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賢者様を待っている世界で  作者: 三條聡
第1章 テグネール村 1
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ブリッド先輩

 ブリットが帰って来た。

 アーベルに編んでいたというマフラーは、実はレギンとヨエルの分も作っていて、毎年、それぞれの誕生月に贈っているそうだ。

 レギンは支度月で、ヨエルは酒の月らしい。ちなみにブリッドは鳥の巣月で、ダニエルは雷の月だそうだ。それは、どういう順序なのかさっぱり解らないけど、レギンは再来月で、その次の月はヨエルの生まれた酒の月と言うのは確認した。

 誕生月の話しをしている時、レギンやヨエルの誕生月と同じだという人の情報が無かったので、今はその2人のプレゼントを考えよう。まぁ、私の出来ることは料理くらいなのだが。


「これ、ご飯が終わったら飲んで」

「これは?」

「ハーブのお茶なの。エッバお婆さんに作ってもらったの」

「ニルスのお婆さんが?」

「エッバお婆さんは、この村で産婆さんをしていて、怪我や病気に詳しくて、治療の護符を使えるのよ」


 凄いよねと言うブリットだけど、治療の護符って何? 使えると何で凄いの? そもそもそれは、どの程度の効力なの? また、新たな謎が出てくる。

 が、今はそれよりホワイトソースだ。

 いよいよ、ホワイトソースを作る時がやってきた。私も普段は、固形のもので済ませてしまうのだが、ちゃんと小麦粉から作るのは何時いつぶりだろうかと、少し遠い眼をしてしまった。

 この世界のスープは、すべて塩、胡椒だけの味付けで、アイリッシュシチューのようなものらしい。入れる野菜や肉の種類を変えるだけらしいのだ。このホワイトソースは、みんな驚くだろう。


「じゃあ、スープの素を作ります」

「スープのもと?」

「そうです、これを入れるとずーっと美味しくなるよ」


 そう言うと、私は浅いお鍋にバターを入れ、小麦粉を少しずつ入れた。ブリットは、横から鍋を覗き込んで熱心に見つめていた。


「この時に、ダマが残らないように、奇麗にまぜてね」

「焦げないかしら?」

「焦げそうになったら、鍋を少しずらして、火から遠くにすればいいよ。絶対に焦がしちゃだめよ」

「難しそうね」

「難しかったら、鍋を火から降ろして混ぜて、バターが固まったら、少し火にかけるようにするといいよ」

「解ったわ」

「バターと小麦粉が完全に混ぜ終わったら、ここに少しずつ牛乳を入れます」


 そんなこんな、真剣に鍋を覗きこみながらホワイトソースを仕上げて行く。何せ今回は、大鍋2杯と中鍋1杯分のホワイトソースなのだ。牛乳を混ぜる頃には、もったりとしているソースを混ぜるのに、腕が疲れ始める。さっきのマヨネーズ作りの疲労もじわじわと来ている。

 ブリットに代わってもらいながら、すべての牛乳を混ぜることができた。


「最後に、塩と胡椒を入れて、味を整えてね」

「焦げないように気をつける以外は、そんなに難しくないね」

「うん、簡単。味見して」


 出来たホワイトソースは美味しい、でも深みはそれほど無い。だって、旨味は野菜と肉からなのだから。

 それでも味見をしたブリッドは、嬉しそうな顔で『美味しい』と言ってくれた。


「それでは、これを鍋に入れましょう」

「なんだか、美味しそうにとろりとしているのに、入れてしまうの?」

「大丈夫、鍋で煮込めば、とろりとして美味しいから。それに、まだ入れるものがあります」


 私はコーンを取り出した。朝、雑貨屋の横で購入したコーンは、黒や白などの単色のコーンから、ビックリするような色とりどりのコーンがあった。日本人の私としては、コーンは白から黄色の範囲の色のものしか、美味しそうには見えない。購入したコーンを、どうにか作業の間合いを見つけて、茹でて、粒を芯からはずして、すり鉢に移した。ここにあるすり鉢は陶器製だが、乳鉢のようなものだ。だから、コーンを潰す。ひたすら潰す。よーく潰したら、鍋の汁を加えて、上に浮いたコーンの皮を取りのぞく。ちゃんと取れないけど、そのまま鍋に投入した。

 そして、作ったホワイトソースを5等分してそれぞれの鍋に入れた。もちろん、汁を少し移して、じょじょに溶かす作業は忘れない。


「これを煮込むだけで、美味しいシチューができるよ」

「そんなに、難しいことはないのね」

「でしょ? 手間がめんどくさいだけだよね」


 顔を会わせて笑い合う。

 ブリットは、最初の頃とは違って、緊張もなくなったみたい。私は、遠慮なくブリットが得意と言われる手芸のことをあれこれ聞いた。ブリットは、自分でヒツジの毛を紡いで毛糸にして、染めたりするらしい。フェルトのことを聞いてみたけど、やっぱり何のことか解らないようだった。その上、風呂はどうしているとか、髪を洗うには何がいいとか、いろいろ情報を聞き出せた。今日までのレギンとアーベルとの生活を体験して、思ったことは、『どこ行っても男は男は!』だった。

