天才へ送れないメッセージ
「ごちそうさま」
「気を付けてね」
「敬ちゃんも」
僕は店を出た。お腹が苦しい。町中華の量を舐めていた。しかも炭酸まで頼んでしまった。ギリギリ食べれたがはちきれそうだ。
風が強い。暖簾がぱたぱたと靡く。もう九時過ぎ。国道の車のラインナップが変わり始める。トラックと走り屋とタクシーがメインになってくる。大人の時間だ。昔はドキドキした。お酒の自販機でチップスターを買った時が頂点だった。もう目新しいものはない。
ポケットの中の携帯電話が鳴る。
まぶしい画面を見る。父親からだった。
「もしもし」
『元気か。透真』
「うん。そっちは?」
『元気だよ。もちろんお母さんもね』
「だろうね。元気がない姿が想像できないよ」
『そうか。そうだったね。もうご飯は食べた?』
「うん。友達と夕飯食べたよ。そっちは何時なの?」
『朝の九時くらい。透真は最近どう?』
「何も変わらないよ」
『ならよかったよ。口座のお金の減りが少ないけれど何かあったのか?』
「何もないよ。今まで使いすぎていたことに気が付いたんだ」
『再来月には帰れそうだからご飯でも食べに行こう』
「そうだね。また母さんは帰ってこないの?」
『あの子は忙しいからね。毎日楽しそうに仕事をしてるよ』
「幸せそうだね」
『…さみしくないか?』
「少しね。別に会えないわけじゃないからそんなにだよ」
『そうか。僕はさみしいよ』
「へへ、そうなんだ」
『あの子も同じ気持ちだよ』
「」
『あの子は器用じゃないからね。解ってあげてとは言わないけれど知っておいてほしい。だから透真がちゃんと大きくなっていることは伝えておくよ』
「うん」
『あの子に伝言あるかな?』
「お仕事頑張って」
『あぁ。わかった』
「ばいばい」
『またね』
静かな夜の道に戻ってくる。携帯の画面がまぶしい。照らされているのは僕の顔くらいだ。母親とのトーク履歴を見る。数件の着信履歴だけ。それ以外何もない。この携帯が壊れてしまえば連絡をとることさえできない。もう声も忘れかけている。
僕は機会がなければ母親と話ができない。家族というにはあまりにも薄い関係。歪というほど交わりがない。かかわりはない。
便りがないのは元気な証拠だと世間は言う。実際は逆だろう。便りの出し方がわからないから、元気でいようとする。健やかに生きようとするのだ。何かあれば誰かが連絡してくれる。
母親が頼りにならないわけじゃない。隔たりがあるわけでもない。
今さらどんな風に接していいのかわからない。僕にとっての母親は一人だけ、母親にとっての息子も一人だ…け?なはずだ。そんなことすら僕は知らない。二年間母親の情報のアップデートが来ていないんだから。
あの人は僕を覚えているだろうか。浮かんだ気持ちをフリックで入力する。
送信ボタンを押す前にアプリを閉じた。
田畑から匂う雨の空気。服が濡れる前に帰ろう。せっかく白いティーシャツをきれいなまま店を出れたんだから、雨にだって濡らしたくない。
もう石鹸で服を洗うのはごめんだ
ご覧いただきありがとうございました。
この物語は完結済みのため、添削でき次第投稿します。
次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしております!




