第15話 律令制度がほころんでいく! 三世一身の法ってなに?
ご覧いただきありがとうございます!
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史改変×成り上がり×オラオラ皇后伝――どうぞ最後までお楽しみください!
昨年のことだ。
養老七年、西暦七二三年。
元正天皇の御代に、三世一身の法が施行された。
――そして時は流れ、あたしたちの時代。
聖武天皇の御代になって、三世一身の法はダメな顔を見せ始めていた。
庶民のための法だったはずが、いつの間にか貴族と寺院を儲けさせる制度になっていたのだ。
あたしは政庁の廊下を歩きながら、兄・武智麻呂に問いかけた。
「ねえ、兄上。あの三世一身の法って、どうなったの?」
「どうなった、か……」
兄は深いため息をついた。
「初めはよかった。土地を開けば三代にわたって自分のものになる。庶民にも夢を与えた。だが今や――貴族と寺院ばかりが得をしている」
「やっぱりね」
あたしは眉をひそめた。
「結局、力のある者が土地を占領して、庶民はただ働かされるだけ」
兄は黙ってうなずいた。
「庶民が鍬一本で山を切り開けると思うか? 実際に新しい田を作れるのは金と人を持つ者だけだ。
国は土地が増えたと喜んでいるが、税を取る相手は貴族と寺だけになりつつある」
「それじゃあ、庶民のやる気がなくなるわ!」
思わず口に出た。
「兄上、このままじゃ土地が国の手を離れる。
そのうち律令制度が嘘っぱちになっちゃうよ!」
「それが怖いのだ、光明子。だが、誰も止められん。法はすでに形骸化し始めている」
あたしは拳を握った。
午後、あたしとダーリン(聖武天皇)は変装して大路を歩いてみた。
美しい奈良の街並み。
朱雀大路をまっすぐ行き、羅生門から都の外を見渡すと――
……そこには、貧しい人たちの群れがあった。
むしろをかぶったやせ細った人。
横になって動かない人。
あたしとダーリンは顔を見合わせ、「やばいもの見ちゃったね」と小声でつぶやいた。
ダーリンが門の外に出るというので、あたしは門番に銭を渡した。
「夫の安全を守ってちょうだい」
先払い。これが極道のやり方だ。
貧しい人を見て、ダーリンは目を白黒させている。
しかたない。ダーリンに代わって、あたしがインタビュー開始。
「税を払えず逃げてきたんだ。だけど、門の中に入れてはもらえない」
「おらは……調を運び込んだものの、帰りの路銀が無くて故郷に帰れない」
「火事で父さんも母さんも死んでしまったの。今日も何も食べていない」
そう言って泣く子供もいた。
都の中は絢爛なのに、門を一歩出れば荒野。
羅生門の外には、飢えた人の死体が転がっていた。
門番が気さくに話しかけてきた。
「でもね、旦那。行基さまがいらっしゃる。聖武天皇というお方は今一つ信じられないけど、行基さまは信じられるよ。旦那も教えを乞うといい。行基さまは、貴族が信じているという仏の道を、無料で誰にでも教えてくださる」
――行基。
かつて写経をしていた時、不比等の邸で会ったことがある。
明るい僧だった。それが今では庶民のヒーローだ。
「旦那。行基さまは民とともに橋を架けなさる。池を掘りなさる。衣が無いものに、布を分け与えてくださる」
「ほう、それはそれは……」
ダーリンは少し気まずい様子。横顔に哀愁が漂っている。
「食べ物の無い者には米を与えなさる。病が治らぬものには治療をしてくださる。そして、ただ話を聞いてほしいという者には、耳を傾けてくださるんだ。
貴族さまの仏の教えは、五重塔やら立派なお堂を建てることのようだが、行基さまの仏の教えは、困っている人を助けるというもの。どっちが立派かな?」
「ううむ……」
ダーリンは目を閉じた。
もう、気まずさを通り越して悲しくなっているようだ。
即位の日、国中の人々に祝福されたと喜んでいたのに……。
「わたしも羅生門の門番をして、御上から銭をいただいている身だが、天皇さまより行基さまを素晴らしいと思う。先日も一緒に池を掘ってきたところだ。旦那も一緒にどうかな? 心が洗われる、それはそれは良い気持ちになれるんだ」
あたしは、ダーリンが心配になってきた。
素性を知らせていないから仕方ないけど、ハートにぐさぐさ刺さる物言い。
ダーリンはあたしの手をつかみ、必死に落ち着こうとしている。
「そうだな、一度、行基さまに会ってみよう」
――ついに来た。
藤原一族は富と権力にまみれた家系。
ダーリン・聖武天皇もあたしも、このままでいいのかと悩んでいたところだ。
「ダーリン、行基さまに会いましょう。今も昔も、『自分さえよければ』は人の本性です。飢えた民のあの痩せ方を見てください。あの者たちに米を与える行基さまって、すごすぎる。
藤原四兄弟は相変わらず昇進レースに夢中。宮廷の中は藤原色が濃くなりすぎて、はあ、見苦しい。
あたしたち、人間の嫌なところを誰よりも見てるのかもしれないわね。あたしまで心が汚れてきてる気がする。
