表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/35

第8話 懐妊の祝いは毒、そして黒猫

ご覧いただきありがとうございます!

本作は「ESN大賞9」参加作品です。

現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。

権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!

歴史改変×成り上がり×オラオラ皇后伝――どうぞ最後までお楽しみください!

――あたし、妊娠したらしい。


「姫様、おめでとうございますっ!」

サチが両手を合わせて泣きそうになっていた。


「おいおい、泣くなって。めでたい時だろ」

口ではそう言いながら、胸の奥がふるえていた。


あの婚礼の夜から、数か月。

あたしの中に、新しい命が芽生えていた。

おびと皇子――いや、ダーリンは涙目になって抱きしめてくれた。

「ありがとう、アスカ、いや、光明子……君がいるだけで、世界が明るい」


……まったく、やめてくれよ。そんな真っすぐな目で言うな。

惚れ直すじゃねえか。

って、妊娠とか、これからどうなるのかわからなくて不安なんだけど、ちょっと吐き気もするんだけど……。


香が焚かれ、不比等邸は祝福の宴の準備で沸いていた。

だが――その夜、異変は起きた。


「姫様、県犬養様からお祝いのお菓子が届いております」

「ほぉ~。あの犬顔女が? ……珍しいこともあるもんだね」


県犬養――ライバルの女。

夫のもう一人の妻。


前からあたしにだけ妙に棘がある。

ダーリンがあたしに夢中なのに、まだ負けてねぇとでも思ってるんだろ。


「まあ、礼儀として食べとくか」

あたしは菓子箱の蓋を開けた。


「おお!」

白く美しい練り菓子。桜の形をしている。

甘い香りが漂う。


……が、その時。


「ニャアアッ!」


突然、猫が跳びこんだ。

宮子様の猫――黒猫クロエ、賢い子だ。

あたしの目の前に、ネズミをくわえてきた。


「わ、ネズミ!?」

猫はネズミを菓子箱の中に落とした。

ネズミはきょとんとして、そして菓子をかじった。

ネズミはじたばたと動いていたが、やがて動きが止まった。

そしてとうとう、ぴくりとも動かなくなった。


「……死んだ?」

あたしの手が震えた。

香が変わっていた。甘いのに、どこか金属の匂いが混じる。


サチが叫んだ。

「姫様! 手を触れないでください!」


そこに、笠目の采女が駆け込んできた。

「なりませぬ! これは――水銀です!」


「……は?」

「少しでも口にすれば、喉が焼け、内から崩れます」


空気が一瞬で凍った。


「誰がこんなことを……」

「わかりきっております」

笠目の目が鋭く光る。

「私のふるさと伊勢では、水銀を始め毒にも薬にもなる鉱物を調として献上しています。先日、県犬養さまが水銀をほしいとおっしゃったので、おかしいと思いつつも分けて差し上げました。こんなことになって、申し訳ありません」


あたしの中で、何かが切れた。


「……上等だよ」

低くつぶやく。

「やるなら正面から来いよ。陰で毒とか、チマチマしすぎなんだよ」


空気がビリッと震えた。

香炉の煙が、ゆらりと動く。

(思えば現実になる――このチート、今こそ使う時だ)


「やつを連れてこい」


笠目が息をのむ。

「姫様……今、何と?」

「祈っただけよ。悪意は消えろってな」


笠目がうなずき、そこにあった琵琶を手に取った。

――ボロン ボロン。


サチたちが、恐怖を振り払うように踊り始める。

音と香が重なり、あたしの心に火がついた。

「あたしもやる!」


琵琶をかき鳴らす。

ぽろん、ぽろん――

笠目が笑って合わせる。


音が夜を裂いた。

琵琶の音が広がり、人々が集まってきて歌い出す。

うまや舎人とねり、つまり馬の世話をする男によって、恋の歌が披露された。

屋敷に使える他の男たちが手を打って喜んでいる。

台所で働く女が歌で応える。

ここは、使用人でさえこんなに教養がある。


藤原不比等の館は、奈良で三番目の広さだ。

また使用人も多く。彼らは気立ても良く、働きも良い。

毒の夜は、香と琵琶の音と人々の歌声で浄められていく。


その時、首皇子が現れた。

「アスカ、いや光明子。聞いたよ……怖い思いをさせたね」

「大丈夫だよ。あたしは誰にも毒されねぇ女だ!」


皇子は微笑んで、そっと抱きしめた。

「光明子は私私の守り神だ。こんなことがあっても笑っている。気持ちが安定した女って、なんてかわいいんだ……」


指を絡め、下腹を撫でる。

……やば。

心臓、爆発する。

猫のクロエが足元で丸くなる。


――それから、四兄弟の四番目の麻呂がやってきた。

その手がつかんでいるのは……県犬養広刀自あがたいぬかいひろとじだった。

女は手をついて謝った。


「ごめんなさい。懐妊と聞いて我慢ができなくて。もうしません、許して」

三人のすらりとした女たちも、手をついてひれ伏した。


そのとき、四兄弟の他のメンバーも集まってきた。

「なんだと? 毒を盛っただと?」

「うちの宝、光明子にだと?」

「殺してしまえ。斬首だ、斬首!」

父・不比等が入ってきた。

「いやいや、殺してしまえば県犬養、そして橘との戦争が始まるぞ。

かわいい光明子の懐妊にけちがつく。それこそ、この女の企みだ。いいか、落ち着け。同じ殺すのならじわじわやれ」

四兄弟は口々に同意した。

「父上、承知した」

「光明子が大事」

「震えて眠れ、犬女」

「覚えてろ!」


首皇子も言い放つ。

「最低の女だね! 二度と顔を見せるな」


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子として生まれ変わり、

歴史と恋と権力をオラオラで突き進む物語――いかがでしたか?


光明子の「怒り」は、時代を越えても通じる女の強さ。

どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。


そんな想いを込めて書きました。

感想をいただけるとすごく励みになります。


「ESN大賞9」参加作品として挑戦中!

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。


次回もどうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