第25話 遷都地獄を抜けたあたしたちは、大仏を造る!
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現代の極道のお嬢サツキが奈良時代の姫・光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
ただし、チートで歴史を変えることはできません。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史に忠実×成り上がり×極道流処世術――どうぞ最後までお楽しみください!
――それは、まだ紫香楽宮にいた頃のことだった。
山々は黒い海のように沈み、遠くで梟がひと声だけ鳴いた。
風もほとんどなく、燈台の火さえ揺れない。
まるで世界そのものが、静かに呼吸を止めてしまったみたいだった。
「光明……」
御簾の向こう。
聖武天皇――あたしのダーリンが、椅子に身を預けたままゆっくりと顔を上げる。
その瞳は、ここ数年でいちばん澄んでいた。
怯え、迷い、闇に沈んでいたときの色じゃない。
もっと深く、どこか決意の底の光を宿している。
「……決めたのだ。
この国を救う光を私が示す」
疫病で都が腐り、
地震で宮殿が崩れ、
反乱が起きても安らぎは訪れず、
遷都しても恐怖は追ってくるようだった。
ずっと怯え、逃げ続けていたダーリンの口から、その言葉が出た。
「あたしに……聞かせて?」
ささやくと、ダーリンは立ち上がり、玉筆を手に取る。
「光明。
……大仏を造る」
「大仏……?」
ダーリンは天井を仰いで、深く長い息を吸った。
「華厳経の盧舎那仏。
世界そのものを照らす、宇宙の光の仏だ。
――わしは、その大仏をこの国に造る。
民が仰ぎ、光に包まれるような……巨大な仏を」
盧舎那仏。
あらゆる存在を照らす光そのもの。
「国が闇に沈んでいるのなら、光を置けばよい。
それが仏の道であり……わしの、救いの形だ」
息が止まった。
(……この人、本気だ)
揺れていた瞳は、いまはまっすぐ前だけを見ている。
国を背負う者の目になっている。
ダーリンは筆を紙に落とした。
「――天平十五年、十月。
盧舎那大仏造立の詔を、この紫香楽より発する」
ざく、ざく――
夜の静けさに筆音だけが響いた。
一文字ごとに、ダーリンの迷いが削ぎ落ちていく。
つい数日前まで膝を抱えて震えていた人だとは、もう思えない。
(……強くなったんだね、ダーリン)
胸が熱くなった。
けれど同時に、冷たく重い予感も宿る。
大仏造立とは、国すべてを巻き込む巨大事業。
莫大な銅、木材、漆、布、紙。
民の労働、膨大な費用。
命が失われる可能性すらある。
これは、国を救うための賭け――
そして、天皇自身の魂ごと投げ出す覚悟。
「光明」
ダーリンは筆を置き、こちらを見つめてきた。
「そなたは……どう思う?
わしは、正しい道を選んだのだろうか」
その震える手を取って、あたしは言った。
「正しいかどうかじゃない。
救いたいって気持ちが、何より正しいのよ」
ダーリンはかすかに目を伏せ、
そして、ぼそりと零した。
「……光明。そなたがおらねば……
わしは、もう遷都も投げ出し……この世を去っていたかもしれぬ。
光明……わしは、そなたのおかげで生きている……」
涙で声が揺れた。
あたしは迷わず抱きしめ返した。
「当たり前よ。
あたしは皇后で……あんたの妻なんだから」
こうして――大仏造立は動き始めた。
そして還都が決まった今、物語は加速する。
◆
平城に戻ると、都はまったく別の生き物になっていた。
空気がざわざわ震え、
都中が巨大な歯車のように回り始めていた。
良くも悪くも――とてつもない勢いで。
「姫様ーっ! 人が足りませぇん!
何百人で運んでも追いつかない量なんですぅぅ!」
サチが絶叫しながら走ってきて、
アコは帳面を抱えたまま真っ青だ。
「物の値が跳ね上がっておりますー! 市場が地獄に……!」
「落ち着いて。ひとつずつ聞くから」
言っても、都は落ち着くどころかさらに加速していく。
大仏造営――
その一言で、平城京はひっくり返った。
◆
東大寺の敷地では、すでに地ならしが始まっていた。
街路は資材と荷車で埋まり、人も牛も音も叫びも渦巻いている。
「そこの木材は西の宮!」
「や、違う! 大仏殿の梁材だ!」
「えっ、どっち!?」
「知らん! 僧侶の指示を聞けぇ!」
官人は走り、僧が怒鳴り、役人が積み上げられた木材の山に登って叫ぶ。
あらゆる使者が駆け込み……もはや秩序など存在しない。
◆
そして――深刻な問題があった。
銅が足りない。
「姫様、越前の銅は三割のみ……!」
「陸奥は雪で閉ざされております!」
「東国からの船は……難破したと!」
「嘘でしょ……海も陸もダメなんて……」
その時、使者が倒れ込むように駆け込んだ。
「皇后さま!
陛下が銅の調達について意見を伺いたいと!」
来た――胸の奥が静かに震える。
(この時が来たわね)
ふっと、遠い昔の記憶が溶け出した。
◆
父・藤原不比等が健在だった頃。
長門国の長登銅山から、
大量の銅と木簡が屋敷に届いたことがあった。
木簡にはこう記されていた。
『調銅 進上
長門国 周防郡 長登山
銅三百斤』
「これが国を支える《《銅》》じゃ」
父の誇らしい声。
その銅のまばゆい輝き。
(あの銅……まだ残ってるはず)
不比等邸の蔵に、父が遺した国家の宝。
今こそ、その使いどきだ。
◆
ダーリンのもとへ走った。
「光明……銅が足りぬ。このままでは大仏は造れぬ。
どうするべきか、そなたの意見を聞きたい」
あたしは息を整え、迷いなく言った。
「父・不比等から相続した銅――すべて寄付いたします。
そして、長門国・長登の銅を大仏へ使いましょう」
天皇も臣下も息を呑んだ。
「長登の銅は、国家の宝だぞ……!」
「だからよ。
国の宝なら、この国を救うために使うべきだわ」
ダーリンの瞳が揺れた。
「盧舎那仏は光の仏。
国を照らし、民を照らし……ダーリンも照らすわ」
「光明……」
「父ならきっと言ってた。
『国を救うためなら、銅を惜しむな』って」
長い沈黙のあと――
ダーリンは決断した。
「……よかろう。
長登の銅、すべて大仏へ回す。
長門国司へ伝えよ!」
◆
夕刻。
長登の銅を積んだ荷車が平城京に到着した。
夕陽を浴びて、銅塊は赤く光った。
まるで山が黄金色に燃えているようだった。
「すげぇ……!」
「これが……長登の銅……!」
「大仏が……できる……!」
民のざわめきは、恐れではなく――希望だった。
廂からその光景を眺めていると、ダーリンが隣に立つ。
「光明……そなたの決断が、国を動かした」
銅の光がダーリンの頬を照らし、夕風がふっと吹いた。
(――あたしは、この人を守る)
大仏造立は混乱そのものだ。
けれどその渦の奥で、《《希望》》が生まれ始めていた。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
いかがでしたか?
時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
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次回もどうぞお楽しみに!
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