第11話 日本書紀 完成の宴 そして……
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本作は「ESN大賞9」参加作品です。
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史改変×成り上がり×オラオラ皇后伝――どうぞ最後までお楽しみください!
その日、藤原不比等の邸は、めちゃくちゃ賑やかだった。
大広間には高官や学者たちがずらり。香の煙がゆらゆらと立ちのぼり、笑い声と盃の音が交じり合う。
不比等は満足げに立ち上がった。
「本日、日本書紀三〇巻が完成した。天武天皇から引き継いだ一大事業を、ついに終えることができた。皆の者、長い間、ご苦労であった」
舎人親王をはじめ、学者たちは拍手喝采。
元正天皇も笑みを浮かべ、采女の笠目も目を細めていた。
首皇子――うちの旦那様――も、なんだか誇らしげ。あたしも胸がじんわり熱くなる。
料理が並び、酒が注がれ、場の空気は最高潮。
笠目が小声でささやいた。
「光明子様、あの白髪の方が舎人親王でございます。天武天皇のお子様、つまり首皇子のひいおじい様のお子様にあたられます。
日本書紀はもともと天武天皇が編纂を始められ、不比等様が総指揮、舎人親王様が編纂の責任者。――ほら、あれが日本書紀ですわ」
テーブルの上に、三〇巻もの書物がずらりと並んでいた。
思わず立ち上がり、あたしはそのうちの一巻を手に取る。……漢文。ぜんぶ漢文。
「ちっ、読めねぇ」
ああもう、チートしかない。
「――漢文をすらすら読みたいぞ」
ひそっとつぶやいた瞬間、文字が日本語に変換された。
すげぇ。これ便利すぎる。
なになに……この巻は神話の時代?
天地がまだ分かれず、陰と陽が混ざりあっていた――みたいな話だ。
サチが袖をつつく。
「姫様、読めるのですか? 読んでくださいよぉ」
「よっしゃー、いくぜ!」
「あのな、昔々、世界には上も下もなかった。光も影も、風も大地も、ぜんぶがごちゃまぜ。
まるででっかい卵の中みたいに、ぐるぐる混ざってたんだ。
そこから澄んだ光が浮かびあがって空になり、重たいものが沈んで地になった。
その境から三柱の神様が生まれた――天地創造の最初の三神、
国常立尊
国狭槌尊
豊雲野神
……これが日本の物語のはじまりってわけ」
「すごいですわ、姫様!」
サチがパチパチと手を打って喜ぶ。
そこへ阿倍内親王が手を振ってきた。
「お母たまぁ、こっちきて」
かわいい声。乳母に抱かれて、風に髪がふわりと揺れる。あたしは手を振り返した。
日本書紀三〇巻――あたしは夢中で読み進める。
……あれ、これって。
日本書紀のハイライトはやっぱり大化の改新だ。
豪族支配をぶっ壊して、天皇中心の国家を作る。蘇我氏を倒し、中臣氏――つまり藤原氏が政権を握る。
そして天武から持統、文武、元明、元正へと続く皇統。
この流れを読めば、今の天皇の正統性が一目でわかる。
つまりこの書は、「正しい歴史」を外国に向けて宣言するための国家の物語。
……天武天皇と不比等、つまり勝者の側が歴史を書いたわけだ。
「ねぇ笠目。もし大化の改新で負けた蘇我氏がこれを書いたら、どうなってたと思う?」
「そんな危ない質問には、お答えできませんわ」
笠目が目だけで笑う。まあ、そりゃそうよね。
それにしても――気になる。
皇太子の母はほとんどが皇族。近親婚が続いてる。現代感覚じゃちょっと……うん、複雑。叔父と姪とか、これからも続くの?
宴は歌と琵琶でさらに盛り上がった。
笠目が琵琶を手にしてあたしに目配せする。
「ほら、余計なこと考えず、一緒に弾きましょう」
渡されたのは――うわっ、これ、宮子さまが持ってたラクダの絵の琵琶じゃん! 教科書で見たやつ!
ふたりで前に出ると、どよめきが走った。
「光明子様と笠目が並んだ!」
「阿倍内親王の母君だぞ!」
「奈良で一番と三番の美女が共演だ!」
どっちが一番か聞きたいけど、やめとく。
笠目の横顔、まじで美しい。
琵琶を弾く指、流れるような動き。
あたしは笠目のリズムに合わせて音を重ねた。
人々が手を叩き、足を鳴らし、歌が響く。
――ああ、気持ちいい!
最後の一音を弾き切り、ジャンプで締めた瞬間、会場は拍手の嵐。
サチが走ってきて涙目で叫ぶ。
「姫様、すてきでした! 赤い衣が映えて、緑のヨウ鈿が輝いて、鳥の羽飾りも完璧です! サチ、うれしくて泣いちゃいました!」
あーもう、可愛いなコイツ。自分の仕上げた髪型と化粧がバッチリ決まって、誇らしいんだろう。
席に戻ると、首皇子が手を握ってきた。人前で。
「アスカ……いや、光明子。きれいだったよ。惚れ直した」
その言葉に、心臓が跳ねた。
――と、そのとき。不比等が席を立ち、あたしの肩をぽんぽんと叩いて部屋を出た。
トイレかな?
そのあと、舎人親王が編纂の裏話を語り、場はまた盛り上がった。
笑いと涙が交互に交じる中、藤原4兄弟の末っ子の麻呂がそっと囁く。
「父上の具合が悪いようだ。後で寝室に来てくれ」
宴が終わり、寝室へ行くと――不比等は横たわっていた。
母・三千代が寄り添い、膳女が震える声で報告している。
「食事も飲み物も、すべて私が毒味をいたしました。異常は……」
「全部見ていたの?」
「申し訳ありません、すべてでは……」
女は顔を伏せて泣いた。
サチが囁く。
「あの者は石上桐女。膳女でございます。……たぶん、責任をとって死にます」
場の空気が凍った。
藤原4兄弟の長男・武知麻呂が低い声で言う。
「ここ数日で変わったことは?」
「ありません」
「いつも通りです」
「ただ、お疲れのご様子でした」
――その夜を境に、不比等は目を覚まさなかった。
三日間、眠ったまま。
そして、四日目の朝。息が止まった。
邸内は、嵐のような騒ぎになった。
藤原四兄弟の声が飛び交い、弔いの準備が始まる。
日本を作った男、藤原不比等。
その死は、ひとつの時代の終わりを告げていた。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子として生まれ変わり、
歴史と恋と権力をオラオラで突き進む物語――いかがでしたか?
光明子の「怒り」は、時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
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「ESN大賞9」参加作品として挑戦中!
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
次回もどうぞお楽しみに!




