12話
アイナは、これまでの明るい口調とは一変し、重い沈黙を破るように語り始めました。
「ケント先生がお辞めになる数週間前でしょうか。私は暴漢に襲われるという事件に遭いました」
「その話、詳しく聞かせてください」
ブライトの静かで射抜くような視線が、アイナをとらえました。
「あれは、いつものように放課後の居残りで、ケント先生からたっぷり剣術の稽古をつけてもらった後のことでした。その日はいつもより遅くなってしまい、辺りは真っ暗でした。先生が『家の方向が同じだから途中まで一緒に帰ろう。何かあったら危ない』とおっしゃったので、送ってもらったのです」
アイナは、当時の光景を思い出すように斜め上を見上げました。
「途中でチュロスを買い食いしながら歩き、分かれ道でお別れをしました。とても楽しい帰り道でした。ですが……別れてしばらくすると、木の影から覆面をかぶった怪しげな男が二人現れたのです。気がつけば、横の茂みからもさらにもう一人。私はとっさに大声を出しました」
「子供の頃から『お前は声が大きすぎる』と言われてきましたが、それが役に立ちました。夜で人通りは少なかったけれど、まったくいないわけではありません。男たちが明らかに戸惑ったのが分かりました」
アイナは拳を握り、話を続けました。
「これは好機だと思い、剣で斬りかかろうとした、その時でした。後ろからケント先生の声が聞こえてきたのです。勇気が体にみなぎるのを感じました。相手は数が多いけれど、時間を稼げれば先生が助けに来てくれる。私は横の男を斬るフェイントを入れて敵の足を止めつつ、先生と別れた場所に向かって走りました。追いつかれるかもしれないとドキドキしましたが、無事に先生と合流でき、男たちと向き合ったのです」
「それから何度か応戦しましたが、相手も私に劣らぬほどの剣士で、お互いに決定打に欠けたままでした。けれど、ケント先生は違いました。さすがはAランク剣士です。男の悲鳴が聞こえ、左手を負傷するのが暗闇の中でもはっきり見えました。傷は浅いようでしたが、このままいけば勝てる――そう思いました。しかし、怪我をした男が退却を宣言して逃走すると、他の二人も遅れて逃げ出しました。私は追いかけようとしましたが、先生に『追うな!』と指示されたので、素直に従ったのです」
「……何事もなくて、本当に良かったです」
ジュリアが祈るように手を組み、ほっとした表情で言いました。
「その後はどうしましたか?」
ブライトの問いに、アイナは答えました。
「自宅まで先生が送ってくださいました。先生はしきりに反省していて、『これからは家までしっかり送るようにするよ』とおっしゃっていました」
「警察には?」
「後日、言いに行きました。調査をすると言ってはいましたが、その後は何の連絡もありません」
「なるほど……」
ブライトは腕を組み、深く考え込みました。
「ケント先生が突然職を離れることになったのは、それが原因だと考えるのが普通でしょうね」
「そんな……私のせいで……」
アイナは悔しそうに拳を握りしめました。
「これは、しっかりと調査をした方が良いでしょう。ことによれば、アイナさんの身に再び危険が及ぶかもしれない」
ブライトの真剣な表情に、リビングにはただならぬ緊張感が漂い始めました。
「とりあえず今回の所はこれで終わりにしましょう」
「え………?」
「私の方でも色々と手を回しておきます。事件解決の目途が立ったらまた集まって話をしましょう」
穏やかながらもブライトの口調には有無を言わせぬ力強さがありました。
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