16話
「まあ、重要なのはこれから何をするかです」
レードン警部を睨みつけていたアイナに向けて、ブライトは優しく諭すように言いました。
「まずは、ケント先生に直接会って、あの日何があったのか詳しく聞いてみましょう。……そうでしょう、警部?」
「その通りですよ」
レードン警部はニヤリと笑いました。
「実はもうすでに、ケントさんとは連絡を取っています。これから訪ねていく約束になっているのです。手遅れだとしても、何もしないよりはましでしょう。ブライトさんには今まで、なんだかんだとお世話になっていますし……何よりアイナさんは『王女様』でいらっしゃいますからね。これでは我々としても、捜査せざるを得ませんよ」
「気に入らないな。警察は相手の立場によって態度を変えるべきではない」
アイナの若く強い瞳を見て、レードン警部は苦笑しました。
「素晴らしい意見だとは思いますよ。だけどね、王女様。ここは天国じゃないのです。だから、できる範囲でやるしかないのです。理想や正論なんてものはね、現実の前では何の役にも立たないのですよ」
「あんたの説教なんか聞きたくない」
「おおっと! さすがは王女様、すごい迫力だ。くれぐれもこの件で王に私のことを悪く言わないようにお願いしますよ。最初にこの事件を担当したのは、私ではないのですから」
「茶化すな」
アイナは鋭い目で睨みつけました。
「いやー、迫力のある好い目をしています。ゾクゾクしますな……」
「なんだこいつ」
「まあまあまあ……」
ブライトは場を和ませるように、明るい表情で言いました。
「けどブライトさん!」
「気持ちは分かりますよ。けれど――」
「私はレードン警部の協力が必要だと思った。だから来てもらったのです。それなのに、始まる前から喧嘩をするのはよくありません」
「出発の前に、まずは腹ごしらえをしましょう。ちょうど昼時ですから、お腹も空いているでしょう。警部も一緒にいかがですか?」
「それはありがたい」
レードン警部は、何事もなかったかのように笑いながら答えました。
「父上! 実はさっきから美味しい匂いがしていて、何だろうと楽しみにしていたのです。今日のメニューは何ですか?」
アイナとレードンの諍いなど我関せずとばかりに、クリスは目を輝かせています。
「今日は肉たっぷりのカレーだ。クリスの大好物だろう?」
「やった! 嬉しい。私、カレーが大好きなんだ!」
キッチンへ向かったクリスは、ジュリアと共にリビングへ戻ってきました。お盆の上には、卵サラダや取り皿などが載せられています。
「母上! 私は大盛りでお願いします!」
「……大盛り、ですね。分かりました」
クリスから「母上」と呼ばれることに、ジュリアはまだ少し恥ずかしさを感じているようでした。それでも小さな声で、嬉しそうに答えました。
「トッピングはどうしますか? 目玉焼きと、チーズと、ほうれん草がありますが……」
「全部! 全部でお願いします、母上!」
クリスの明るい声が、事件の影が差していたリビングの空気を、一気に華やかなものへと変えていきました。
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