2話
ジャーマニー国において、その名を知らぬ者はいない最高峰の学び舎、王立パトリシア学院です。
白亜の石材を惜しみなく投じたその外観は、整然とした列柱と巨大な円形ドームを戴く、荘厳な佇まいを見せています。
しとしとと静かな雨が降り注ぐ中を、一人の青年が悠然と歩んでいました。
新たに剣術教師として招聘されたSランク剣士、クリス・ベーコンです。
鍛え上げられた大きな体格は、彼が潜り抜けてきた死線の数を無言で物語っています。やる気に満ちたその表情は、若者らしい清々しさに溢れていました。
しかし、ただ一つ、奇妙な点がありました。
彼は傘を差していなかったのです。短く切り揃えられた黒い髪はすでにたっぷりと雨水を含み、限界を超えて一滴、また一滴と滴り落ちています。
衣服も重く湿っているはずですが、本人は一切気にする様子がありません。まるで、この程度の雨は呼吸をするのと変わらない、日常の些事に過ぎないと言わんばかりの足取りです。
彼が広大な校庭のちょうど真ん中に差しかかった、その時でした。
「――止まりなさい、新任教師!」
唐突に放たれた、硬く、それでいて鈴を転がすような若い女の声です。それが雨音を切り裂き、クリスの鼓膜を激しく震わせました。
クリスが足を止め、雨に濡れた顔を上げると、視線の先には一人の少女が立っていました。
制服の上から革の胸当てを固く締め、右手には刀を握っています。激しい敵意を宿したその瞳は、雨の中でも消えることのない炎のように燃え上がっていました。
「あなたが、ケント先生の席を奪った男ね」
金色の髪を高い位置でポニーテールにまとめた、気の強そうな長身の少女が、仁王立ちになって腕を組み、吼えるように言いました。
驚くことに、彼女もまたクリスと同じように傘を差しておらず、雨に打たれるままになっています。
「誰だ君は?!」
クリスが問い返すと、少女は一歩踏み出し、勝ち気に胸を張りました。
「私の名前はアイナ。このパトリシア学院の三年生よ!」
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