第4話 極道お嬢と皇子の学びの日
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本作は「ESN大賞9」参加作品です。
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史改変×成り上がり×オラオラ皇后伝――どうぞ最後までお楽しみください!
都の春は、香のように静かに満ちていた。
風に花びらが流れ、瓦の上を白い光が滑っていく。
今日も――皇子の学びの日。
十五歳の首皇子が、将来「王」となるために皇帝学を学ぶ日だ。
婚約者のあたしと意地悪夫人も同席する。
その学び舎の奥、座敷の中央に、ひとりの僧が静かに座していた。
「――行基さま」
やわらかな笑みを浮かべた僧が、ゆっくりと口を開く。
「仏の道とは、己を照らし、人を照らす道。
光とは外にあるものではなく、心の中にございます。」
あたしは正座しながら、つい内心でつぶやく。
(あー……なんか法事の時を思い出す。じいちゃん家の一大行事。
極道の家だからか、お経の声がデカいし、説教も長いんだよね……)
行基さまの声は静かで優しいけれど、言葉が難しい。
どうやら、……仏の力で国を治めるとかなんとか。
首皇子はその一言一句を逃さないように、
まっすぐ前を見ていた。
唐から届いたありがたいお経が運び込まれた。
写経するらしい。
光が皇子の横顔を照らす。
筆を持つ手は細く、所作が美しい。
墨をすり、筆先に水を含ませ、紙の上に文字を滑らせる。
――その動きが、まるで祈りのようだった。
「姫様も、ご一緒になさいますか?」
行基さまが微笑む。
(え、いいの? 一緒に? ラッキー!)
「ぜひ、お願いいたします」
横に座ると、皇子がほんの一瞬だけこちらを見た。
その瞳――静かな湖のように澄んでいる。
でも、すぐに視線を戻し、筆を走らせた。
犬をけしかけた県犬養夫人も同席していたが、十数分も経たぬうちに大あくびをした。
「わたくし、用事を思い出しましたわ」と立ち上がって出ていった。
(……あー、飽きちゃったんだな)
室内は静まり返り、
聞こえるのは筆が紙をなでる音だけ。
す……す……。
墨の匂い。
紙に吸い込まれる音。
窓の外では雀がチュンチュン鳴き、
香木の煙がゆらゆらと立ちのぼっていた。
(平和すぎる。やばい。眠くなる……)
けれど、ふと見えた皇子の手元で――眠気は吹き飛んだ。
「……すごい」
美しい。
細く柔らかい線で、身震いするほど美しい。
あたしは思わず身を乗り出した。
《《夜》》という字など、なまめかしさを漂わせている。
「皇子さま……これは?」
「王義之の書を写している」
「ええええ!? 王義之!?」
思わず声が裏返った。
(やば、最近ラノベで読んだやつ! 書の神様じゃん!)
「トンと入筆し、右払いが生きておる。光明も真似てみるとよい。」
皇子の言葉にうなずき、筆を取った。
けれど、書こうとした瞬間――墨がポタッと紙に落ちる。
(あーっ! やらかした!)
「ははは、光明……力が入りすぎだ。」
小さく笑いながら、皇子があたしの手に触れ、力を抜かせようとする。
心臓が一気に跳ねた。
「ほら、腕の力も抜いて。」
「は、はいっ……!」
(ちょ、これ……スパダリモードじゃん!? 距離近いっ!)
……けれど、次の瞬間。
部屋の外で、ドタドタと足音がした。
静寂を蹴破るようにして、あの黒犬が突入してきた。
「クマっ!?」
(お前……生きてたのか!?)
犬はあたしを見るなり、低く構え唸った。
その後ろには、扇をはためかせたメス犬――県犬養夫人がいた。
(なるほど……あたしだけが皇子と学んでいるのが面白くないんだな)
あたしは……反射的に叫んでいた。
「オラオラオラオラァ! 何見とるんじゃコラァ!」
行基さまが目を丸くし、侍女たちが青ざめる。
「姫様……!」
(うっわ、またやっちまった。)
クマは牙を見せ、吠えた。
「ワンッ!!」
皇子が立ち上がり、間に入った。
「クマ、下がれ。」
その声は低く、静かだった。
犬は耳を伏せ、退いた。
あたしは息をのむ。
(……怖いほど優しい。怒ってるのに、声が静か)
皇子は振り返らずに言った。
「県犬養夫人の犬だ。お前がまた、何かしたと噂されよう」
「……そんなつもりじゃ」
「わかっている。」
短く、それだけ。
でも、その一言が胸に残った。
信じているとも、関わるなとも取れる。
どちらなのかわからない。
静かな気まずさが、二人のあいだに広がる。
墨の香に満ちた部屋で。
あたしは、ひたすら筆を取った。
そうよ、皇后になるには、国一番の達筆でなくちゃ。
生の王義之を手本にできるなんて、めちゃくちゃ貴重なことだし。
行基さまはすべてをお見通しのように微笑んだ。
「おおっ、上達が早いですな。こちらの姫は」
あたしは背筋を伸ばし、にこりと答えた。
「栄えあるお言葉を賜り、ありがたき幸せに存じます」
(極道の家で鍛えられた礼儀と根性、なめんなよ――)
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子として生まれ変わり、
歴史と恋と権力をオラオラで突き進む物語――いかがでしたか?
光明子の「怒り」は、時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
感想をいただけるとすごく励みになります。
「ESN大賞9」参加作品として挑戦中!
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
次回もどうぞお楽しみに!




