プロローグ
雪が降った。数十年ぶりの積雪量だった。東京は雪や大雨には弱く、交通網は混乱気味。
これから通勤のために、電車に乗る。いや、その前に駅まで歩いて行くのだけどね。
天気は良いのだが、足下がかなり危なっかしい状態だと思う。ヒールを履いて歩くのだろうか? それとも会社まではスニーカーなのだろうかと思いつつ、自分は迷わずにスニーカーに足を突っ込んだ。何たって、ジーンズ出勤なのだからヒールは選択肢に入っていない。いつもこんな格好かと聞かれると、そんなことはないんだけど。
私は、某出版社の編集の仕事をしている。
小学校の頃、調べもので活躍した6冊とか、12冊のシリーズもので、『○○の飼い方』とか『リサイクルを考える』とかの本を見たことがあるだろうか。そんな本の編集を主にやっている。本屋ではお目にかかれないが、図書館となると、必ず閲覧することのできる本。図書館用の本とも言える。
まぁ、そんなことはさておき、そのシリーズは、新年度に発売されるので、当然として、2月あるいは3月に印刷所への引き渡しが終わる。今年も、1年に渡る大仕事が3日前に印刷所へ納稿し終わった。
週刊誌の締め切り間際もかなりの修羅場だが、私の本の修羅場も凄まじい。ラストの2週間は家に帰れない。関わっている人や会社や団体が100を越えるために、ゲラの最終確認をする人数がバカにならない。
あぁ、また話しが脱線してしまった。
で、今日は、来年に発売するシリーズを何にするのか、ちゃんとした会議第1回の為の出社である。でもね、修羅場まっただ中で、「逃避」として幾度も話題に上がっているのだ、今更な感じがする。
そんなことを思いながら、外に出た。思ったほど寒くないが、足が冷える。
道に出ると、やたらに腰が引けている人々が目に入る。
私と言えば、足の裏に力を入れて歩くらいの注意でゆっくりと歩いていた。成人してから、雪道で転んだのは1度きり、それもヒールだったし。ただし、地球にエルボー食らわせた肘は無惨なことになった。
自分が転ぶなんて思わなかった。まさか人の巻き添えで転ぶなんて思いもしなかった。
後ろから人がぶつかってくるなんて!