第8話 懐妊の祝いは毒、そして黒猫
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本作は「ESN大賞9」参加作品です。
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史改変×成り上がり×オラオラ皇后伝――どうぞ最後までお楽しみください!
――あたし、妊娠したらしい。
「姫様、おめでとうございますっ!」
サチが両手を合わせて泣きそうになっていた。
「おいおい、泣くなって。めでたい時だろ」
口ではそう言いながら、胸の奥がふるえていた。
あの婚礼の夜から、数か月。
あたしの中に、新しい命が芽生えていた。
首皇子――いや、ダーリンは涙目になって抱きしめてくれた。
「ありがとう、アスカ、いや、光明子……君がいるだけで、世界が明るい」
……まったく、やめてくれよ。そんな真っすぐな目で言うな。
惚れ直すじゃねえか。
って、妊娠とか、これからどうなるのかわからなくて不安なんだけど、ちょっと吐き気もするんだけど……。
香が焚かれ、不比等邸は祝福の宴の準備で沸いていた。
だが――その夜、異変は起きた。
「姫様、県犬養様からお祝いのお菓子が届いております」
「ほぉ~。あの犬顔女が? ……珍しいこともあるもんだね」
県犬養――ライバルの女。
夫のもう一人の妻。
前からあたしにだけ妙に棘がある。
ダーリンがあたしに夢中なのに、まだ負けてねぇとでも思ってるんだろ。
「まあ、礼儀として食べとくか」
あたしは菓子箱の蓋を開けた。
「おお!」
白く美しい練り菓子。桜の形をしている。
甘い香りが漂う。
……が、その時。
「ニャアアッ!」
突然、猫が跳びこんだ。
宮子様の猫――黒猫クロエ、賢い子だ。
あたしの目の前に、ネズミをくわえてきた。
「わ、ネズミ!?」
猫はネズミを菓子箱の中に落とした。
ネズミはきょとんとして、そして菓子をかじった。
ネズミはじたばたと動いていたが、やがて動きが止まった。
そしてとうとう、ぴくりとも動かなくなった。
「……死んだ?」
あたしの手が震えた。
香が変わっていた。甘いのに、どこか金属の匂いが混じる。
サチが叫んだ。
「姫様! 手を触れないでください!」
そこに、笠目の采女が駆け込んできた。
「なりませぬ! これは――水銀です!」
「……は?」
「少しでも口にすれば、喉が焼け、内から崩れます」
空気が一瞬で凍った。
「誰がこんなことを……」
「わかりきっております」
笠目の目が鋭く光る。
「私のふるさと伊勢では、水銀を始め毒にも薬にもなる鉱物を調として献上しています。先日、県犬養さまが水銀をほしいとおっしゃったので、おかしいと思いつつも分けて差し上げました。こんなことになって、申し訳ありません」
あたしの中で、何かが切れた。
「……上等だよ」
低くつぶやく。
「やるなら正面から来いよ。陰で毒とか、チマチマしすぎなんだよ」
空気がビリッと震えた。
香炉の煙が、ゆらりと動く。
(思えば現実になる――このチート、今こそ使う時だ)
「やつを連れてこい」
笠目が息をのむ。
「姫様……今、何と?」
「祈っただけよ。悪意は消えろってな」
笠目がうなずき、そこにあった琵琶を手に取った。
――ボロン ボロン。
サチたちが、恐怖を振り払うように踊り始める。
音と香が重なり、あたしの心に火がついた。
「あたしもやる!」
琵琶をかき鳴らす。
ぽろん、ぽろん――
笠目が笑って合わせる。
音が夜を裂いた。
琵琶の音が広がり、人々が集まってきて歌い出す。
厩の舎人、つまり馬の世話をする男によって、恋の歌が披露された。
屋敷に使える他の男たちが手を打って喜んでいる。
台所で働く女が歌で応える。
ここは、使用人でさえこんなに教養がある。
藤原不比等の館は、奈良で三番目の広さだ。
また使用人も多く。彼らは気立ても良く、働きも良い。
毒の夜は、香と琵琶の音と人々の歌声で浄められていく。
その時、首皇子が現れた。
「アスカ、いや光明子。聞いたよ……怖い思いをさせたね」
「大丈夫だよ。あたしは誰にも毒されねぇ女だ!」
皇子は微笑んで、そっと抱きしめた。
「光明子は私私の守り神だ。こんなことがあっても笑っている。気持ちが安定した女って、なんてかわいいんだ……」
指を絡め、下腹を撫でる。
……やば。
心臓、爆発する。
猫のクロエが足元で丸くなる。
――それから、四兄弟の四番目の麻呂がやってきた。
その手がつかんでいるのは……県犬養広刀自だった。
女は手をついて謝った。
「ごめんなさい。懐妊と聞いて我慢ができなくて。もうしません、許して」
三人のすらりとした女たちも、手をついてひれ伏した。
そのとき、四兄弟の他のメンバーも集まってきた。
「なんだと? 毒を盛っただと?」
「うちの宝、光明子にだと?」
「殺してしまえ。斬首だ、斬首!」
父・不比等が入ってきた。
「いやいや、殺してしまえば県犬養、そして橘との戦争が始まるぞ。
かわいい光明子の懐妊にけちがつく。それこそ、この女の企みだ。いいか、落ち着け。同じ殺すのならじわじわやれ」
四兄弟は口々に同意した。
「父上、承知した」
「光明子が大事」
「震えて眠れ、犬女」
「覚えてろ!」
首皇子も言い放つ。
「最低の女だね! 二度と顔を見せるな」
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子として生まれ変わり、
歴史と恋と権力をオラオラで突き進む物語――いかがでしたか?
光明子の「怒り」は、時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
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「ESN大賞9」参加作品として挑戦中!
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
次回もどうぞお楽しみに!




