第23話 行幸と遷都、彷徨の五年間
ご覧いただきありがとうございます!
現代の極道のお嬢サツキが奈良時代の姫・光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
ただし、チートで歴史を変えることはできません。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史に忠実×成り上がり×極道流処世術――どうぞ最後までお楽しみください!
夜の宮殿は、異様なほど静かだった。
ふだんは虫の声や侍女の足音がするのに、今日は風の音すら遠い。
――都が死んでいるみたいだ。
疫病で倒れていく人々の呻き声。
地震で崩れた蔵。
そしてあの藤原広嗣の乱。
まるで、誰かがこの国を壊すために駒を動かしている――そんな嫌な予感がする。
御簾の向こう、燭台の明かりに浮かび上がる聖武天皇の横顔は、まるで削り取られたみたいに細い。
「光明……」
お声は、かすれていた。
「あれは偶然では、あるまい……」
手が震えている。
「大地は揺れ、民は病に倒れ、広嗣は逆らい……
まるで何者かが、我らを追い立てておるようだ」
何者か。
その言葉に、背筋がぞくりとした。
不比等の娘として、宮廷の裏も表も知ってるつもりだったけど――
この規模の災厄の連続は、たしかに異常すぎる。
「あの……誰が、こんな真似を?」
あたしが問うと、天皇は御簾の内で俯いた。
炎が揺れ、その影が壁に広がる。
「……わからぬ。だが、平城京は――穢れている。
このままでは、都ごと、国が潰れる」
その声は震え、祈りにも呪いにも聞こえた。
あたしは思わず拳を握った。
(……誰かが疫病を操り、地震を起こし、乱まで誘っている?
そんなヤツ、許さねぇ)
暴れたくなる衝動を押しこめたところで、
ダーリンはゆっくり顔を上げた。
「光明。行幸に出る。
この地を離れ、伊勢へ、近江へ、そして山背へ……
天の兆しを確かめ、国を救う道を探す」
ついに出た――行幸。
王が都を捨てて旅に出る、非常事態の決断。
「……本気で行くの?」
「本気だ。宮廷ごと、動かす」
おいおい。
宮廷まるごと引っ越しって、極道の抗争よりハデじゃん。
牛車、文物、役人、警護、装束、神具……
全員連れて動けば、都ひとつぶんの大移動になる。
「危険よ。
外は疫病の地獄、道は地震で壊れてる場所もある。
広嗣の残党だっているかもしれない」
「それでも行く。
……このまま平城京におれば、いずれ我が死ぬ。
誰かに殺される。
そんな気がするのだ」
震える声が、あたしの胸に刺さる。
国の頂点にいる人間が、そこまで追い詰められてるのに――
あたしは何もできずに黙っている女じゃない。
「あたしも行きます」
天皇が驚いたように目を見開いた。
「光明、そなたは皇后だぞ。危険な道に――」
「皇后だからよ」
あたしはゆっくり歩み寄る。
御簾を少し上げ、彼の目をにらむように見つめた。
「この国を守る男の隣に立つのが、皇后の務めでしょうが。
都が呪われてんなら――あたしが浄めてやる。この手で」
ダーリンはしばらく言葉を失い、
やがて、深く息を吐いた。
「光明……そなたは、強いな」
「そりゃ、極道のお嬢ですから」
炎の光が、天皇の揺れを照らす。
でも、あたしの心はもう決まってた。
疫病でも、地震でも、反乱でも――
この国を壊そうとしてる何者かがいるなら、あたしがぶっ潰す。
「行きましょう、ダーリン。
都を出て、真相をつかみに行くのよ」
夜風が御簾を揺らし、遠くで雷が鳴った。
――夜明け前から、宮中は地鳴りのような騒ぎだった。
「え、姫様っ!? まだお召し物が決まっておりません!!」
「こっちの唐衣は伊勢向けです! 近江向けはどこ!?」
「牛車の順番、また変わりましたー!? 誰の指示ですかこれぇ!!」
侍女サチとアコの悲鳴が、廊下の向こうから断続的に聞こえる。
