UFO同好会の新入生
2013年4月。前田健太郎、2年生。
「桜が咲き乱れるこのご時世、いかがお過ごしでしょうか」
と河野が突然しゃべりだした。聞いていたUFO同好会のメンバーは軒並みのけぞった。
ここはUFO同好会部室、時制は春。紙粘土みたいにカチコチな部長の前には初々しい新入生が埴輪みたいにカチコチになって座っている。
「河野、馬鹿かお前。礼儀正しくってさ、スピーチの礼儀と手紙の礼儀は違うんだよ」
と大宮司が突っ込んだ。
「じ、じゃあお前やってみろよ!」
と川野がうめいた。大宮司はやれやれ、しっかたねえなあ、やっぱり私が面倒見てあげなくちゃ、という目で川野を見た。
「新入生の諸君、よくここに来てくれた。この入部届けにはんこと拇印を押し、血の契約を結ぶまでこの部室を出ることは許されない」
埴輪みたいな新入生諸君は泣きそうな顔になった。
「いやいやいや、冗談だからね?」
訳あってテーブルの下に隠れている健太郎君は頭を抱えた。
「大宮司、お前もまだまだだな。厨二病の何たるかを分かっていない」
と森が言った。大宮司が目を細めた。
「分かりたくもねえ」
椛山が壁際からおずおずといった感じで口を挟む。
「先輩方はどんな風に勧誘されたんですか?」
河野が顎に手をやった。
「ん~~あのときは職員室に消火器ぶちまけた直後で」
「何やってるんすか!?」
健太郎君がテーブルを下から突き上げた。突き上げてから健太郎君は後悔したが、もう遅い。後ろで横山が天使の笑顔でメリケンサックを取り出した。
「健太郎、目障りだからテーブルの下に定住、いや永住しなさいって言ったわよね」
「いや、ははは、ぁ、いい天気ですね横山さ」
健太郎君は最後まで言い切ることができなかった。横山のとび膝蹴りがとんできて、彼はぎりぎりかわす。部室を跳ね回る二人、さらに萎縮する新入生。
「そうそう、で必死に隠ぺい工作したんだけど、結局ゴリラに感づかれちゃって。半ば脅しだったよね」
と大宮司が言葉を引き継いだ。
「へえ……て、全然参考にならねーな」
と岡本がしゃべった。
「は、へ、ふ、岡本、なんか助けてくれ!」
健太郎君が逃げる足を止めて岡本に懇願した。
「ざまあ」
と言ったきり岡本はPSPの世界に戻っていった。
「そんなのって、ないぜ!!」
健太郎が一歩下がる。さっきまで健太郎君の頭があったところに横山の拳が差し出される。
逃げ回る健太郎君はどうにかこうにか七転八倒の挙句、部室のドアにたどり着いた。ここをあけ、横山のバトルフィールドから戦略的撤退を図るのだ。ドアをガロリと開け、わき目も振らず外に飛び出して――やわらかいものにぶつかった。
「わっ!!?」
「ヒャァっ」
健太郎君は思わずひるんだ。そしてぶつかったものを見ると、それはとても可愛い、おそらく新入生の女子だった。その女の子は健太郎君の腕の中でしゃがみこみ、手のひらを上にして思いっきり立ち上がった。彼女の掌底が健太郎君の顎にクリーンヒットする。と同時に横山のドロップキックが彼の背中に突き刺さる。
「あなた、やるわね」
と横山がその女子に言った。
「え? あ、いえ。それほどでも」
とその女子が答えた。
「と、そこのあの、変態さん。大丈夫ですか」
足元で伸びている健太郎君に語りかけた。健太郎君は現実と夢の狭間を漂っている。
「ああ、それは大丈夫よ。こう見えて案外タフだから。気にしない気にしない」
横山が軽く流した。
部室の内側から何事かとみんなが顔を出していた。そのうちの一人、大宮司がその少女に語りかけた。
「志乃! なにしてんだこんなとこで」
「あ、お兄ちゃん」
その場の空気が凍りついた。
「妹……だと」
河野が呆然と呟いた。
「そんな。大宮司にそんなステータスがあるとか、俺は認めないぞ!!」
森が吼えた。大宮司がその頭をはたいた。
「黙れ厨二病」
「あ、はい。あの初めまして。大宮司です。入部希望です」
「大宮司ジュニアか。今年も波乱になりそうだ」
椛山が絶望的に呟いた。
「さてと。これで一人ゲットだな森!」
大宮司が森の肩をたたいた。しかしそこにいたのは森ではなく、大宮司も知らない女の子だった。
「「「「……誰?」」」」
その女の子は急にアワアワしだした。部室のホワイトボードまでかけていくと、大きく『森 ○○○』と書いた。
「これ見てください! 名前これです。入ります! 別にお兄ちゃんが入ってるからとかそんなのじゃなくて、別にお兄ちゃんの入ってる部活を引き継いでいきたいとかそんなのじゃないです!!」
それだけ言うと、森の背中にくっついて顔を伏せた。
「お前もいんじゃん、妹」
ニヤニヤして大宮司が言った。森は頬をぽりぽりと掻いた。
こんばんは。初めての投稿になります。
よろしくお願いします。