第9話 母・三千代の言葉とダーリンの甘やかし
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本作は「ESN大賞9」参加作品です。
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史改変×成り上がり×オラオラ皇后伝――どうぞ最後までお楽しみください!
マタニティブルーって言葉、いつかどこかで聞いたことある。
現世では女子高生だったあたしには、縁の無い世界だった。
だけど、少しずつおなかが大きくなり、気分が沈む。
自分の身体じゃないみたい。
今日もあたしは、……くよくよしていた。
――負けた。
県犬養が先に、内親王を産んでるってことだ。
遠くから元気な泣き声が聞こえる。
「あたしをいらつかせるため、わざと泣かしているんじゃないの?」
なんて思ってしまう。
でも、あの女、こんなつらいことを乗り越えてきたのかよ。
すげえじゃないか……。
思わず手の中の扇をぐしゃりと潰す。
「つらいよ、つらい。きついんだよ。
ご飯を食べたくないんだよ。
炊きたてご飯の臭いがいやなんだよ」
「姫様、落ち着いて……」
サチが背中をさする。
「落ち着いてるよ、めっちゃ落ち着いてるっつの!」
でも、心臓はドンドン鳴ってた。
「あたしは藤原の娘――負けるな、勝て! よい子を産め。
父も兄たちも、そればっか。
……でも、もう疲れたのーーーー!!」
あたしは泣きじゃくっていた。
こんな古代の奈良に来て、無く理由が出産の不安って、……情けない。
サチに頼まれたのか、母・三千代が静かに現れた。
紫の衣をまとっている。
まるで藤の花がそのまま歩いてるみたいだった。
「光明」
その声はやさしかった。
「焦らなくていいのよ」
「……だって母上、県犬養がもう内親王(女の子)を――!」
あたしは叫んでいた。
「藤原の娘が負けたら、笑われる! 家の恥なんだよ!」
母は、そっとあたしの手を取った。
その手は温かくて、震えていた。
「男子でも女子でも、健康でも病でも、どうでもいいの」
「……え?」
「あなたが生きていれば、それでいいのよ」
あたしは息をのんだ。
初めてだった。
こんな言葉、聞いたの。
「わたしたち藤原の女は、命を産む道具じゃない。
心を持った人間なのよ」
その瞬間、胸の奥がぐしゃっと崩れた。
気づいたら、涙が勝手にこぼれてた。
香炉の煙が揺れ、虹色の光をまとった。
「うん。あたし、もう泣かない」
涙をぬぐって笑う。
「絶対に、生きる。家のためじゃなく、自分のために!」
母はうなずいた。
そして、やっと首皇子が来た。
「ああ、光明子。こんなに泣いて、大丈夫?
ご飯を食べたくないんだって?
ご飯がいやなら、お菓子を食べればいいじゃないか!」
優しく抱きしめる。背中を撫でる。
頬に頬をつける。
「膳女のツルを連れて来たよ。今夜は甘葛の汁を用意してくれた。食べたいものがあれば、何でも申しつけるが良い。かわいい光明子。もう君一人の体じゃないんだから」
ツルという女が器を差し出す。
「甘葛汁を冷やしてお持ちしました。妊婦様に滋養がよいと聞いております。香りはぶどうの蜜のようで、口に含むと春の風が広がりますよ」
その後は、「好物をお聴かせください」とツルに迫られた。
「寒くはありませんか。いやいや、暑くはございませんか?」
「強い香りはおいやでございましょう。好きな香りがあればお持ちします」
雑仕女たちに取り囲まれ、《《光明子、甘やかし大会》》になった。
その間も、首皇子は手を離さないし。
♪♪黒猫クロエの奈良情報♪♪
◆甘葛とは古代の甘味、砂糖の代わりにゃ
蔦やぶどう科のつる草の樹液を煮詰めて作った、濃縮甘汁。現代でいうと、メープルシロップ+黒蜜の中間みたいな味。
原料は山葛・山ぶどう・野ぶどうなどの樹液。
古代では甘葛煎と呼び、天皇や上級貴族の嗜好品だった。
◆作り方(奈良時代風)
春先に山野の蔦やぶどうの蔓を切り、 出てくる樹液を竹筒や桶にためる。それを煮詰めてトロトロにする。
濃い琥珀色の液体ができあがり。これが甘葛。
保存が効くので、飲み物・料理・菓子・薬に使われたにゃ。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子として生まれ変わり、
歴史と恋と権力をオラオラで突き進む物語――いかがでしたか?
光明子の「怒り」は、時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
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「ESN大賞9」参加作品として挑戦中!
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
次回もどうぞお楽しみに!




