1話
抜けるような青空の下、古の熱狂を閉じ込めたかのような円形闘技場が、その威容を誇示しています。
砂が敷き詰められたリングの周囲には、鍛え上げられた肉体を持つ厳めしい顔つきの男たちが、百人ほど集まっていました。
張り詰めた空気の中、男たちよりも一段高い場所に設けられた観覧席から、立派な顎鬚を蓄えた体格の良い男が朗々と声を張り上げます。
「ただいまよりジャーマニー国Sランク剣士認定試験を始める。ルールは、今からランダムに選ばれた三人と対戦してもらう」
顎鬚の男は全員の顔を見渡し、しばらく間を置いてから再び語り出します。
「言っておかねばならぬのは、勝利だけではなく戦いぶりも評価されるということだ。つまり、三戦とも勝利したからといって必ずしも認められるわけではないことを肝に銘じるように。なお、この度はイブラヒム国王も視察しておられる。剣士として恥じることのない戦いぶりをするように。承知したな?」
居並ぶ男たちの喉から、腹の底を揺さぶるような気合に満ちた返声が放たれます。
その凄まじい振動は闘技場の重厚な石壁を伝い、大気をびりびりと震わせながら響き渡ります。
「それでは第一試合を開始する!」
*
「うおーーー!!」
体格のいい短髪黒髪の男は、参加者の中で人一倍大きな声を上げながら、直線的な剣を振るっています。
その力強さは、まるで突進するイノシシのようです。対戦相手の剣士は防戦一方に追い込まれていました。クリスの剣先が振るわれるたびに、相手の剣は濁流に呑まれた枝のように左右へ弾き飛ばされていきます。
「うわーーー!」
ついには耐えきれなくなった騎士の剣が、高い音を立てて宙へ弾き飛ばされました。
「参った! 参った!」
膝をついた騎士が降参を叫びます。その瞬間、甲冑を身に纏った審判が右手を高く突き上げました。
「勝負あり! 勝者、クリス・ベーコン! これにて二勝無敗!」
審判の宣言に、クリスは満足そうな表情を浮かべて力強く頷きます。その様子を、上層の観覧席から見つめる二人の男がいました。
一人は、この国の王イブラヒムです。壮年の彼は銀色の髪をオールバックに整え、豪奢な椅子に深く腰掛けて、食い入るように試合を見つめていました。
その隣に控えているのは、騎士団長サイファーです。赤髪の坊主頭に鈍く光る甲冑を身に着けた歴戦の武人です。
王が低く重みのある声でサイファーに問いかけます。
「あれは、ブライト・ベーコンの息子だな」
「はい」
王は視線を試合場から外すことなく、さらに問いかけます。
「どう見る?」
「基本に忠実な剣です。正直、面白味には欠けますが、その分だけ穴がありません。しかもスピードとパワーが圧倒的です。あれを正面から止めるのは容易ではないでしょう。現に、他のAランク剣士たちを完全に圧倒しています」
王は深く頷きます。
「強者の子は、強者か……」
「人類史上初めて魔女の塔で百階層到達を成し遂げた、伝説の探索者パーティー『龍の髭』。その一員であるブライト・ベーコン。国王陛下は昔からの馴染みだと伺っております。一体、どのような男なのですか?」
王は少しだけ目を細め、遠い記憶を辿るように答えます。
「馴染みというほどのことでもないがな……外見の印象としては驚くほど普通だ。髪色は息子と同じ珍しい黒色だがな。昔はかなりの荒くれ者だったらしいが、私の前ではその片鱗も見せたことはない」
「一度、手合わせ願いたいものですな」
武人らしい期待を込めたサイファーの言葉に、王は苦笑して首を振ります。
「止めておけ。化け物は放っておくのが一番だ」
「それは残念です」
二人が言葉を交わし終えた頃、再び階下から審判の凛とした声が響き渡ります。
「勝負あり! 勝者、クリス・ベーコン! これにて三勝無敗!」
クリスの圧倒的な実力が、闘技場を完全に支配していました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




