武士道高雄は勇者か?
俺の名前は武士道高雄
刀の鍛冶屋をしている
俺の日課は朝六時に起き二時間剣の素振りをする
その後は朝食を取り
仕事をする
俺の仕事は不規則で毎日決まった時間に仕事をする必要はない
ただ客が多い場合
剣の素振りや師匠との稽古の時間をとっている余裕はない
ただそのケースは珍しいが
師匠との稽古は夜七時から一時間程度行う
師匠は強い
だが俺は最初のころと比べると随分上達した
師匠とほぼ互角に戦えている
「君、才能があるよ、城で護衛でもしたらどうだね?」
「いいえ、俺はあくまで鍛冶屋を続けるつもりです」
「そうか」
師匠は残念そうに言った
とりあえず俺の日常はこんなものだ
夜八時以降は食事を取りつつ浸すら筋トレに励む
最低でもどこの筋肉も一日100回以上は鍛える
俺の就寝時間は十一時
睡眠時間は七時間だ
極めて一般的だ
これが俺の日常だ
ある日
「ここは?」
俺は神殿の中にいた
「これは夢か?」
「違うわ」
その声が聞こえた途端目の前に少女が現れた
「お前は?」
「私の名前はアリサ・レイニード、あなたを勇者へと導く案内人といったところかしらね」
「俺が……勇者……?」
「ええ」
「悪いが俺は勇者になるつもりはない」
「どうして?」
「今の生活に満足している、毎日刀を打つのが楽しいのだ」
「でも、試練には興味はない?」
”試練”
俺はその言葉にとても惹かれた
普段から俺は自分に試練を化し厳しく鍛錬を積んでいた
「試練か……」
「勇者になる試練はとても厳しいわ、あなたに出来るかしら?」
「俺を甘く見てもらっては困る、これでも普段鍛えてるんだ」
「それじゃあ勇者になるための試練を引き受けてくれるのね?」
「勇者には興味はないがいいだろう」
「それじゃあ始めるわね」
アリサという人物がそう言った途端
彼女のとなりに木で出来た人形が現れた
その人形は木刀を持っていた
その人形は突然俺に最接近して木刀を振り下ろしてきた
俺は咄嗟にその木刀を避ける
「あら、結構やるじゃない」
アリサが感心したように言った
「ん?」
突然俺の右手に木刀が出現した
「それでこの人形と戦って」
俺は言われた通りに人形と戦った
人形は師匠と比べたら対したことなかった
人形は吹っ飛ばされたが即座に体制を立て直す
そしてもう片方の手から木刀を出現させた
二刀流だ
その後も人形との戦いを続けた
人形は二刀流の扱いも慣れていて
さっきよりも手ごわかった
しかし
俺は人形の隙を探し
その瞬間を狙って人形に足払いをした
人形が倒れる
そして俺は即座に人形の喉元に木刀を突きつけた
「おめでとう、第一関門クリアね」
アリサという少女はそう言ってニコリと笑った
「さあ、次の試練を与えてくれ」
俺は望むようにアリサに促す
「分かったわ」
彼女がそう言った途端風景が変わった
どこか村みたいなところにいた
ふと俺の視線はある女性に向いていた
女性は手綱を付けられて連行されていた
「今度はあの女性を助けるのよ」
頭の中で声がした
さっきのアリサという少女の声だ
「分かった」
俺は即座に了承した
これが次の試練か
「おい、そこのお前」
「なんじゃ?」
「何があったか分からないがその女性を離してやれ」
「それは出来ない」
「なぜだ?」
どうやら彼はこの村の村長らしい
村長は説明してくれた
この村には生贄の風習があること
洞窟の奥にドラゴンが住み着いていて
そのドラゴンに生贄を与えないと
村を襲ってくるそうだ
「そういうわけで仕方ないのじゃ」
「ならそのドラゴン、俺が倒そう」
「本当かね!?」
村長は驚いた様子だった
無理もない
ドラゴンは魔物の中で強い部類に入る
まあ俺の世界ではドラゴンなんていないが
「その代わり、その娘から手綱を外して欲しい」
「分かった、君の言うとおり娘を解放しよう」
そう言って村長は娘から手綱を外した
「あれ?」
いつの間にか俺が手綱をつけられるはめになった
「どういうつもりだ?」
「そなたがドラゴンを倒せるかどうか分からない」
「……」
「ましてや下手にドラゴンに攻撃するとドラゴンが怒り狂ってこの村に攻めてくるやもしれん」
「……」
「悪いがそなたには生贄になってもらう」
確かに村長の言う通りだ
たかが人間一人がドラゴンを倒せるはずがない
「分かった、俺が代わりに生贄になろう」
「すまんねえ」
村長はそう言うと俺を洞窟へと連行した
洞窟についた
洞窟の前には二人の門番がいた
「今回の生贄は彼ですか?」
「そうじゃ」
「見覚えがない人ですね」
「彼が代わりに生贄になってくれるそうじゃ」
