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天才の作法

 試合が始まった。小雨が降る。僕らはピッチの端っこ、コーナーフラックの近くで立ちながら試合を見ていた。二人肩を寄せ合いながら透明なビニール傘に入った。軽い音が内側に反射している。


 中学生の試合は代表戦より試合の速さは遅いけれども、知っている人が出ている分退屈にはならない。敬ちゃんはベンチにいる。というか敬ちゃんともう一人しかベンチにいなかった。


 これはアマチュアの試合を見に行かないとわからなかったことだが、父兄の声が意外と大きい。とても熱心に応援…というかダメだしというか、とにかく熱い思いを口に出していた。


 時々誉に『今の何?』って聞くと全部しっかりと説明してくれる。どうやら負けたら終わりのトーナメントの公式戦らしい。こっちのチームに三年生はいないから引退する人はいない。一回戦なので両方とも弱いチームなのだとか。しかも相手は一回戦負けの常連。いつも五点差くらいで負けている。がこっちのチームも強いわけではないらしい。


 そんな情報どうやって手に入れたんだろうか。公式記録までも閲覧しているのだろうか。そんなどうでもいい質問をする合間がないくらい僕らはサッカーを見ていた。


 前半のほとんどの時間、僕らの中学が主導権を握ってサッカーをしていたと思う。面白いくらいパスが回って、シュートまでいける。あ、惜しい。でも決めきれない。勝って当たり前の空気感はよくないと誉が冷静に僕に話してくれるが、空気感で場を支配してしまえばメリットしかないと思う僕は素人丸出しだと言われた。


 後半に入っても動かないまま。


 残り二十分で敬ちゃんが準備運動をする。


 赤と黒のストライプのユニフォーム、二十二番をつけてシャツとレガースを入れる。


 真っ黒の審判の服の横でぴょんぴょん跳ねて最後のウォーミングアップをしている。


 選手交代してコートの反対側に走っていた。だぼだぼの長袖インナーがただものじゃない感を出している。


 誉に聞いたらワントップというポジションで出場しているらしい。役割を聞いたら最前線で、ゴールを取るポジションらしい。


 敬ちゃんにすぐにボールが渡る。


 足の裏でトラップした敬ちゃんは、対峙した相手選手を一枚簡単に抜いた。


「誉。いま、敬ちゃん何したの?」


「足の裏でボールをタッチして、上半身のフェイントを入れて、ディフェンスの重心をずらして、抜いたの。本当に敬ちゃんうまいわね」


「でしょ?」


 僕は自分のことのように喜んだ。


 敬ちゃんにボールが来る。寄せてきたディフェンスを一枚剥がして、ゴールから離れたところからのシュート。枠をかすりながらネットに吸い込まれる。ネットに溜まっていた水滴が一斉に落ちた。


「誉見た⁉」ゴールを決めたのが敬ちゃんと言うこともあって、スーパーシュートにとてつもなく興奮してしまった。


「ええ、見てたわ。サッカーもうまいのね。プロ選手みたいだった」興奮気味に聞く僕をなだめるかのようにやさしく行った。


「俊介みたいだね」


「右足だから憲剛でしょ」


「誰?」


「サックスブルーのバンディエラよ」どや顔で話してきた誉をスルーして試合に戻った。


 大事な先制点を取ってチームメイトとハイタッチする。勝たせるためにスポーツをする姿はまさに助っ人。ハイタッチをした後こっちに手を振ってきた。僕も大きく手をふる。誉は小さく振った。


「恥ずかしいの?」僕は縮こまってた誉に聞いた。


「まだ勝ってないでしょ」冷静な分析が口から出てきた。


「そうだね」


 誉と意見を合わせたが僕にはか勝つ自信があった。根拠?敬ちゃんがいるから。敬ちゃんが本気を出している。それ以上に有力な根拠なんてない。


 しかしそれは不運な形で叶う。

ご覧いただきありがとうございました。

この物語は完結済みのため、添削でき次第投稿します。

次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしております!

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