……よし、行基さまを見習おうキャンペーン、開催決定!」
宮殿に戻り、まずは長屋王に相談した。
さすが長屋王、行基の噂はよく知っていた。
しかし翌朝、朝堂の会議で長屋王の声が冷たく響いた。
「陛下、行基は危険です。民の信を集めすぎている。民が僧に従い、陛下に従わなくなれば、この国はどうなります?」
ダーリンは静かに答えた。
「民が行基を慕うのは、行基が民のために働いているからだ」
「しかし、法は乱れますぞ。僧は寺に属すべきであり、勝手に集団を作るのは律令に背きます」
長屋王は一歩も引かない。
――その頑なな姿勢が、この人らしい。真面目一筋なのだ。
兄・武智麻呂も顔をしかめた。
「怪しいやつです。朝廷の許しもなく人を集めている」
でも、聖武天皇は首を振った。
「ううううむ……」
あたしは黙って見ていた。
ダーリンの眉が少しだけ寄る。
彼の心の中で、理想と現実がぶつかり合っているのがわかった。
沈黙。
遠くで牛の声が聞こえた。
その夜、あたしたちは行基を呼んだ。
風が庭の竹を鳴らし、月明かりが石畳を白く照らす。
サチが知らせる。
「行基さまがお見えです」
あたしは薄衣を羽織り、灯のゆらめく殿の奥へ進んだ。
そこには、聖武天皇とひとりの男が膝をついていた。
――行基。
噂に聞いた通りの男だった。
都で見慣れた派手な法衣ではなく、粗末な衣。
「お呼びにより参上いたしました。お久しぶりでございます」
静かな声。
聖武天皇は、まっすぐ行基を見つめた。
「ああ、久しぶりに会えて嬉しいぞ。……噂に聞いておる。おぬしは民とともに働き、橋を架け、池を作っていると」
「はい。国の端々では飢えた民が多く、土地を離れる者が絶えませぬ。
誰が彼らを救うのでしょうか?」
その一言に、あたしは息をのんだ。
聖武天皇が問う。
「民の苦しみをどうすれば和らげられる?」
行基は穏やかに微笑んだ。
「陛下。民は祈る場を求めています。
心を立て直すための場を。
それを与えることこそ、陛下の仕事でございます」
ダーリンの緊張が少し緩んだ。
灯がかすかに揺れ、白金の香炉から細く煙がのぼる。
聖武天皇はゆっくりとうなずいた。
「行基。おぬしとともに、民のための寺を建てよう。
貴族の名のための寺ではなく、民の心を照らすための寺だ」
行基の目に涙が光った。
「陛下。その御心があれば、この国は必ず立ち直ります」
夜が更けても語らいは尽きなかった。
聖武天皇は地図を広げ、都の外れに指を置いた。
「この場所に大きな堂を建てよう。
東の大地に立つ寺――それが民の希望になるはずだ」
あたしはその横顔を見つめ、胸が高鳴った。
「あんたの夢、あたしが叶える!!」
――それが、東大寺大仏建立計画の第一夜。
月は高く、奈良の空に金色の輪を描いていた。
ダーリンはあたしの手を握り、赤子のように眠った。
翌日、あたしはサチを連れて行基のもとを訪ねた。
粗末な草庵だった。
あたしは米を一俵差し入れした。
父・不比等から相続した藤原の蔵には、米はいくらでもあるのだもの。
行基の指示で、若い僧が人々に米を分け与える。
サチもすぐに手伝い始めた。
行基は土の上に座り、やせ細った子どもの口に粥を運んでいた。
「……あなたは、怖くないの? 役人たちがあなたを敵視している」
あたしの声に、行基は穏やかに微笑んだ。
「怖いですよ。けれど、恐れると止まってしまう。仏を信じて進むのみです」
「信じる、か……」
「ええ。陛下のことも、あなたのことも、私は信じています」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。
信じられたら、やるっきゃない!
あたしはそういう女だ。
「おうおうおうおう! 行基、あたしはあんたを守るわ」
「守る?」
「朝廷があんたを捕らえようとしても、あたしが間に立つ。
あんたの行いは、この国の希望だもの。守るって言ったら絶対に守るぅぅ!!」
行基は目を伏せ、合掌した。
「ならば、私はあなたをもっともっと信じます」
おうおうおうおう!
――この時、あたしはもう決めていた。
たとえ長屋王が相手でも、負けない。
この国を、幸せの国に変えてみせる。
それが、あたしの戦いの始まりだった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子として生まれ変わり、
歴史と恋と権力をオラオラで突き進む物語――いかがでしたか?
光明子の「怒り」は、時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
感想をいただけるとすごく励みになります。
次回もどうぞお楽しみに!
さとちゃんぺっ! の渾身の代表作。完結済みの長編です。 ↓↓↓ 良かったら読んでください。
源平合戦で命を落とす安徳天皇に転生した俺、死にたくないので、未来の知識と過剰な努力で、破滅の運命を覆します
https://ncode.syosetu.com/n7575kw/