「おおっわざわざこの村のために生贄になってくれるとは、感服するよ」
門番が俺に尊敬するような眼差しを向けた
「さて、ここからは自分一人で進みなされ」
「分かった」
俺はドラゴンの餌になるわけか
でも別に構わない
人を救うことが出来て俺は嬉しいのだ
俺はそのまま洞窟の奥に進む
しばらくすると
「あれ?」
手綱が消えていた
その代わり装備が変わっている
右手には剣が握られていた
俺は鍛冶屋だから分かる
この剣の質はとても高い
それと装備も変わっていた
黄金に輝いているのだ
「これからその装備でドラゴンと戦いなさい」
「それが次の試練か」
「ええ」
俺は洞窟の奥へとついた
そこにはドラゴンがいた
ドラゴンは俺を見るなりよだれを垂らしながら近づいてきた
俺は剣を構える
ドラゴンは俺の様子を察してきたのか
攻撃してきた
俺はそれを交わし
ドラゴンの元へ走り出した
そしてドラゴンの腹部を斬りつける
俺の持ってる剣は切れ味が良かった
質が高いと見込んだだけはある
ドラゴンは腹部から血しぶきを上げ
その場に倒れ込んだ
「おめでとう、第二関門クリアね」
「さあ、次の試練を」
「分かったわ」
また急に風景が変わった
村の中だ
しかし、何かがおかしい
そう、村の皆が俺に対して鋭い目線を向けていた
「この裏切り者が!!!」
その声がしたとたん村のみんなが俺に石を投げつけてきた
急な出来事で俺は戸惑っていた
「この村から出て行け!!!」
俺は仕方なく村から出て行った
俺は近くの木の影に腰を下ろした
「高雄、近々あの村に魔物が攻め込んでくるわ」
「何!?」
俺は驚いた様子で声を上げた
村の皆が魔物から襲われるのをどうしても食い止めたい
「それで俺にどうしろと?」
「村の皆に魔物が攻めて来ることを伝えて欲しいの」
「それが次の試練なんだな」
「そうなるわね」
俺は村の皆から敵視されている
そんな中でまたあの村に戻るのは普通のメンタルじゃ無理だろう
「また来たのか!! てめえは!!!」
村の皆が相変わらず俺に罵声を浴びせ、石を投げつける
でも俺は諦めなかった
ここで諦めたら武士道に反する
俺は何日にも渡って村の皆を説得した
ある日、本当に村の皆に魔物が襲われていた
「皆を魔物から助けなさい」
「分かった」
俺は魔物を次々と斬り倒していった
魔物は俺を見るなり襲ってきた
「ふう」
正直手応えは今までの中で一番なかった
装備のおかげもあるのだろう
「魔物からこの村を救って下さり有難うございます」
「前は石を投げつけてしまってすいません」
村の皆は俺に謝り、感謝の言葉をかけた
俺は照れくさくなった
「最終関門クリアね」
頭の中でその声が聞こえた途端、急に風景が変わった
さっきの神殿の中だ
しばらくすると目の前にアリサという少女が現れる
「次の試練は?」
「もうないわ」
「そうか、それは残念だな」
「あなたは努力家なのね」
「ああ」
俺は常に自分を高めていきたい
自分の体だってそうだし
鍛冶屋として刀の質を上げるのもそうだ
「それでは勇者の儀式を執り行うわ」
「悪いが俺は勇者になるつもりはない」
「そうね、でも」
「でも?」
「今すぐなる必要はないわ、あなたはあなたのしたいことをしなさい」
「そうか」
「でもいざというときはあなたの力を借りるかもしれない、いいかしら?」
「そういうことなら分かった」
「それじゃあ勇者の儀式を始めるわ」
「儀式?」
「あなたの頭の中にある映像の通りにして」
俺の頭の中に映像が流れてきた
姫がレイピアを男性の左肩に当てている
騎士への叙任といったところか
俺はアリサの元に歩きだし映像のように両膝を着く
俺の左肩にアリサはレイピアを当てる
「汝、努力を惜しまず日々鍛錬を続けると誓うか?」
「誓おう」
「汝、人の命を守るために自分の命をなげうつことを誓うか?」
「誓おう」
「汝、どれだけ理不尽な目にあろうとも怯まず誠心誠意生きると誓うか?」
「誓おう」
「最後に」
アリサは間を置いてこう言い放った
「汝、いかなるときも勇者としての誇りを持ち続けることを誓うか?」
「……誓おう」
「汝、真の勇者なり」
その言葉を聞いた神殿が輝きを放った
「おめでとう、あなたは勇者よ」
「今じゃないんだろう?」
「ええ」
「それじゃああなたを元の世界へ戻すわ」
アリサはそう言った途端
俺の額に手を置いた
俺の意識が遠のく
「これからも自分を高めていってね」
朝
俺は目を覚ます
「夢か……」
夢にしては妙にリアルだった
まあいいか
俺はいつもどおりの日常を行うのだった
武士道高雄
「 勇 者 合 格 」




