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賢者様を待っている世界で  作者: 三條聡
第2章 テグネール村 2
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喧嘩の罰

 ヨエルとニルスと同じ部屋で寝ることになった。この家の2階には4部屋あって、1つは客室に使われ、もう1つは従者用の続き部屋になっていた。3兄弟の家はこの村創設以来の村長一家らしい。だから、領主様の所からやって来る役人に、この部屋を使わせるらしい。

 ほかの2つは、レギンとエイナ、アーベルとヨエルの部屋に分かれていたらしいが、今では3人は一緒の部屋を使っている。まぁ、ニルスとかダニエルとかが好き勝手に泊まりに来るので、今では、自分のベッドなるものはあるが、適当に寝ているという。

 私が不思議でならないのは、ベッドが6つあると言うことだ。

 今日は、ニルスが泊まりに来ているので、ヨエルとニルスと私とで、1つの部屋で寝ることになった。勿論、ベッドは別々。


「わぁ〜、何これ」

「カーペット?」


 私が待望のマッレスもどきをベッドに敷き始めると、2人がやってきた。

 まぁ、当然の反応ですね。


「これは、マットレスと言って、ベッドに敷くものだよ」

「どうしてこんなものを敷くのさ」

「だって、藁でチクチクするでしょ?」


 私の問いかけに、ヨエルとニルスはキョトンだ。生まれたときから、これがベッドなのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。


「それに、冬は暖かいよ」

「本当にエルナは寒がりなんだね」


 ヨエルは笑った。いやいや、チクチクしないことがこのマットレスの最大の効果なんだよ。

 私は2つのマットレスを並べて、その上をぽんぽんと叩いた。


「ほら、寝てみればわかるよ」


 ヨエルは、直にゴロリと寝転がった。


「う〜ん……」


 なんで微妙な顔? 上出来でしょうが!

 今度はニルスが寝転がる。そして寝返ると、にこりと微笑んだ。


「凄く寝やすい!」


 口数の少ないニルスにしては、テンションの高い台詞にも驚いた。が、その前の笑顔にはビックリだ。知り合って2日目にして、初めての笑顔である。お姉さん、ちょっと嬉しいぞ!


「じゃあ、今度は一緒に作る?」

「……でも、悪い……」

「そんなことないよ! みんなの分も冬までに作るつもりだもん。力ないから手伝ってくれるとうれしいな」

「わかった」


 今度はちょっと遠慮がちな笑顔。これで今日はお腹いっぱいです。


「ヨエルとニルスは、明日は何するの?」

「ダニエルとブロルとで、お祭りの相談をするんだ」

「お祭り?」

「来月の一番目の命の日に、行商人たちが来て、みんなでお祭りをするんだ」

「相談?」

「僕たち、何かしないといけないんだ」

「?」

「去年、大騒ぎをして人形劇の大道具を壊したもんな」


 いつの間にか部屋に入って来ていたアーベルが、私の疑問を解いてくれた。アーベルくんはエスパーですか?


「わざとじゃないよ! イクセルのバカが僕を突き飛ばしたんだよ!」

「だから、その突き飛ばされるようなことをするから舞台を壊すことになったんじゃないか」

「だって、あいつオーセのリボンをとって返さないんだもん」

「いつものことじゃないか、イクセルはオーセが好きだから、構いたくてしょうがないんだよ」

「好きなのに、なんで嫌がることをするのさ!」

「え〜っと……」


 ヨエルの文句に、思わずしょっぱい顔になってしまった。いや、甘酸っぱい顔か? なんだそれ。

 話をかいつまむと、ブロルの双子の姉であるオーセのことが好きなイクセルは、祭りの日にオーセがお小遣いを貯めて買ったリボンを取り上げたらしい。勿論、ちゃんと返すつもりだったのだろうが、そこにオーセの双子の弟アドニス・ブロルとその他3人、テグネールのアッフたちが通りかかり、大もめになったらしい。間の悪いことに、そこには行商人たちが子供達に見せる人形劇の大道具などが置かれている場所だったので、小競り合いの中、ヨエルが飛ばされ、大道具の一部を壊すはめになったのだと言う。

 その修理費などは、その当時村長をしていた3兄弟の父親が弁償をし、事の発端であるイクセルとアッフたちに来年の……つまり、今年の祭りに、皆に見せる催し物をしろと命令されたらしいのだ。


「劇とか歌とかするの?」

「ええ〜、いやだよ」


 私の頭の中には、催し物としては紙芝居とかダンスとかしか思い浮かばないのだが……。


「何をするにもお金がかかると思うんだけど、資金はどれくらいあるの?」

「えっ?」


 目をぱちぱちと2回瞬きをする。そんなこと少しも考えていなかったと、顔に書いてあった。アーベルは、勿体振って、咳払いをした。


「ゴホン、それで僕が来たわけだけど」

「アーベルが出すの?」

「そうじゃないよ、去年父さんが、銀貨5枚を出すっていっていたよ」

「銀貨5枚!」


 ヨエルとニルスは驚いていたけど、私にはお金の価値が全くわからない。

 しかし、3兄弟の父親、前村長は面白い人だったのではないかと思う。子供の喧嘩の末に、罰で掃除をさせるとか、家の手伝いをさせてお金で弁償させるとかではなく、お祭りにみんなが楽しめることをしろとは、何とも粋ではないか。