……出たよ。行事の朝って、毎回これ。
あたしは薄絹の寝間着のまま、まだ少し冷たい畳に腰を下ろして伸びをした。
今日から長旅。
天皇と宮廷の主要人物たちを連れて、疫病地帯と揺れまくりの街道を抜けるんだ。
そりゃあ大騒ぎにもなるわ。
「姫様ーっ!! 起きておられますか!?」
襖が勢いよく開き、サチが雪崩れ込んできた。
その後ろには、荷物を抱えたアコが青ざめた顔で続く。
「姫様っ! 荷物がっ! 荷物が……閉まりませぇん!!」
「どした、どれだけ持ってきたの? 米俵でも積んだ?」
「ち、違います! これはすべて皇后さまの日常必需品でして……!」
アコが掲げた長い巻物には、こう書かれていた。
《皇后日常品・行幸列挙》
・衣:旅装束×4
・唐衣×6
・調度品×10
・香炉×2
・鏡台×1
・薬物箱×1
・巻物×多数 ほか
「……おい、誰よこれ書いたの」
「わ、私では……! でも典侍さまが『皇后さまが困らぬように』と……!」
「困るわ、逆に!!」
あたしのツッコミにサチとアコは同時に触れ伏した。
「す、すみませぇんん!!」
「泣くな泣くな! 泣いたら余計に時間食うだろ」
立ち上がらせながら、あたしは巻物をくるっと丸め直した。
「衣は二組、唐衣は三つ。薬箱は必須で、鏡台はいらん。
香炉は……まあ一個だけ持ってきな」
「い、いいんですか!? 皇后さまの香炉がひとつだけで!?」
「極道のお嬢は荷物少ない方が強いのよ。覚えときな」
サチは感極まって泣き崩れ、アコは鼻をすすっている。
まるで出陣前の若衆みたいだ。
身支度を整える頃、外はすっかり朝の色に染まっていた。
薄紅の朝靄が広がり、馬車と牛車の列が門の外までずらり。
官人たちの怒号と馬の嘶きが渦を巻く。
「姫様、お支度がすべて整いました!」
「牛車の位置、皇后さまは天皇陛下のすぐ後ろです!」
「よし」
襖が開くと、朝日が差し込み絹の衣に反射した。
あたしが歩み出ると同時に、サチもアコも胸を張って続く。
まるで皇后親衛隊だ。
中庭を抜けると、
すでに聖武天皇が馬車の横に立ち、空を見上げていた。
その横顔は、昨日よりさらに痩けて見えた。
疑心暗鬼と恐怖が、長い影を落としている。
「光明……支度は、ととのったか?」
「あんたが先に倒れたら困るから、ちゃっちゃと終わらせたわよ」
天皇は小さく笑うが、その目はまだ揺れていた。
「行こう、光明。
都の外へ……真実を探しに」
サチとアコがそっと背中を押してくれる。
「皇后さま……どうかご無事で……」
「お気をつけて……!」
振り返って笑う。
「帰ったらまたこき使うよ。
部屋の掃除も山ほど残ってんのよ?」
二人は泣き笑いして頭を下げた。
太鼓が鳴る。
――行幸開始。
牛車がゆっくり動き出し、平城京の大路を進む。
朝日の中、あたしは車窓から広がる都を見つめた。
疫病に沈んだ街。
地震の爪跡。
広嗣の乱の余韻。
それらの影が、じわじわと遠ざかっていく。
「誰だろうね……この国を壊してるヤツ」
呟いた声は、車の揺れに吸い込まれた。
でも心は燃えていた。
――この行幸で、すべて暴く。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
いかがでしたか?
時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
感想をいただけるとすごく励みになります。
次回もどうぞお楽しみに!
さとちゃんぺっ!の完結済み長編歴史小説、良かったら読んでください。↓
歴史部門:なろう日間2位 週間2位 月間2位 四半期2位 (1位はとれない)
源平合戦で命を落とす安徳天皇に転生した俺、死にたくないので、未来の知識と過剰な努力で、破滅の運命を覆します
https://ncode.syosetu.com/n7575kw/




