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滴る不協和音

作者: hiro0720
掲載日:2026/04/11


窓の外では、春の終わりの生暖かい風が街路樹を揺らしていた。カフェのテラス席、二人の間には修復不可能な亀裂が、一本のストローのように鋭く突き刺さっている。


「……ねえ、どうしてもそれ、やめてくれないの?」


里奈が氷の入ったグラスを左手で持ち上げ、右手をひらひらと顔の斜め前にかざした。まるで、これから口にする液体を聖なる儀式で清めるかのような、その独特のスタイル。彼女の指先が、午後の光を無意味に遮る。


「やめるのは君の方だろ」


健二は吐き捨てるように言い、右手でサイダーのグラスを掴んだ。そのまま、左手をぐっと腰に当てる。銭湯の脱衣所で牛乳を煽るような、あまりにも無骨で、あまりにも「雄」を主張するその構え。


「その腰の手が耐えられないのよ。まるで自分の正しさを誇示しているみたいで。もっとエレガントに飲めないの?」


「エレガント? 飲み物なんて喉の渇きを癒やすための道具だ。顔の前で手をかざすなんて、何かの宗教か? 視界が遮られて邪魔なだけだろ」


「これは『余韻』を慈しむための所作よ。あなたのそれは、ただの流し込み。私たちの関係も、あなたはそうやって雑に扱ってきたんでしょ」


里奈の冷ややかな視線が、健二の腰にある左手に突き刺さる。健二は鼻で笑い、勢いよくジュースを吸い込んだ。


「所作だの余韻だの、形ばかり気にして中身を見てないのは君だ。そもそも、その手に持ってるものを見てみろよ。……またミルクティーか。その、まとわりつくような甘さが君の執着心そのものに見えて反吐が出る」


「なんですって?」


里奈の右手が、わななきながら顔の前で静止した。


「私はこのミルクの優しさに救われてきたの。あなたの選ぶ、その喉を突き刺すような炭酸の暴力性とは違う。シュワシュワと弾けて、結局は何も残らない、あなたの薄っぺらな言葉みたい」


「炭酸は『刺激』だ。停滞した空気を打ち破るエネルギーだよ。君のミルクティーみたいに、濁っていて、甘ったるくて、いつまでも舌に残る未練がましさとは無縁なんだ」


「未練? 笑わせないで。その腰に手を当てた傲慢なスタイルで、一生刺激だけを求めていればいいわ。ゲップと一緒に、私との思い出も全部吐き出せば?」


里奈はガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。左手のミルクティーは半分以上残っているが、右手は最後まで、毅然と顔の斜め前に掲げられたままだった。


「……最後くらい、同じ構えで飲めると思ってたよ」


健二は腰から手を離さず、炭酸が抜けてただの砂糖水になった液体を見つめた。二人の間のグラスは、もう二度と触れ合うことはない。


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