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10話

 


 リビングの大きな木製テーブルの上に並べられたのは、温かな湯気が立ち上る見事な家庭料理の数々でした。


「わあ……! 美味しそう!」


 アイナの瞳が、テーブル中央の大皿に釘付けになりました。そこには飴色に輝く大きな肉の塊――『ダスティンポーク』の角煮が、煮汁をたっぷりと纏って鎮座していました。


「いただきます!」


 クリスが我慢できないといった様子で、大盛りの麦飯を片手に角煮を一切れ口に運びました。アイナもそれに続きます。一口噛みしめた瞬間、彼女の表情が驚きに染まりました。


「……信じられない! 私、こんなに美味しいダスティンポーク、食べたことがありません! 全然土臭くないし、口の中でとろけます!」


 ダスティンポークといえば、土魔法で泥の中に潜む魔物です。その肉は安価ですが、独特の泥臭さが強く、一般的には「安かろう悪かろう」の代名詞です。しかし、この角煮にはその欠片もありません。


「父上は腕のいい冒険者から直接、魔物の肉を買い取っているんだ」


 クリスが自慢げに言いました。


「一体どうしてそんなことを? 確か、冒険者は倒した魔物を冒険者ギルドに持ち込んで、そこから肉屋に卸されるはず……。そこで普通に買うのとは何が違うのですか?」


「いい質問だね、アイナさん」


 ブライトがゆっくりとした口調で説明します。


「ギルドは冒険者から肉を買い取ってはくれるが、あまり細かな査定はしないんだ」


「細かな査定?」


「同じ種類の魔物でも、倒し方によって肉の味はまったく異なるんだ。血抜きや内臓の処理の仕方、倒すのに時間を掛けないことも重要だ。だけど、それらをしっかりやったとしても、ギルドは一定の値段でしか買い取ってくれない」


「なぜですか?」


「それは、冒険者から持ち込まれる大量の肉を、ギルドは毎日処理しなければならないからだ」


「あっ……」


「細かな査定をしていては、いつまで経っても仕事が終わらない。だから、そうするしかないんだよ」


「なるほど……」


「丁寧に処理された上質な肉であれば、ギルドの買取金額の五倍から十倍の金額で、私は買い取るからね。だからこそ冒険者たちは、戦いの最中でも最高に丁寧な仕事をして、一番にここへ持ってきてくれるんだよ」


「だからこんなに美味しい料理になるんですね……」


 感心した顔をしながら、アイナは肉の塊を口の中に放り込みました。


「質の良い肉を美味しい料理にするためには、料理人の腕が重要だ。ジュリア、この角煮の調理方法を教えてくれないか?」


「あ、はい……」


 同じテーブルにつきながら一人だけあまり会話に参加していなかったジュリアが、戸惑った様子を見せた後、小さな声で話し始めました。


「あ、あの……お肉を煮込む前に、生姜とクローブという香辛料を使って、一度しっかり下茹でをして……それから、隠し味に酸味の強い林檎のお酒を加えているんです。そうすると、ダスティンポーク特有の脂の重みが消えて、旨味だけが残るので」


 アイナは感心しきった様子で頷きました。


「こんなに美味しい物を作れるなんて凄いですね! 私は全く料理が出来ないのでちんぷんかんぷんですが、なんだか大変そうだということは分かりました」


「その通り! こんなに美味しい料理を作れるかたが新しい母上だなんて、私も嬉しいです! うん、美味い美味い!」


 絶賛されたジュリアは、顔を真っ赤にしながらも、本当に嬉しそうな笑みを浮かべました。


「あ、ありがとうございます……。そう言ってもらえると、頑張って作った甲斐がありました。もし良かったら、冷めないうちにたくさん食べてくださいね」


「うん、そうしよう! アイナさんにクリス、どんどんお替わりしてくれよ」


「任せてください! 全部食べ尽くしてみせますよ!」


 食卓は温かい雰囲気に包まれていました。



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