天才たちの会話
十分もたたずに学校に到着した。いいや。そうさせたのだ。
昇降口だけ無駄に豪華な吹き抜けづくり。耐震工事をしてもなお倒壊の危険があるため、完全改修したせいだ。あとはおんぼろの学校。和式トイレとがたがたの椅子と机は今すぐにでも回収してほしい。
少し背伸びをして下駄箱に靴を入れる。学生の話す声が一階と二回で混ざるため雑音が大きく響く。これを聞いてやっと学校に来たんだと認識する。
「ラブレターは入っていた?」敬ちゃんが僕に聞いた。いつもの敬ちゃんの常套句だ。
「残念ながら僕の伸長じゃ入っていても奥まで見えないよ」
「見てあげようか?」
「いいよ。どうせ入ってないし」
「どれどれ」僕より身長の高い敬ちゃんが僕の下駄箱をのぞき込む。
「入ってた?」
「まだまだこれからだよ」
「その答えで中身が分かったよ」
「もしかしたら透真君にしか見えないかもよ」
「今日はファンタジーなことを言うね」上履きを履いた僕らは同じ教室に向かう。
「そうかな」
「何かいいことでもあった?」
「かもね」
「それは何にもないときに言うことだよ」
「だから何でもないんだろうね」
「そうなんだ」
ドアが開かれた教室に入る。僕は周りの席の子に挨拶をしながら席に着く。
「おはよう。誉ちゃん」敬ちゃんが先に僕の横の席の女の子に挨拶をした。
「おはよう優等生」僕も続けて挨拶をする。
「おはよう敬ちゃん。あと透真も」
読書をする手を止めて優等生という誉め言葉にイライラしても挨拶を返してくれる。優しい奴だ。反町誉。勉強がものすごくできる女の子。昔からの付き合い。一度疎遠になったが幼稚園のころからの仲だ。
僕らは自分の席に着いた。僕の横が誉で僕の前に敬ちゃんの席がある。
「髪おしゃれだね?」敬ちゃんが誉に聞いた。
「ありがと」誉が答える。
「透真はわかった?」
「さては前髪きったな?」僕は指を鳴らして自信満々に答える。
「違う。シュシュでまとめただけ」あきれた声で僕を見る誉。
「手裏剣でも投げたの?」
「違うよ透真君。誉ちゃんの髪留めのことだよ」敬ちゃんから指摘を受けるが、よくわからない。
「これくらいは常識よ」
「じゃあ、シュシュの語源は?」僕は誉を馬鹿にするために聞いてみる。
「かわいいをフランス語で言うとシュシュになるからよ」誇るでもなく淡々と答える誉。
「へ~。勉強になった」感心する敬ちゃん。その横で静かに悔しがる僕。
「そういえば敬ちゃん野球上手なんだね。知らなかったよ」誉が敬ちゃんに話す。
「見に来てくれたの?」
「あんなに速い球投げられるんだね。しかもサイクルヒット達成おめでとう」
「たまたまだよ」敬ちゃんは謙虚な姿勢を崩さない。一度くらい驕り高ぶってみてほしい。傍若無人っぷりを期待してしまう。
「とにかくかっこよかったよ」誉が敬ちゃんを褒めた。
「ありがとう誉ちゃん」
「透真もいたんだっけ?」
「外側にいたよ」
「活躍してた?」
「もちろん」僕は自信に満ちた表情で、満々に答える。
「いつ?」
「敬ちゃんに誘われた時」
「それを活躍にして透真はいいの?」
「十分な活躍でしょ」
「役不足じゃないの」敬ちゃんが僕に言った。
「ん?もしかして罵倒している?」僕は敬ちゃんからの罵倒を上手に拾う。
「え?」敬ちゃんが僕をじっと凝視してきた。
「敬ちゃん。しょうがないよ。私達じゃ太刀打ちできないほどの馬鹿なの。前も同じこと指摘したけれど覚えていられないの。私の教え方じゃあ力不足なのよ」誉が頭を抱えた。
「そんなことないよ。ね、敬ちゃん」
「うん。」目をそらす敬ちゃん。
「ちょっと⁉自信なさげに言うのはやめてほしいな」
「良かったじゃない。少しは希望が残っているらしいわよ。敬ちゃんのやさしさね」
「大丈夫。いざとなったら誉ちゃんと二人で勉強を教えるよ」
「え。私も教えるの?」意表を突かれた誉が敬ちゃんを凝視した。
「だめだった?」誉のリアクションに驚いた敬ちゃんも固まっていた。
「ううん。二人でならいいわ。そうでもしないとね…」そういって誉は僕を見た。
「ありがとう誉」
「でも私の手を煩わさないでよ」
「僕は馬鹿じゃないから大丈夫だよ」
「それ。馬鹿の初期症状」
「ぶっ」敬ちゃんが噴出したように笑った。
授業の予鈴が鳴って学生が席に座る。
席に戻る敬ちゃんの背中を見て、朝の楽しい会話が終わったことがわかる。上機嫌な敬ちゃんともっと話したかった。
誉が僕を見る。僕が目を合わせるとそっぽを向いた。何となくだけれど言いたいことは伝わる。いや。言いたくないことだった。誉なりの気遣いだろう。
僕は授業の準備を始めた 。
ご覧いただきありがとうございました。
この物語は完結済みのため、添削でき次第投稿します。
次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしております!