 ヒツジやウシなどの動物に接することがあるので、レギンたちは石けんで手を洗う。そんな場所には石けんはどこにでもあった。朝は食器を石けんで洗ったりもした。が、ブリットが言うには、食器を洗う石けんと体を洗う石けんは違うし、髪の毛の洗う石けんも別に存在しているらしい。私は、固定観念から洗うのはなんでも石けんなのだと思っていた。大間違いであった。

 うちでは、何でも同じ石けんみたいだと言うと、ブリットは信じられないと言う顔をした。


 やはり、身の回りのことは、女性に聞かなければ大変なことになる。ブリット先輩、頼りにしてます。


「エルナは編み物をする?」

「うん」

「手袋とか靴下とか?」

「編みぐるみとかも作るよ」

「編みぐるみ?」

「動物とかを編むんだけど……」

「どう言うこと?」


 えっ? 人形とか編まないの?

 編み物が生活にきっちりあるのに、毛糸で編んだぬいぐるみとか人形が無いほうがどうかしている。そう思ったが、もしかしたら、名称が違うのではないかと思ったのだが、動物とかを編むと言っても通じていない。

 ブリットは面白がって、今度教えて欲しいと言われた。が、私の編み物歴は、ほとんどが棒針編みで鍵針編みはあまりしたことがないのだ。だけど、編みぐるみだけはかなり詳しいのは、私が手がけた本、『夏休みの自由研究シリーズ 7巻家庭科3』で、いろいろと調べたり、取材したり、実際に作ってみたからだ。作ってみたのは、編み図が間違いのないものなのか、小学生が実際に作れるかの検証のためだ。だから簡単で編みやすく、サイズも小さいものばかりだ。

 ちょっと不安だが、やってみることにした。ブリットが毛糸やかぎ針をくれるというのだ。なんでも、子供の頃に使っていたかぎ針だそうだ。


「子供用なの?」

「エルナは、ランナルに会った?」

「ううん」

「雑貨屋のオロフさんの息子で、手先が器用なの。私が編みにくそうなのを見て、子供が持ちやすいかぎ針を作ってくれたの。今では、雑貨屋でも売っているし、近くの町でも流行っているのよ」

「すごいね!」

「あとね、鍛冶工房のハンスさんは、変なものを色々作るのが趣味でね、この前、銅で作ったネコを工房の前に置いていたから、通りかかる人がみんなビックリしてた。そのネコ、黒く塗ってあって、本物みたいなのよ!」

「面白そう!」


 ブリット先輩から聞けることは、日常のことばかりではなく、この村の人々についてもいろいろと聞くことができた。小さくても女の子なんだなぁ〜と、世界が変わっても変わらないものがそこにはあった。

 この村、どれくらいの人口なんだろう?


 夜の鐘が鳴り、ブリットと2人で、レギンとアーベルを手伝ってヒツジ達を羊舎に押し込める。ブリットは出来上がったシチューを荷台に乗せて帰って行った。レギンは荷車を引く為と、ボディーガードの為(?)について行った。

 その後、鍋に見たことも無い色の良い匂いのスープが入っているのと大騒ぎし、私がサラダを作っているのをアッフたちが邪魔した。いや、本当に邪魔をしたのでなく、早く食わせろだとか、味見をさせろと五月蝿かっただけなのだが、9歳の子供が4人もいると、それより小さな体の私にはとても脅威だったのだ。

 アーベルの機転で、4人は汗を拭いてくるように追い出され、1人で炉の前に取り残された。私は思う存分、やり残したシチューの味見や、パンを少しでも柔らかくしようとする試みや、プリンのできも確認した。後は、その時を待つだけだ。

《エルナ 心のメモ》

・レギンは支度月、ヨエルは酒の月、ブリッドは鳥の巣月、ダニエルは雷の月に生まれた

・エッバお婆さんは、この村で産婆さんをしていて、怪我や病気に詳しくて、治療の護符を使える

・フェルトはこの世界には無い?

・石けんは、髪を洗う石けん、食器を洗う石けん、手や体を洗う石けんの3つがあるらしい

・どこ行っても男は男は!

・毛糸で人形や動物を編んだりはしないみたい

・ランナルは、オロフさんの孫で、手先が器用

・ランナルの作った、子供用のかぎ編みは近在で流行っているらしい

・鍛冶屋のハンスさんは、銅でネコの置物を作ったが、本物みたいで皆を驚かせている

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