生活四日目
生活四日目
起きたのは昼の12時半。
気を失って六時間がたつ。
なにもやる気がしない。
しかし、体は正直だ。
まっすぐパソコンの台に座る。
開く。
YAHOO JAPAN の検索ワードに「チート現る」が表示されていた。
クリックすると、昨日のデストロイ・オンラインで俺が敗北した事実が細かく表示されていた。
見るだけで吐き気がする。
メールが届いている。
駿だ。
ん?
あわてて玄関の扉をあけると駿が立ってていた。
駿「よ、よう。久しぶり。」
俺「久しぶりって毎日あってんだろ。で、何の用だ?」
駿「ま、まあな、しっかし、お前変わったなw 色んな意味で。」
俺「あ? なんも変わってねえよ。」
駿が少し笑った。
俺が変わったというのはおそらく、髪の毛の量やひげが生えていることだろう。
一般人から見れば、一目見ただけでニートとわかるだろう。
駿「お前、髪切れよw」
俺「うるせえよ、いいから出てけよ。俺を外に連れてこうとしてんだろ?」
駿「まあそんなところだな」
駿はそう言った後、俺を強引に外に連れ出した。
俺「なにすんだよ!」
駿「いいから、出ろって、ひきこもってばっかいんじゃねえよ」
俺「誰が原因だよ・・・」
半ば、小さな声で言った俺の言葉だったが、駿には聞こえていたらしく。
駿「悪かったよ。お前にあんなゲーム教えちまってさ。俺、考えたんだよ。何やってんだろうなって。
お前がそうなったのも、お前の人生めちゃくちゃにしたのも俺のせいなんだってな。」
俺「・・・・・・」
俺はその場で固まる。
駿はいきなり座りだして土下座をし始めた。
駿「悪かった、敬介。謝っても済むとは思わないけど、謝る。悪かった。」
俺「・・・・・・」
俺「いいから顔上げろよ。」
駿「え?」
俺「別にお前のせいだなんて思ってねえよ。そりゃあ原因はあるかもしれないけどさ、結局は俺が進んだ道だし、後悔もしてねえよ」
嘘だ・・・
そんなわけない。
駿を恨んだことがあるのは事実。
しかし最終的にここへたどり着いたのは俺自身の心。
駿は決して悪くはない。
駿「そ、そうなのか。でも・・・」
俺「いいからさ、そんな謝られても困る。」
駿「お、おう。」
駿は頭をあげて、同じ目線に立った。
俺「どっか行くんだろ? どこ行くんだよ。」
駿「あ、ああそうだったな。久しぶりにファミレスでも行かねえか?」
俺「わかった。」
なんだろう。
久しぶりに、リアルで話をした。
リアルで話をするだけでこんなに心は落ち着くものなのか。
日常では味わえない瞬間だった。
駿は半ズボンのジーパンに派手なTシャツ、おそらくブランド物か何かだろう。
対して俺は、長ズボンのジャージに半袖の無地のシャツ。正直、自分でも引いた。
歩いて10分ほどでファミレスに到着。
しかし暑い。
今は真夏。
何日もきているTシャツに長ズボンのジャージなんて外を見てもどこにもそんな変人はいない。
10分歩いただけで汗はダクダクだ。
店内に入って今までの落ち着きは一瞬にして去った。
店内に入るなり一般人の客は一斉に俺達の方に目が行く。
うわ・・・きた。この冷たい視線。
店員「お客様は何名様でしょうか?」
駿「二名で。」
駿が会話を済ませ、席を案内される。
よりにもよって、真ん中らへんの席だ。
俺「う・・・」
席に座ると周りを見てはいないが、視線が集中しているか怖くて震える。
駿「大丈夫だって。そんな見てねえからw」
俺「お、おう」
落ち着け俺。ここで落ち着かないと確実に変人扱いされる。いや、もうすでに変人だけど。
メニュー表を見ると、この三年間、まったく口にしていないようなものばかりが表示されている。
駿「なんでも頼めよ、今日はおごるからよ。」
それは嬉しいんだが、正直悩む、いつも食べていないとこんな気持ちになるのか。
このままじゃ、らちが明かないので、選択肢に絞った。
デミグラスハンバーグ、焼き肉とハンバーグのダブルセット、チキンとビーフハンバーグのチーズ焼き。
この三つに絞った。
・・・・・・・・・・・・
5分考えたのちにデミグラスハンバーグにした。
駿は待ち時間が五分もあったのにも関わらず、なにも言わずに待ってくれた。
駿は注文ボタンを押し、店員に注文を頼む。
駿「ドリンクバーなにがいい???」
俺「あ、じゃ、じゃあお茶で。」
駿「せっかくファミレス来たんだしもっといいの飲めよw」
俺「あ、ああじゃあミルクティーで頼む」
駿「あいよ!」
駿は嫌な顔一つせずにドリンクバーをとってきてくれた。
俺「あ、ありがとな」
駿「おう、いいってことよ。」
それからしばらくして、メインメニューが到着する。
駿「ほら、冷めないうちに喰えよ、もったいねえぜ?いただきやーっす。」
俺「ああ、いただきます。」
ナイフで切ってハンバーグを口の中に入れる。
・・・・・・うめえ。
ハンバーグってこんなうまかったか???
三年も喰ってないとこんなに味の違いに驚かされるとは・・・
言うまでもないが、この三年間まともな食事は取ってない。
ツナマヨのおにぎりとお茶しか記憶には残っていない。
これなら毎日ハンバーグでもよさそうだ。
しばし無言で食事が進む。
・・・・・・・・・・
駿「ああ、そういや昨日のことなんだけど。」
俺「あ、ああ。」
駿「お前、試合終わってすぐぶちったろ?だから朝もろくにパソコンみてないと思ってさ」
駿は携帯の画面を俺に見せてきた。
・・・・・・・・は?
俺は驚き、右手に持っていたフォークを机に落とした。
フォークの落とした音は結構でかく、周囲を驚かせた。
駿「ま、まあおちつけ。」
これが落ち着いてられるか。
書いてあることは、伝説のプレイヤーKEI敗北、の次の文章にチートプレイヤー出現。発見次第、アカウント停止。と大きな文字で書かれていた。
おいおい・・・・まじかよ。
駿「よかったな。まあ、お前より強いプレイヤーなんていねえよw」
ソーセージにかぶりつきながら駿は言う。
駿「んで、チートプレイヤー出現によりいったん、全プレイヤーのアカウントあずかって装備品とか復旧させるらしいぞ。」
・・・・・・・・・・まじか。
驚きのあまり、その場に倒れこんだ俺だった。