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第五話 「荒野の刃」

夕暮れの光が赤く大地を染める中、エイリックは乾いた荒野を歩いていた。

 先ほど通り過ぎた小さな村で聞いた噂――山道を越えてくる盗賊団が近くの街を襲う、という知らせが頭をよぎる。

 心の奥で、胸の小さな光がざわめいた。

 ――止めるべきか、それとも見過ごすか。


 視界の端に、砂塵に紛れて動く影。

 盗賊たちだ。斧や棍棒を振りかざし、荷車を襲っている。

 人々は叫び、逃げ惑う。

 心臓が早鐘のように打つ。

 ――これは、戦場でも体験した感覚に近い。だが、今回は戦争ではなく、民のための戦いだ。


 エイリックは自然と手を握った。剣の柄に触れる指先に、以前の戦場で鍛えた感覚が蘇る。

 深呼吸をひとつ、胸の奥の光を確かめる。

 ――生きている。戦う理由は、まだここにある。


 砂塵を蹴散らし、盗賊の中へ飛び込む。

 一人、二人……斬り伏せる刹那、斧が肩に振り下ろされる。

 痛みが走るが、反射的に身をひねり、逆手で受け流す。

 炎のような夕陽が刃を反射し、砂埃の中で剣が光る。


 「逃げろ!」

 声と共に、民の数人を安全な場所へ押しやる。

 目の前で倒れる盗賊を見て、冷静に次の動きを読む。

 敵の刃は荒く、力任せだが、経験がそれを逆手に取らせる。

 素早く踏み込み、間合いを崩す。

 一本の剣で三人を翻弄する。砂煙が巻き上がり、足元の感覚を狂わせるが、エイリックは動じない。


 一瞬の静寂。盗賊たちが彼を囲む。

 心の奥で、恐怖と興奮が混ざる。

 ――生きるために、戦う理由はこれだ。

 足元の石を蹴り、投げ上げた砂が敵の視界を遮る。

 その隙に、剣を振り下ろす。斬撃の音が砂煙の中で響き、斧を振り下ろした敵が崩れ落ちる。


 戦闘は長引く。汗が顔を伝い、呼吸が荒くなる。

 だが、エイリックの心にはある種の高揚感があった。

 これまでの戦場で抱え続けた罪悪感が、少しずつ浄化されるような気がする。

 ――守るべき相手のために剣を振るう。これが、生きる意味の一端なのかもしれない。


 最後の盗賊が逃げ去り、荒野に静けさが戻る。

 血と砂の匂いが混ざり、夕陽が赤く染まる地面に影を落とす。

 民は無事で、泣きながらも感謝の声を上げる。

 その声に、エイリックの胸は再び揺れた。


 夜、荒野の小高い丘に座り、遠くの街の灯りを眺める。

 体の疲労は激しい。だが、心には満たされた感覚が残っていた。

 ――生きる意味は、誰かのために剣を振るうことなのか。

 答えはまだ完全ではない。だが、胸の奥の光は確かに強くなった。


 焚き火の残り火に手をかざし、エイリックは小さく息を吐く。

 目の前にはまだ広い世界があり、次に出会う試練と人々が待っている。

 剣はまだ彼の手にある。

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