地の村扱いと言うことです。

 まぁ、商人ギルドがあるけど、警察みたいな兵士が常駐しているわけもなく、役所の人間もいない。せいぜい、税金を納めるときに領地の中心部から役人が来るらしいのだ。そう言えば、教会や学校はどうなっているのかな?

 レギン、アーベル、ヨエルのいずれも学校に行っている様子はない。


 広場を見に行くついでに、アーベルに聞いてみようと思う。

<エルナ 心のメモ>

・アッフたちの出し物を考えることになった。

・アッフたちは私が案を考えるのと引き換えに、フェルト作りを手伝うことのなった

・ブロッドは、新たに習得した『フェルトの犬』を屋台で売り出す予定

・明後日は隣町のオリアンへ行くことになった

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