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18話

 ケントの答えに、アイナの体がぴくりと反応しました。


「事件直後からカズヤは学校に一度も姿を見せていません。あの夜、私が負わせた手傷が原因でしょう」


「それは疑う根拠になりますな」


「カズヤは授業態度が悪く、以前に私が一度厳しく注意したことがありますが、彼はそれを逆恨みしていました」


「そして事件によって手傷を負わされ、怒りに火がついたと……」


「先日などは、ついにこの家に火を放とうとしてきました。幸い小火ぼやで済みましたが、もし本格的な火事になれば、他の家族まで犠牲になっていたはずです」


「どうして……どうして私に相談してくれなかったんですか!」


 アイナは悲しそうな声を上げました。


「私は先生だからね……」


「先生とか生徒とか関係ない! 困っていたなら言ってくれれば、私がぶん殴ってやったのに! それか父に頼んで、そいつらに罰を与えてやったのに。そうすれば、先生が辞める必要なんてなかったのに!」


 ケントは寂しげに微笑みました。


「王立学院は最高峰の学び舎ですが、アイナ君のように素直な生徒ばかりではないのです。親の権力を笠に着て、私のような一般市民を塵としか思わない者もいる。……私は、もう疲れました」


「これから、どうするつもりですか?」


 ブライトの問いに、ケントは遠くを見つめるような瞳で答えました。


「田舎に帰ります。この地を離れれば、さすがに相手も諦めるでしょう。幸い、王立学院で教鞭を執った経歴があれば、田舎で職に困ることはありません。あいつらを許せない気持ちも、アイナ君に稽古をつけたい思いもありますが……私には今、何よりも守らなければならないものがあるのです」


「守らなければならないもの?」


 ブライトが問いかけると、ケントは隣の部屋の扉に向かって優しく声をかけました。


「入ってきなさい」


 現れたのは、長い髪の美しい女性でした。彼女のゆったりとした服の上からでも、そのお腹が大きく膨らんでいることは、誰の目にも明らかでした。


「私のパートナーです。見ての通り、お腹には私たちの子が宿っています」


 リビングにいた全員が、言葉を失いました。


「突然の退職で多大なご迷惑をおかけしたことは、本当に申し訳なく思っています。ですが……私は何よりも、この新しい家族を守らなければなりません。どうか、ご理解ください」


 ケントは深々と、長く頭を下げました。その姿には、一人の剣士としてではなく、一人の男として、そして父親としての揺るぎない覚悟が宿っていました。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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