第24話 遷都して遷都して遷都して遷都した
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現代の極道のお嬢サツキが奈良時代の姫・光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
ただし、チートで歴史を変えることはできません。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史に忠実×成り上がり×極道流処世術――どうぞ最後までお楽しみください!
恭仁京への移動は、静まり返った混沌そのものだった。
馬の嘶き、荷車が軋む低い音、侍女たちの戸惑いを含んだ声。
官人は命令を飛ばし、兵たちは足早に行列を調える。
そのひとつひとつの動きが重なり合って、
まるで平城京そのものが巨大な生き物となり、
ゆっくり身を引きずるように道を進んでいるように感じられた。
「姫様……! どうしても、この荷物が……落ちそうなのです……」
サチが涙目で駆け寄り、アコは荷車の縁に必死でしがみついている。
「鏡を入れたんじゃないわね? 置いていきなさい。旅には重すぎるもの」
「ですが……皇后さまの鏡を置くなど……!」
「いいのよ。これ以上、牛に負担をかけたくないわ」
二人が土下座しかける勢いで恐縮するので、
あたしは苦笑して、そっと二人の頭に手を置いた。
「さあ、顔を上げて。進むわよ」
隣で、聖武天皇――ダーリンが静かにうなずいた。
恭仁京に着いても、そこに広がっていたのは都とは言いがたかった。
濡れた柱が寒々しく立ち、屋根は途中で止まり、部屋の中を風がそのまま通り抜けていく。
「これを……本当に都になさるの?」
思わず漏れた言葉に、ダーリンは視線を遠くへ向けて答えた。
「ここが……浄土に近いはずだ。そうであってほしいのだ」
その横顔は、長い夜を越え続けた者の影をまとっていた。
眼の縁は少し赤く、肩の力は抜け落ち、心の底が凍えているようだった。
「大丈夫よ。あたしがいるわ」
そっと背に手を添えると、彼はようやく微笑んだ。
「……光明。そなたがいなければ、私はもう折れていた。
側にいてくれてありがとう。これからも、ずっと私の側にいてくれ」
その声は、風に溶けて消えそうなほど弱かった。
◆
しかし、恭仁京での暮らしは、あまりにも脆かった。
雨が降れば建設は遅れ、
物流が滞れば食料が尽きる。
官人たちの不満は静かに積み重なる。
(……このままでは、誰もついてこられない)
その思いが胸をかすめた頃、またしても突然の命が下った。
「御方々《おんかたがた》、旅支度を。陛下は紫香楽宮へ向かわれます!」
「……また移るの?」
都替えには慣れている――はずだった。
それでも、この時ばかりは胸がざわついた。
「姫様、こちらの唐衣は風に弱いとのことで……!」
「陛下のお召し物が違います! 誰が取り違えを……!」
「牛車の並びがまた変更されています!」
サチとアコの声が宮中を走り抜け、
官人と兵たちは慌ただしく右往左往する。
その中心で、ダーリンだけがひとり、空を見上げていた。
焦点が定まらない瞳は、深い霧の向こうを見つめているようだった。
「光明……わしは、何かに追われている気がしてならぬ」
「誰に?」
「……わからぬ。
だが疫病も、地震も、乱さえも……
まるで誰かが仕組んでいるかのように続いている。
そんな気がしてならぬのだ」
その言葉に、背中を冷たい指がなぞるような戦慄を覚えた。
(……ダーリン。心が限界に近い)
彼の手をそっと握り返し、静かに言った。
「逃げるための旅じゃないわ。確かめるために行くのよ。
あなたひとりが背負わなくていい」
ダーリンはかすかに微笑んだ。
「……光明。そなたがいれば、私は歩ける」
◆
紫香楽宮では、安息という言葉がまったく届かなかった。
突風が建物を軋ませ、
湿気が文書を腐らせ、
疫病は形を変えて再び広がる。
ある夜、宮殿の片隅で、ダーリンは膝を抱えていた。
「光明……わしは、この国を……守れているのだろうか……?」
震えた声に、あたしはそっと寄り添った。
「苦しみは、あなた一人のものじゃないわ。
背負うなら、あたしと一緒に」
その時、外で雷が落ちた。
天井の梁が揺れ、官人が駆け込んでくる。
「光明、ここはダメだ。次は難波宮への遷都を――」
「……また行くの?」
「清浄な地を……探しておる……」
ダーリンは天井を見つめたまま、瞳の焦点をどこにも合わせられずにいた。
――そして難波宮へ。
◆
難波宮では、大地そのものが怒り狂っていた。
地震が続き、風雨は激しく、雷鳴は容赦なく空を裂いた。
山は唸り、地鳴りが腹の底に響き渡る。
ダーリンは震える手を伸ばしながら言った。
「光明……ここも、わしを拒んでいる……」
「大丈夫よ。山が吠えるなら、静かになる方法を探すだけ」
あたし自身の胸も震えていた。
この土地には説明のつかない気配があった。
祈りとも恐れともつかない何かが、空気の底に沈んでいる。
(……本当に何者かがいるのかもしれない)
疫病、地震、反乱、そして遷都を誘うように続く災厄。
偶然というにはあまりに出来すぎている。
ダーリンの疑いは、もはや妄想とは言えなかった。
◆
そして、天平十七年(745年)。
「光明……平城京へ戻る。
もう逃げぬ。
この国を呪う何者かを、わしは必ず暴く」
その声は、はじめて揺れていなかった。
あたしはそっと微笑んだ。
「ええ。あたしも行くわ。
この国を壊そうとしている黒幕なんて、絶対に許さない」
朝靄の向こうで、行列がゆっくりと動き始める。
遷都を繰り返し、闇に怯え、心を擦り減らした聖武天皇。
その隣に立ち、あたしは静かに息を吸い込んだ。
――奈良へ帰ろう。
すべてを見極めるために。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
いかがでしたか?
時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
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次回もどうぞお楽しみに!
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歴史部門:なろう日間2位 週間2位 月間2位 四半期2位 (1位はとれない)
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