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凡人から見る天才の条件

 海野敬。十四才。身長百七十センチの好青年。すらりとした体系でかっこいい。


 それだけあれば人生バラ色街道を進めるだろうがそれだけではない。


 海野敬にできないスポーツはない。


 水泳、陸上などの個人競技、サッカーやバスケなどのフィジカルと対人センスが要するものも、道具を使う野球やゴルフ、バレーやテニスのネット競技さえもお手の物。体育の授業で褒められるレベルではなく、私立の優遇されている部活動からオファーが来るレベルといえば簡単に想像できるだろう。できる競技は全国、最低保証は県大会トップクラス並み。天才の名に恥じないレベルだ。


 しかし敬ちゃんは部活動に入らない。プロクラブのユースにいるとか、道場が他のスポーツをすることを禁止しているとかそういう柵もない。


 そのことを聞いてみてもちょっと悲しい顔をしてへたっぴに会話をそらすだけ。


 自身の天才性を褒められても「そうかな?」と困った顔で煙に巻く。褒められすぎて僕の陳腐な言葉では満足できないらしい。あの謙虚は素直にすごいと思う。謙虚さと無気力な風貌が一層天才性を引き立てている。


 そんな主役を語る僕は添え物。刺身の小菊や褄。揚げ物のパセリみたいな存在。


 小菊やパセリは栄養価が高いから存在価値がある。と熱意をもって語ってくれる人もいるが、昨今のフードロスを減らそうというご時世で、プラスチックのイミテーションが入れられている。どうやら栄養価値だけでは生きていけないようです。僕ですら食べません。だっておいしくないし、苦いだけです。


 かといって生存戦略を変えたところで敬ちゃんみたいに、回らない寿司屋のショーケースで輝く一級品にはなれない。三大珍味のように半世紀もの間、高級品を席巻できやしない。


 僕の階級なら大衆スーパーの総菜売り場だ。 しかもシールを何枚も張られても、 閉店間際になっても、そこに並んでいる。


 賞味期限が迫れば根を上げる前に見切られ値を下げられる。消費者と一緒の出入り口で店を後にすることはない。バックヤードからひっそりと退場するだけだ。


 そんな僕の話をしよう。天才、天野敬を語る僕は富樫透真。 才能のない普通の中学生。生まれてこの方、自分の才に巡り合うことはなかった。個性なんてない。あえて言えば没個性。十三歳までは神童だったとか、そんなことはまるでない。時々褒められたことくらいだ。時々と言っても多くはない。僕の指の数で足りるくらいだ。ここで偽ったところで意味はない。強がりは疲れた。


 それでも僕は、天才になりたい。


 でも中途半端なものではない。誰よりも抜きんでた何かが欲しい。


 天才になれる因子は僕にあることは確定している。本当にはっきり言える。


 努力はした。自分で言うのも恐縮だけれど、血だって滲んでいたはずだ。


 ただ惨めな結果だった。誰にも言わずに、がむしゃらに努力をしているだけだった。正解をろくに知らないのに、ただ無駄な動作を繰り返しているだけ。努力をはき 違えていた。誰にも追いつくことはなかった。追い越されてばかりだ。


 このままがむしゃらさだけを原動力に走っても、いい結果は出ないことを僕の過去が証明していた。


 だから僕は天才を見ることにした。自分の中の経験だけでは、もう望みはない。天才を観察して、その因子を探すことにした。


 わかったことが一つある。


 天才は、努力を努力だと思わない。凡人の僕には、努力というものは尊く、そして、継続するのにはとてつもない気力がいることだと、思ってしまっている。そう思い知らされた。


 苦にならない努力は、いつまでも続けられる。僕だってそうだった。しかし壁に阻まれた時、素早く超えられなかったとき、だんだんと苦しくなる。最初は、ライバルとの距離は気にならない。ただ、確実に差を感じる瞬間が来る。ライバルが軽々と超えていった壁に、真剣に対するふりをして、できてしまった差を見ないふりをする。


 そんなごまかしも、いつかは絶望的なほど遠くに行った姿を、直視しなくてならない。ライバルの小さな背中を認識してしまえば、壁を何度も乗り越えてきた成功体験は、一瞬で失敗の負債に変化する。


 自分のこれまでの努力を、無駄にしないと決意して壁に相対する。壁を乗り越える物として考えてしまう。


 最初は上手になりたい一心で取り組んでいた。今はただできないことを克服するだけの作業。


 それだけで努力が継続できるほどの気力はない。


 敗北にいろんなレッテルを張ってそこから惨めに退く。


 僕が弱かったのではない。彼らが天才だったからだ。


 自己保身のためだけのリスペクトが凡人の特効薬。


 そうやって僕らは自分のちっぽけな尊厳を守るために、彼らを昇格させて、二度と比べられないように特別な住処を用意する。神輿 を担ぐふりをして自分たちのテリトリーから強制退去。


 天才とはなるものではない。なってしまうものなんだと理解した。


 この理解は僕の天才への道を閉ざすのには十分。それでも何かないかと探していた。諦められなかった。


 そんなとき、どんなスポーツもすぐに習得できる敬ちゃんに出会った。敬ちゃんなら壁ぶつからない理由を知っているんじゃないかと近づいた。でも敬ちゃんは「なんとなくできちゃう」そういって僕をあしらった。あの時の冷めた敬ちゃんの目は忘れない。


 これは初対面でこんなことを聞いた僕が悪かった。


 そこから敬ちゃんを観察したり、話したりして情報を少しずつ収集していった。


 敬ちゃんは抜群の運動神経を持っていたが、人間関係に乏しい。会話がぎこちない。人に自分の思いを伝えるのが、凄まじく下手である。普通に会話を始めるのにもとっても苦労した。


 それでも僕は必ず天才になる秘訣を暴いて見せる。


 もうすぐ天才になれる気がする。今までで一番手ごたえがある。天才のからくりを理解できれば僕は凡人から卒業できる。


 その過程である程度の犠牲は仕方がないだろう。天才が一人、生贄になろうとも。辻褄は合うのだ。仲良しごっこは手段でしかない。いつでもやめられる。


 そこに行けば必ず変わる。何かが変わる。変れ。それまで僕はあきらめない。


 だから神様。僕に来世への期待と悟りを進めないでくれ。それだけはやめてほしい。 あれだけ願って縋ってもくれなかった癖に、僕から希望もやる気も奪う気ではないよな。


 この偏見と希望的観測。もうこれしか僕の目的が叶わない。もう打つ手がない。


 僕は救われたいわけじゃないのだから。


 溺れてなんかない。こんなにも、こんなにもあがいているんだ。報われないわけがない。



ご覧いただきありがとうございました。

この物語は完結済みのため、添削でき次第投稿します。

次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしております!

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