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エピローグ

 12月25日。


 一昨日から降り続いている雪は辺りをすっかり雪化粧で覆っていた。

 その中を幸輔はザクザクと音を立てながら、ある場所を目指して歩いていた。


「よ、一年ぶりだな」


 目的の場所に到着し、幸輔はそう言うと地面にスノードロップの花束を置き、墓石に積もった雪を丁寧に払う。


『桐生家之墓』


 そう書かれた墓石の前に幸輔は座り込み、途中で買ってきたワンカップを二つ取り出し、一つを墓石の前に置く。もう一つの蓋を開け、幸輔はグイッと飲み干す。


「ふー。お前とこうして酒を飲むのも一年ぶりだな。……つってもワンカップだけどな、ハハハ!」


 肩や頭に積もった雪を払い、幸輔は高らかに笑う。


「ったく……何もそんなに急いで雪希ちゃんの後を追わなくてもいいのによ。意外とせっかちだったんだなお前」


 幸輔は一年前の事を思い出す。


 雪希が死んだ次の日、夏輝もまた自宅のベッドの中で眠るようにその生涯を終えていた。

 死因は心臓発作。警察も事件性はなく、自然死という結論に達した。

 ただ一つ妙なところがあるとすれば、心臓発作という死因にも関わらず夏輝の顔は、まるで迷子になった子供が親を見つけたときの様な……そんな安らかな顔をしてたと言う。


 幸輔はその話を夏輝の親から聞いたとき、すぐに理解した。

 そう、これは妙な話でもなんでもない、と。


「雪希ちゃんもひでーよ。まだ夏輝には後2、3回は、酒を奢らせてやるつもりだったのよ」


 幸輔はそう言うと、グイッと残りの酒を飲み干す。 寒さのせいもあるのか幸輔の顔はすっかり赤く染まっている。


「ったく、俺とおばさんに感謝しろよ。二人が同じ墓に入れるように役所行ったり、夏輝の家行ったり……大変だったんだからな」


 真っ赤に染まった顔で幸輔は空になったワンカップをコトリと置き、次のワンカップの蓋を開ける。

 そして、幸輔はこの一年あった事……仕事のこと、楽しかったこと、腹が立ったことなどを時に笑い、時に怒りながら語る。


「そんでな~……っと。ハハッ、少し飲みすぎちまったかな」


 足元を見ると空になったビニール袋と、空になったワンカップが7本。


「まあ、その……なんだ。二人で仲良くやってるんなら俺はそれでいいと思ってる……。……だから! 一年に一回くらいはこうやって俺の愚痴の相手してくれよな~!」


 そう言うと幸輔は立ち上がり、ズボンに着いた雪をパンパンと払う。


「ん?」


 すると夏輝が「全く酔っ払いはしょうがないな……」と言いながら、雪希と並んで笑っている……気がした。


「ハッハッハ! そうだな! 確かにしょうがーねーや!」


 幸輔が大声で笑う。おかしくて涙がでてくる。

 幸輔は空を見上げる。どうやら顔が赤いのは寒さと酔いだけではないようだ。


「ハハッ! 湿っぽいのは俺はどうもダメだ! それじゃあ、まあ……また来るぜ!」


 空になったワンカップを片付け、身体に積もった雪を払う。

 これは……下手したら明日は風邪を引いてることだろう。


「おっと、そうだ。一個言い忘れてたぜ」


 幸輔は改めて墓石に……夏輝と雪希に向き直る。



 「夏輝、雪希ちゃん……メリークリスマス!」


 これにて「弱虫サンタのメリークリスマス」は完結です。


 3ヶ月間暖かく見守って下さった皆様、本当にありがとうございました!


 今週中には新作をあげる予定です。


 是非、そちらのほうもご拝読いただけたら幸いです。

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