第31話 光明子 正倉院にて ――残された祈り
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現代の極道のお嬢サツキが奈良時代の姫・光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
ただし、チートで歴史を変えることはできません。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史に忠実×成り上がり×極道流処世術――どうぞ最後までお楽しみください!
夜の平城京は、驚くほど静かだ。
風が鹿の角をかすめる音が、聞こえてくるほどに。
あたしは一人、灯火を手に、正倉院の前に立っていた。
今日を選んだのは、誰にも気づかれたくなかったからだ。
帝の母としてではなく、
ただひとりの妻として、あの人の遺したものに会いたかった。
正倉院は、昼間見るよりもずっと大きく見えた。
高床式の校倉造。
黒い夜空の下で、まるで静かに息をする巨人のようだった。
(ダーリン……あなた、本当にたくさんのものを残していったのね)
役人により厳重な錠前が開かれ、扉がゆっくりと開いた。
ひんやりとした空気が頬を打つ。
「皇太后さま、どうぞお入りください」
灯火の明かりを頼りに、
あたしは宝物が納められた棚の前に座り込んだ。
まず目に入ったのは、
聖武が身につけていた白い帛衣。
指でそっと触れる。
織り目の感触がこんなに優しい。
「……これを身につけ、あなたは儀式に立っていたわ」
大仏開眼の日。
誰よりも震えて、誰よりも祈っていた背中。
その衣が今、ここにある。
隣の箱を開けると、
琵琶が眠っていた。
宝石の装飾は少し曇っている。
「ダーリン、これ好きだったわよね。
宮子さまに持って行って見せて差し上げたもの」
ダーリンの母・宮子さまはダーリンに先立ってあちらに旅立たれている。
ダーリンは人前でこそ威厳を保っていたが、
夜に琵琶を鳴らすときだけは少年みたいに微笑んだ。
なかなかの腕前だった。
その音色は、今でも耳に残っている。
指先が震えた。
「……ずるいわよ。
たくさんの思い出残して、勝手に先に逝ってしまうなんて、……あたし、泣いちゃうじゃない」
ダーリンの魂がそこにあるようで、ちょっと愚痴ってしまう。
さらに奥に、
一枚の文書がしまわれていた。
そこには
東大寺への寄進の願文
聖武自筆の仏教写経の断片
そして孝謙へ宛てた短い書付が並んでいた。
あたしはひとつ、そっと取り上げた。
「光明子へ
国を頼む
孝謙を頼む
祈りを絶やしてはならない」
――ああ、あたしへのメッセージだわ。
筆の跡が乱れている。
これを書いた日、聖武がどれほど苦しく、それでも書こうとしたのか。
その姿が目に浮かんでしまい、たまらない気持ちになる。
「ダーリン、寂しい。――なんでこんなに早く……逝ってしまったの!」
あたしは、その書付を胸に抱いた。
そして、引き出しを開けたり、棚の扉を開けたりしてダーリンの気配を感じた。
遣唐使が持ち帰った宝物。
遣新羅使が献上した宝物。
一緒に歩んできた日々が、思い出される。
ダーリンの優しい笑顔、二人きりになったときの甘えた顔。
ダーリンの筆跡を見つけた。
あたしは声をあげて笑ってしまう。
ダーリンの筆跡はいつも細く美しい。
「光明子の書は王義之にそっくりだ。
力強いなあ」
あたしたち夫婦の筆跡は、たいてい逆だと思われる。
細くて美しいダーリンの書。
王義之風の力強いあたしの書。
これを思うと、可笑しくって、……結局泣き笑いになった。
「……うん。
あたしがやるわよ。
あんたが残した祈り、全部拾い上げて……未来に繋げてみせる」
あたしは、冷たい床に座ってダーリンの書を読む。
棚に並んだ宝物が、灯火の光の中で淡く輝く。
一つ一つが
あの人の呼吸のかけら、
人生の断片。
たまらない気持ち!
涙がぽたりと落ちた。
手の甲でぬぐった。
「泣いてる場合じゃないわね。
孝謙の前では、あたしが大黒柱なんだから」
そう言うと、
灯火がふっと揺れた。
まるで、聖武が
後ろからそっと背を押してくれたみたいに。
あたしは立ち上がり、正倉院を出た。
そっと、扉を閉めた。
重い音が響き、宝物の眠る場所が再び静寂に包まれる。
役人が厳重に錠をかける。そして、深く頭を下げた。
夜風に沈香の香りが混じり、
その香りがどこまでも優しく、あたしを包み込んだ。
亡くなった後でも、あたしはダーリンに愛されている。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
いかがでしたか?
時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
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次回もどうぞお楽しみに!
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