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第32話 正倉院宝物・目録 ― 光明皇太后筆  

正倉院はシルクロードの終着駅。

西の文化をラクダに載せて、長い長い時をかけ運んできたものなのだ。

そして、さらに危険な海路。

ここに来るまでにどれだけの宝物が砂嵐に飲まれただろう。

海の藻屑となっただろう。


日本の王・聖武天皇のために旅をしてきた宝物たち。

美しい琵琶 ラクダの図柄が素敵。裏返してみるとそこにも豪華な模様。

瑠璃の杯 錦布 宝剣 


あたしはこれを後世に伝える義務がある。

仲麻呂が手っ取り早く、金に換えてしまわないように、

橘奈良麻呂に持ち去られないように、

皇太子となった道祖王どうそおうの寝室に飾られないように。


あたしが東大寺の大仏様に奉献する。


正倉院 高床式、校倉造りの立派な倉庫。

水害も届かない。ネズミも登れない。

確かな場所。


ここに思い出の品を奉献する。

そして、全てを後世に伝えるため、この手で目録を作る。


中倉の明かりの下で、あたしは机の前に座った。

宝物たちの静かな輝きを背に、白い紙を広げる。

あたしは筆をとった。


写経で鍛えた王義之風の書。

誰にも真似できない筆跡よ。


 墨の香りが広がる。

 深く息を整え、静かに書き始めた。


正倉院宝物 目録(光明皇太后自筆)

一 衣服・装束之部


 ・白絁の帛衣

 ・浅紫の袍

 ・緋色の御衣

 ・大仏開眼供養に用いた浅淡なる衣

 ・練絹の指貫

 ・金糸を織り込んだ帯


二 楽器之部


 ・螺鈿紫檀の琵琶

 ・銀装の横笛

 ・漆塗りの鼓

 ・伎楽面 八種


三 仏具之部


 ・金銅八角燈籠

 ・白瑠璃の香炉

 ・沈香・伽羅・白檀

 ・水晶の仏舎利瓶

 ・写経用筆墨一式

 ・黄金の光背飾り


四 調度之部


 ・紫檀木の几帳

 ・螺鈿の机

 ・白藤の箱

 ・錦の座具

 ・玉飾りの釵


五 文書之部


 ・聖武太上天皇自筆 仏教写経断簡

 ・大仏造立願文

 ・孝謙皇女への書付

 ・祈りの詞 数種


六 雑物之部


 ・金銀の飾り玉

 ・紅・白の香料

 ・天平勝宝の銭

 ・絵絹の巻物


品物を見て、大きさをはかり、番号を付ける。

品物と目録の番号が確実に一致しているか、役人と一緒に作業する。

約九千点の品々の目録を書き続けた。

一文字一文字、心を込めて。


 最後の一文字を書き終えた瞬間、

あたしの中に静かな安堵が広がった。


「……これで、いいわよね。ダーリン」


 あたしは筆を置き、

 ゆっくりと目録を巻いた。


 

「孝謙。

 これはあなたへの道標みちしるべよ。

 父の祈りと、母の想い。

 どうか受け取って」


 灯火がふっと揺れ、

 正倉院の宝物たちは柔らかい光を返した。


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