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賢者様を待っている世界で  作者: 三條聡
第11章 テグネール村 8
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行商人がやって来た 1

 お祭りの主役である行商人の一団が馬車をテグネールの村のメインストリートにいた。村人たちはメインストリートに出る道まであふれていた。

 私は、アーベルに連れられて共有林の前の道を通り、広場からメインストリートに向かったのだ。目の前にまっすぐ南に続くメインストリートに、何台かの荷馬車が通りいっぱいに詰まっている感じだ。それらを目にして最初に驚いたのが、大きな馬だった。


 レギンのところにいる馬は、大きいと言えども「馬の中では大きい方だな」程度の感じなのだが、行商人の荷馬車を曳いている2頭の馬は、もう、種類的には馬ではないと言いたい。もちろん、私の体が小さいのでそう感じるのかと思ったが、近くにいる大人たちと比べてやっぱり大きすぎた。

 もう、ラ○ウの黒王かと思うほどだ。大きすぎて人を乗せる生き物ではない。


 そして、その巨大な馬が曳く荷馬車は、ちょっとした一軒家? みたいな大きさのものだ。強度の弱い部分には金属で作られているので、囚人を護送するような厳つい外観だった。


「アーベル、馬の近くに行きたい!」

「いいけど……あまり、近づいたらダメだよ。重量馬は気が荒いからね」

「でも、大きさが知りたい」

「……気が進まないな……」


 そう言いながら、アーベルは人をかき分けてくれた。

 だんだんと近づいていくと、もう、象だね。私の身長では、馬の足の長さにも足りなかった。

 自分の体が小さくなったからだろう、とっても怖く感じた。馬の目がどんなに可愛くても、大きすぎて怖いと思うのは本能だろう。ちょっと蹴られたても、車に跳ねられると同じ大事故だ。

 これが、重量馬と言うのもなのだ。


 心配してハラハラしていたアーベルに、馬から早々に引き離されてしまったが、行商人達が箱から姿を表すと、村人たちの興奮したような声が多くなり、彼らを見守る人々の目がキラキラしている。

 こうなると、お祭りの興奮は子供たちだけのものではないのは明らかだ。


 行商団の人々は、お揃いの腰までのマントのようなものを着けていて、腰には剣を帯刀していた。私が、今まで見慣れた村人たちとは違っている。どの人も、緩くない。

 日々の生活が緊迫したものだと、こんな表情になるのだろうと思われる、独特の雰囲気があった。

 そして、私が最も驚いたのは、その一団の中の一人の女性が赤ん坊を抱いて出てきたのだ。それに続いて出てきた子供は、私と同じくらいの子供だった。そんな違和感ありまくりの赤ん坊と子供に、私の意識が奪われているなか、隣のアーベルはいつのまにやら誰かと話しをしはじめていた。


「やぁ、5ヶ月ぶりだな!」

「そうだね、みんな変わりない?」

「ああ、俺に妹が生まれた以外はな」

「そうか、無事に生まれたんだね」

「それより、レギンはいるのか? 王都の剣術大会には出ていなかったみたいだけど……」

「ああ……まぁ、いろいろあってね」


 アーベルと話しているのは、行商人たちと同じマントで腰には剣を帯びてはいるが、どう見てもアーベルと同じくらいの少年だった。少なくともレギンより年上ではないだろう。

 体つきもアーベルと同じようなもので、強そうには見えない。でも、アーベルの剣筋は良いらしいから、一概に体が逞しいことと剣が強いことは同義ではないらしい。


「で、その子……エイナじゃないよな……」

「ああ、この子はちょっと訳あってうちで預かっているんだ。エルナ、彼はマッツだよ。この行商団の団長の息子」

「こんにちは、マッツ……って、パン屋さんのマッツさんと同じ名前なのね」

「あ〜、本当に嫌になるよな。マッツなんてありふれた名前のせいで、どこへ行っても『粉挽のマッツ』とか『マッツ親方』とか、同じ名前の奴がいるんだ」

「でも、どこへ行っても名前は覚えてくれるね」


 マッツは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に変えて笑い声をあげた。


「それ、俺がマッツなんて平凡な名前になった理由だ」

「でも、大切なことでしょ? あちらこちら回って商売するには」

「違いない。親父は俺が名前のことを言うと、いつもそれを言う」


 3人で、そんな話しをして対面を終えた。

 

