第28話 安倍内親王 即位――最悪で最高の味方
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現代の極道のお嬢サツキが奈良時代の姫・光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
ただし、チートで歴史を変えることはできません。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史に忠実×成り上がり×極道流処世術――どうぞ最後までお楽しみください!
孝謙が玉座に座した日から、まだ数日。
宮中は祝いの色に満ちているのに、
その奥底ではゴーゴーと黒い波が絶えず流れていた。
あたしは回廊を歩きながら、息を静かに整えた。
娘が帝になった。
ダーリンから託された未来を、あたしはちゃんと拾い上げた。
ここまでは上出来。
問題は――ここから。
回廊の陰では、官人たちのひそひそ声。
――女帝は仮のつなぎ、
――光明皇太后(つまり、あたし)の力が強すぎる、
――皇位は男系に戻すべき、
どれも嫌味で、どれも時代遅れ。
でも、心の底ではまだ多くの者がそう思っている。
やれやれ。
孝謙は玉座に座っただけで、敵を背負わされた。
そこへ、もっと面倒な存在が動き始めた。
橘諸兄の息子、橘奈良麻呂だ。
橘諸兄は父親は違うが、あたしと同じ橘三千代の子である。
つまり、兄のひとりである。
あたしの兄は藤原四兄弟だけじゃない。
だから、その子・橘奈良麻呂は甥にあたる。
その甥っ子が
孝謙とあたしに向けて、牙をむいているらしいという噂が漏れ聞こえてきた。
はああああぁぁああ?
んっとに疲れる。
藤原も橘も、みんな親戚なわけ。
それが、ムキになって相手方を引きずり降ろそうとするんだから、
――これだから、政治って嫌いなのよ。
そう思った瞬間。
紫の几帳が風で揺れ、ひとつの影がその向こうから姿を現した。
藤原仲麻呂。
相変わらず涼しい顔。
人の腹の中をすべて見通したみたいな静かな目。
なんでこう、見ただけで腹が立つのかしら。
仲麻呂は足を止めて一礼した。
「光明皇太后。紫微中台の長官、拝命いたしました」
あたしは肩をすくめた。
「言われなくても知ってるわよ。あたしが任じたんだから」
仲麻呂は武智麻呂兄さんの息子。つまり、これも甥っ子。
政治に精通した武智麻呂兄さんを十倍パワフルにしたような奴。
慇懃無礼!!
見下すような物言い!!
何かといえば、「かの国の法では」と唐の知識をひけらかす!!
人の温かみが感じられない氷のような眼差し!!
遊びや楽しみを一切求めず、趣味は学問!!
でも、女官にはなぜか?? モテる。
我が娘、孝謙天皇も、なぜか一目置いている。
そんな奴だ。
仲麻呂の口元がわずかに上がる。
どう見ても
「ついに時代の中心は自分だ」
と言わんばかりの表情。
むかつく。本気でむかつく。
でも、頼もしさもあるから、あたしのイライラはおさまらない。
仲麻呂が一歩、あたしに近づいた。
声を低くして告げる。
「橘奈良麻呂が動き始めています。孝謙帝を揺るがすつもりでしょう」
あたしは息をのみ、眉を寄せた。
「どこまで読んでるの?」
仲麻呂は一層声をひそめた。
「兵の動き。官人たちの密談。地方の不穏。
すべてが一つの結論に向かっています」
仲麻呂の 冷たい目はまっすぐあたしを見つめている。
「孝謙天皇をさしおいて、新しい天皇を立てようとする勢力が、生まれています」
「ああああ、もう。ほんと嫌だ。また、権力争いで謀?
もう、そんな話、聞かせないで」
仲麻呂は目をそらさず、静かに言った。
「孝謙帝は守ります、必ず。
光明皇太后、あなたさまのお嬢さまは、私がお守りいたします」
「……は?」
一瞬、あたしは固まった。
なんでそんな《《当然》》みたいな態度なのよ。
その上から目線だけで三発ぶん殴りたくなるじゃない。
「あんたねえ、守るって言うならもうちょっと可愛げのある言い方できないの?」
仲麻呂は涼しい顔のまま答えた。
「私は仕事をするだけです。陛下を守るという仕事を」
聖武天皇が祈りの政治を行ったおかげで、今朝廷は軍隊を持たない。
だけど、紫微中台だけは、軍隊を持っており仲麻呂はその長官。
兵士の力を使うことができるのは、仲麻呂だ。
守るという言葉は頼もしいが、この仲麻呂に頼るのかと思うと……。
もう、ほんっと腹立つ!
でも――
この男に頼るしかない。
あたしたちを守るためなら、
どれだけ泥でも、血でも、陰謀でも踏み抜くだろう。
その剛腕が、今この朝廷で唯一頼れる盾。
敵の敵は味方。
あたしたちの敵は、橘家。
孝謙を倒して男系に戻そうとする勢力。
あたしは軽く息を吐き、仲麻呂に視線を合わせた。
「いいわ。あんたの力、見せてもらうわ」
仲麻呂は静かに頭を垂れる。
けれどその背中からは、
「……早くそういえばいいのに。あなたたち母娘は、この私を頼るしかないのだから」
という思いが滲み出ていた。
ああ、もう。
本当に面倒くさい男。
いや、素直になれないあたし!
廊の奥へ歩き去る仲麻呂を見送りながら、
あたしはひそかに拳を握った。
孝謙。
あなたの玉座も、未来も。
誰にも触れさせない。
あたしたちには、腹立つけど頼もしい――
藤原仲麻呂という、最悪で最高の味方が立っている。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
いかがでしたか?
時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
感想をいただけるとすごく励みになります。
次回もどうぞお楽しみに!
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歴史部門:なろう日間2位 週間2位 月間2位 四半期2位 (1位はとれない)
源平合戦で命を落とす安徳天皇に転生した俺、死にたくないので、未来の知識と過剰な努力で、破滅の運命を覆します
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