「明日は、ダニエルとブロルとで相談するんだろ?」

「うん」

「まぁ、お前たちのお手並み拝見だな」


 アーベルはそう言うと、おやすみを言って部屋を出て行った。


「そうか、だから夕方、ダニエルがスープを取りに来たときに3人で話していたんだね」

「そう言えば、エルナがダニエルに渡していたのって何?」

「あれは、スサンのおもちゃだよ」

「スサンってまだ赤ちゃんだよ」

「赤ちゃんでも、ちゃんと見えているし、聞こえているし、好奇心だってあるんだよ」

「うーんと、で、あれは何?」

「あれは、ヒツジの毛で作った犬のおもちゃだよ」

「え〜、ヒツジの毛って、あんなふわふわしているもので?」

「このマットレスもヒツジの毛だよ」


 私はマットレスを再び叩いた。

 今度は、ヨエルも真剣な目で見つめる。


「どうしてこんなにぺっちゃんこなの?」

「揉んだり、押したりしたの」

「それだけ?」

「お水で濡らして揉んだりすると、ヒツジの毛どうしが絡まってぎゅっとなるんだよ」

「……」


 ヨエルは何やら考えこんでしまった。ニルスは不思議そうにマットレスを触っていたかと思うと、急に真剣な顔で私を見つめる。

 えっ? 何か不味いことを言った?


「エルナはアルヴィース様なの?」


 はい? エルナはエルナですけど……。


「アっ、アルヴィース様って何?」

「エルナはアルヴィース様を知らないの?」


 驚いた顔でヨエルが叫んだ。何やら考えていたのをやめたらしい。アルヴィース様って誰? というか何?


「アルヴィース様って誰?」

「えーっと、この国にいろいろなものを与えてくださる賢者様で、魔法使い」


 それは、レオナルド・ダ・ヴィンチやトーマス・エジソンのような人なのだろうか? それとももっと伝説的なものなのだろうか。そもそも、魔法使いって言うが、魔法はこの世界にあるのだろうか? ニルスのお婆さんは、治療の護符なるものを使って治療をしていると言う。その護符は、傷がみるみる塞がるとか、あっ言う間に血が止まるとかなのか? 全く想像の域を出ない。


「魔法って、どんな魔法?」

「魔法は魔法だよ」

「えーっと、何も無い所からドバーと火が出るとか、水が出るとか?」

「?」


 えっ、違うの? 魔法と言えばそんな感じだと思うのだが……。ニルスの説明は、全く説明になっていないのだが、それから解ることは、魔法という言葉があるので、何か通常ではない現象を起こす人、または事象があるということ。そして、ニルスが説明ができないと言うことは、私が知っている魔法とは少し様子が違うということだ。

 いや、アーベルならちゃんと説明ができるのか? 明日はアーベルに聞いてみよう。


「で、魔法使いはいるの?」

「王宮にいるよ」

「何人いるの?」

「3人」


 少なっ! この国の魔法使いはそれで全部だというのか?


「国に3人しかいなの?」

「そんなことは無い、17人いる」


 それはまた……思った以上に少ない数だった。3人は王宮にいて、残りはどこにいるのだろうか? 魔法学校みたいなのはあるのか、それとも徒弟制度なのか、いろいろと質問したいことはあったが、思わず欠伸をしてしまい、自分がいかに眠たいのかを認識した。

 魔法のことは、また明日にでも聞こうと思いベッドに潜り込む。ああ、でも寝る前にどうしても聞かないといけないことがあったのを思い出した。もう閉じかけた眼を開けて、ニルスに聞く。


「明日の朝のご飯に、ダニエルとブロルは来るの?」


 ニルスはにこりと笑って言った。


「勿論」

<エルナ 心のメモ>

・2階には、客室と従者の部屋があり、レギンとエイナの部屋、アーベルとヨエルの部屋がある

・2つの部屋には3つづつベッドがある。多すぎないか?

・次の月の1番目の命の日にお祭りがあるらしい

・テグネールのアッフたちは、前村長の命令で何か催し物をしなければならない

・イクセルという謎の少年は、オーセが好き。

・謎の人物、アルヴィース様とは?

・この世界には魔法があるが、一般人がそれがどういうモノかを説明できないのではないかと思う。ニルスは説明できなかったので、明日はアーベルに聞いてみる

・この国には魔法使いが17人いて、そのうち3人は王宮にいるらしい

・明日は、ニルスとブロルの朝ご飯も作らないといけない……

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