「おい、マッツ。いつもの場所に馬車を止めてこい」


 どこからともなく、低音ボイスが響き渡った。今、一緒に笑っているマッツだったが、すぐさま表情を引き締めた。


「わかった。……じゃぁな、アーベルとエルナ、ちょっと仕事してくるよ」

「ああ、あとでな。今夜はうちに来るんだろう?」

「もちろん、ひさしぶりのちゃんとした飯だからな!」


 嬉しそうに笑って、手を振ると走り去っていった。

 武装行商団って家族連れで移動しているなんて驚いた。盗賊に襲われたり、反対に盗賊たちを壊滅させて報奨金を稼いだりと言っていたから、厳つい集団なのかと思った。でも、赤ん坊を抱いている女の人もいるし、若い女性も何人かいた。

 それでも、その全員が剣を帯びているんだけどね。


 それぞれの馬車が、馬に曳かれて広場の北側に向かい止められた。そして、馬たちはどこへか曳かれていった。あの馬たちは、どこへ行くのだろう? そんなことを思いながら、沸き立つ村人たちを眺めていた。

 大人がワクワク顔で盛り上がっているのを見るのは、なかなか無いことだ。それも、ほとんどの村人がいい笑顔だ。でも、深刻な顔をしているよりは良い。


 沸き立つ村人を眺めつつ、私とアーベルは家へ戻った。そこは、作業しっぱなしで、放り出された道具たちがあった。まぁ、子供たちに後片付けをするなんて認識があるわけもなく、苦笑いしながら2人でのんびりと片付けはじめた。


「行商人ってみんな自分で戦えるの?」

「そういうわけじゃないよ。一人で行商をしている人がこの村まで来ることは無いんだのは、このあたりに魔獣がいるからね。それでもこの村に来る普通の行商人は、護衛を雇ったりする人が多いよ。だから、この村に来る行商人は一人ってことは無いね」

「でも、最近は魔獣に殺されるようなことは無いんだよね」

「まぁね……でも、襲われるってことはあるんだよ。大怪我することは無いようだけど、それでもここから遠くの町や村では、テグネールにはまだ魔獣での被害があるって思っている人が多いんじゃないかな」

「ちゃんと認識してないんだね」

「まあ、こんな辺鄙なところに来ることは無いだろうからね、普通の人には興味もなければ、ちゃんと知りたいと思う場所でもないってことだよ」


 魔獣の被害がゼロではないから、そう言う警戒があるのは良いけど、そのおかげで行商人がやってこなのは、この村にはマイナス要素だ。でも、人命に関わる問題だし……。


「あの人たちみたいに、自分で自分の身を守りながら行商をする人って多いの?」

「う〜ん、そう多くはないよ。僕も全部知っているわけじゃないけど、武装行商団は彼らだけではないよ」

「……結構、危険なことが多いのね」

「そうだね……」


 私は、この村しか知らないのだけど、盗賊とか言われてもなんだかピンとこないのは、私が平和な世界からやってきたからだろう。それにきっと、私の考えもつかない危険もきっとあるのだろう。定住せずに、国中を渡り歩くなんてきっと大変なんだろうなぁ〜、なんて呑気なことを思っていると、ふと、さっき出会ったマッツと言う少年が入っていた言葉を思い出した。


