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第29話 東大寺大仏開眼 ――祈りの頂

ご覧いただきありがとうございます!

現代の極道のお嬢サツキが奈良時代の姫・光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。

ただし、チートで歴史を変えることはできません。

権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!

歴史に忠実×成り上がり×極道流処世術――どうぞ最後までお楽しみください!

あたしの娘、孝謙こうけん天皇が玉座についた。

 宮中のあちこちで祝賀の声が上がり、楽が響き、花が飾られている。

 一方、その奥底には冷たい流れが渦を巻いていた。


 橘奈良麻呂たちばなのならまろの動き、官人たちのささやき、地方の不穏。

 ひとつひとつは小さな揺れでも、共振すれば山が崩れる。


 あーあ、政治は相変わらず、お肌に悪いわ。


 けれど今日だけは、この悩みを脇に置くことにした。

 この国の祈りが、ついに形になる日だから。


 東大寺、大仏開眼。

 ダーリン・聖武が長い旅の果てにたどり着いた、ひとつの到達点よ。



 春の空はやわらかく澄み、雲が金の縁をまとっていた。

 大仏殿へ続く道には、香の煙がゆらゆらと漂い、

 雅楽の音がゆっくりと空気を満たしていく。

 遠くからの読経が重なり、まるで大地そのものが震えているように感じた。

 大仏殿の前庭に足を踏み入れた瞬間、思わず息をのんだ。


 赤、青、黄、白、黒。

 五色のはたが風にひらめき、青い空へ向かっている。

 まるで天と地を結ぶ橋みたい。


 その幡の間には、宝石を飾った宝樹がずらりと並び、

 朝日を受けて七色の光を放っていた。

 この世のはずなのに、極楽の庭みたい。


 中央には、祭の舞台。

 東西には華厳経けごんきょうを説く講師こうし読師どくしが座るための高座が しっかりと組まれていた。

 講師と読師は相対して仏前の高座に上り、経題・経文を読み上げる役目を果たすのだ。

 ここから読経が始まれば、きっと大地ごと震えるだろう。

 マイクもスピーカーもない時代だが、僧たちの読経は美しい音楽のようだから。




 あたしとダーリン、そして孝謙は、玉座に並んで座した。

 ――三座さんざ

 続日本紀を執筆する役人が取材に来ている。

 この様子はすべて記録される。

 だけど、こうして並ぶと……なんだか胸がつまる。


 孝謙は、今日のために特別の礼服をまとっている。

 唐風の冕冠べんかんいただきながら、身に着けているのは

 神事式の白い帛衣はくのきぬ

 唐の威厳と、日本の祈りが不思議に混じり合った姿だ。


 まだ若いのに、ちゃんと帝の顔になっている。

 その横顔を見るたび、あたしは誇らしい。


 ダーリンも、白の礼服に身を包んでいる。

 唐風の皇帝を目指した。

 今日は少し体調が悪いようにも見える。

  

 この国の未来を、この三人で背負っている――

 そんな実感が、胸の奥からじわっとこみ上げた。

 ダーリンが静かに息を吐き、あたしの方へ視線を向けた。

 「光明、この日を迎えられたこと、感謝している。……いつもありがとう。愛しているよ」

 そんな想いが、声に出さずとも伝わってくる。

 いつもいつも言われていることだから。


 あたしは小さくうなずいた。


 疫病が都を覆い、

 紫香楽で大地が割れ、天井が落ち、瓦が砕け散った日。

 反乱の報が届くたび、胸が痛んだあの日々。

 信じられるのは誰なの?

 ダーリンは全ての災厄は《《自分のせい》》だとつぶやく。

 あの苦しい日々を越えて、今ここに……。

 全ての民が祈りをささげることができるようにと、国中の富を集めて建立した。

この私たちの大仏さまがいよいよ開眼する。


 孝謙がそっと袖を引いた。

 「母上、あそこに大仏さまがいらっしゃるのですね」


 「そうよ

 あなたのお父さまが、この国を守る光として作り続けたものよ」



 そのとき、大仏殿の扉がゆっくりと開かれた。


 朝日が流れ込み、金色の肌が一面に輝き出す。

 その光は、温かくもあり、まぶしくもあり、

 胸の奥が震えるようだった。


 国中の息が、いっせいに止まったように感じた。

 大仏殿の中は、圧巻だった。


 天井からは造花の藤がこぼれ落ち、

 繍幡しゅうばんと呼ばれる刺繍入りのはたがゆらゆら揺れている。

 香木の香りがふわりと立ち上る。

 飾りつけのすべてが、唐風で新鮮だ。



 やがて開眼の儀が始まり、

 巨大な筆が運ばれてきた。

 瞳を描くのはインドからお招きした菩提僊那ぼだいせんなさま。


 この東大寺大仏殿の開眼供養法会かいがんくようほうえで、婆羅門僧正ばらもんそうじょうとして導師どうしを務めてくださる。

 墨をふくませた筆先には長い麻紐が結びつけられ、

 それを行基さまが両手で抱いて渡してくださった。

 ダーリンが頭を下げる。

「行基さま、ありがとう」

 娘ははしゃぐ。

「父上、母上、どきどきしますわ」

 ダーリンとあたしと、娘がその藍色の紐を持つ。

 見るとこの紐は200メートルもの長さがあり、集まった民たちが握っている。


 みんなで瞳を描くという趣向。

「ああ、素敵だわ」


 殿内に張りつめた静けさ。

 風さえ止まったようだ。


 筆がゆっくりと、大仏の瞳へ近づいていく。


 触れた、次の瞬間。


 大仏の瞳がかすかに光を宿した。

 本当に、ほんの一瞬。

 

 ダーリンは震える声で言った。

 「届いた」


 あたしは深く息を吐いた。

 本当にここまで来たのだと、心がようやく追いついた。


 娘は目を潤ませ、大仏を見上げた。

 「父上の祈りが形になったのですね」

 その横顔が、ひどく頼もしかった。




 儀式が終わり、宮殿の外に光が満ちたころ。

 あたしは娘の肩に手を置いた。


 娘・孝謙天皇は小さく尋ねた。

 「母上、国は救われますか」


 「救うわよ。

 あなたが帝として立ったのだから。

 そして、父の祈りも、今日のこの光も、

 あなたの未来を必ず守ってくれる」


 大仏の金色のまなざしが、

 まるであたしたちを包み込むように降り注いでいた。


 この瞬間だけは、政治のうず陰謀いんぼうの影も遠く、

 ただ静かに、祈りが世界を満たしていた。


 今日という日は、確かに

 祈りのいただきだった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

いかがでしたか?

時代を越えても通じる女の強さ。

どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。


そんな想いを込めて書きました。

感想をいただけるとすごく励みになります。

次回もどうぞお楽しみに!



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盧舎那仏様、国家鎮護と民に安寧をもたらしてください!
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