「そう言えば! 今夜うちに来るっていっていたけど?」

「あっ!」

「なっ、何?」

「ごめん、言うの忘れてたよ。毎回、彼らが来た時には、夜はうちに招待して一緒にご飯を食べるんだった……」

「なにぃ〜!」


 慌てたアーベルは、行商団の人数を聞く為に走って行った。私は、台所に駆け込んで、ことの顛末をバルロブさんに伝えた。

 でも、慌てたのは私とアーベルだけで、バルロブさんたち料理人たちは慌てる様子もなかった。


「かなりの人数の様ですからね、今日は外でお肉を焼きながら食事をするそうです」

「?」

「ミケーレ殿が毎年その様にすると申していましたので、そのように準備を始めています」

「そうか、なら安心」


 バルロブさんが言うには、スープを2種類とポテトサラダ、茹でたバスタと2種類のソースを用意すると言うのだ。あとは、適当に肉を焼くと言うバーベキューのようなものなのだろうと、一人納得したのだ。それに、お肉だけでなく、パスタなども用意するのだから、これは、そのものズバリ、バイキングというものではないだろうか?


「用意にはそれほど時間はかからないと思います」


 と言う頼もしい言葉に、夕餉はバルロブさんたちに丸投げさせていただいました。

 と言うのも、行商人たちの登場に沸き立って飛び出していった子供たちがポツポツと帰ってきたのだ。もう、跡かたずけがほとんど終わってしまっていたし、もう、子供たちの集中力が続かないだろうと判断で、皆で一緒にちょっと早いお昼ご飯をとることになった。

 お昼になって、「ごはんだよ〜」と呼びに来た母親たちは、「まさかお昼ご飯の面倒も見てくれるなんて……」とさんざんお礼を言われ、ついでに沢山作られたサンドイッチを子供たちと分け合っての食事会となった。


 お祭りと言っても、黙っていては何も始まらないとばかり、村人総出で作り上げるもの。なかなか子供のことに手がまわらない。普段は、広場で遊ぶ子供たちにお任せで、畑仕事に精を出す村人たちだが、今は広場で屋台となる場所を設置しているし、焚き火の穴を掘っている最中で、小さな子供には危険な場所になっている。

 アーベルが言うには、ブリッドやアーベル、ハッセやブレンダの年頃の子たちが、こんな時は子守を頼まれるのだと言う。しかし、子供たちの面倒を見ることはなかなか大変な労働だったと言う。行商人の人数を確認して帰ってきたアーベルが、和やかに食事をしている親子をみて、しみじみとそう語った。


「みんな好き勝手なことををするもんだから、放牧地みたいな柵に囲まれた場所が欲しいって思っていたよ」

「あははは、ひど〜い」

「もう、これだけ年齢が違うと一緒に遊べることなんて無いだろう?」


 そう言うアーベルだが、私は農耕民族の子孫である。農作業の間、当然子供の面倒を見させられた子供と、面倒をみてもっらっていた子供を経験している血が連綿と受け継がれている。まぁ、いまの肉体に流れている血は、純粋なこの国の血なのだが……。


「影鬼とか色鬼おとか知っている?」

「カゲオニ……って、カゲは影のこと?」

「そーそー」

「オニって?」

「鬼はね……」


 ここで、はたっと気がつく、鬼の説明がなんと面倒くさいことか……。


「悪い人とか、人をさらう……魔獣? 魔人?」

「あははは、何ソレ」

「と、とにかく子供を攫って行ってしまう悪い人とか、そんなものよ」

「で、そのオニがどう関係しているの?」

「そのオニを決めて、その人にカゲを踏まれた子は捕まるの。で、オニになった人は全員の影を踏むと終わり。今度は、最初に影を踏まれた人がオニになるの」

「なるほど……それくらいなら、小さな子でも参加できるね」

「3歳くらいの子は、ルールが把握できないので、足の早い子とペアにするとか、オニにはならないとか、救済措置を作るのよ」

「なるほどね」


 その後、色鬼とか高鬼とかの説明をして、終いには缶蹴りの説明までした。

 明日は、牧場の端でその○○鬼シリーズを片っ端から試してみようと話し合った。

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