第10話 安倍内親王誕生と長屋王のグラス
ご覧いただきありがとうございます!
本作は「ESN大賞9」参加作品です。
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子に転生し、チート《つぶやいたことが現実になる》で歴史をぶっ壊す物語。
権力、恋、仏教、陰謀、すべてをオラオラで乗り越えます!
歴史改変×成り上がり×オラオラ皇后伝――どうぞ最後までお楽しみください!
――今日、あたしは母になった。
初夏の風が、薄絹の御簾をやさしく揺らしている。
生まれたばかりの娘は、いい匂いがして小さくて、
その呼吸のたびに世界が輝いた。
「おめでとうございます、光明子様」
サチが涙ぐみながら告げる。
笠目も琵琶を抱きしめ、静かに一音だけ鳴らした。
――ぽろん。
音の余韻の中で、あたしは娘を抱いた。
「安倍……内親王」
やがて、ひとりの使者が現れる。
長屋王からの贈り物――透き通ったガラスの杯。
陽の光を受けて七色に輝くそれは、
まるで娘の未来を映す宝石のようだった。
「美しい……」
思わず息を呑む。
だが、笠目が静かに囁いた。
「この色……いつまでも見ていられますね」
「長屋王さま、どんなお方なのですか?」
「ああ、光明子様は何もかもお忘れなのでしたね。
長屋王。……皇族の方です。藤原よりも多くの富を持ち、皇子や内親王もたくさんいらっしゃいます。政治では、不比等様と競い合っていらっしゃいます。ただ、まじめ一方というか、融通が利かないところがありまして、不比等様とはウマが合わないように見受けられます」
外では、天気が急変したようで、風が強くなっていた。
遠くで、鼓の音が鳴っている。
祝いの音にも似て、どこか不吉な調べ。
稲光がした。雷がむすけ
産後の体が痛い。
胸の奥で、なにかがきしんだ。
幸福の裏で、歯車が動き始めている――。
腕の中の娘が、かすかに笑った。
その笑顔を守りたい。
どんな嵐が来ようとも、この子だけは。
乳母の泰女が娘を抱き上げる。
湯につけ、着替えをさせるようだ。
あたしは雷の音を聞きながら、少し眠った。
どのくらいたっただろう。
首皇子が見舞いに来た。
乳母が抱く娘をのぞき込んでいる。
「なんとかわいらしい内親王だ。このほっぺ、この手指、たまらないねえ。それより、光明子は変わりないか? 食べたいものがあればなんなりと申すがよい」
そう言って、後ろからあたしを抱きしめた。
「内親王よりかわいい女がいる。それは、光明子だ!!」
今日は髪を結っていないからか、皇子はあたしの頭をわしゃわしゃして、頬に頬をつけた。
「ああ、ごめん。疲れているの? そうだよね。ゆっくり休んで、見ているから」
皇子も寝台にもぐりこむ。そして、後ろから抱きしめてくる。
サチが入ってきた。
「お祝いの品が届いています。お持ちしますか? 明日にしますか?」
「明日でいいよ」
皇子が先に告げてしまう。
「聞いてほしいことがあるんだ」
皇子は指をからめてくる。
「光明子がこんなにがんばって、かわいい内親王を産んでくれたこと、ありがたいと思っている。だから、阿倍内親王は時期が来たなら、皇太子にしたい」
「え? 女子ですが」
「だから何?」
「県犬養さまの内親王はどうされるの?」
「伊勢の斎王になる」
「え」
「内親王は伊勢の斎王にならなくちゃいけない。あの子はその役割を背負って産まれた子だ。だから、この子、阿倍内親王は私の後を継いで、皇太子に、そして天皇になる」
あたしは、言葉もなかった。
本物の奈良時代の姫なら、ここは喜ぶところなんだろう。
でも、あたしは産まれたと同時に皇太子にすると言われても、戸惑うばかり。それに県犬養の子は、斎王とやらになるらしい。なんとなく複雑な気持ち。
あたしはつぶやいた。
「皇子、さっさと眠ってくれ」
皇子は寝台で寝息を立て始めた。
あたしは、そっと抜け出して赤子の頬をつついた。
ふっくらした頬。眠っているのにちいさな唇がちゅっちゅと動いている。
どんな夢を見ているんだろう。
ーーこの子を守っていくと、心に決めた。
♪♪黒猫クロエの奈良情報♪♪
◆斎王とは
天皇の「代わりに神に仕える女性」のこと。
特に有名なのが――
伊勢神宮の斎宮に仕える伊勢斎王。
奈良時代から制度があって、
「天照大神に祈る天皇の妹か娘」が選ばれていたにゃ。
つまり、皇族の女性限定。
普通の貴族の娘には絶対なれなかったにゃ。
◆役割と生活
伊勢神宮の神事(祈祷・祭祀)で、天皇の代理人として神に祈る。
「国家の安泰」「五穀豊穣」「天皇の無事」などを祈る。
斎王は穢れを嫌うため、恋愛・出産・死などから完全に遠ざけられる。
だから、清浄を保つために専用の屋敷、斎宮で暮らす。
そこでは神女・女官・童女・楽人など500人以上が仕えたといわれているにゃ!
◆選ばれ方
天皇が即位すると、卜定という占いで選ばれる。
候補は皇女・内親王の中から。
例えば、 天武天皇の娘・大来皇女
聖武天皇の時代では井上内親王なども斎王候補とされていた。
◆退下=神に仕える任期の終わり
新しい天皇が即位したとき、または不吉な出来事(天変地異、親族の死など)が起こったときに退下。
都へ戻る時には還俗といって、普通の女性の身分に戻る。
還俗した斎王は多くが宮廷の女性として再び仕えたり、皇后や后妃になったりする。 つまり――神に仕えた清らかな女性として、婚姻の格が上がるにゃ!
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
現代の極道のお嬢が奈良時代の光明子として生まれ変わり、
歴史と恋と権力をオラオラで突き進む物語――いかがでしたか?
光明子の「怒り」は、時代を越えても通じる女の強さ。
どんな時代でも、あたしたちは自分の信じる正義で生きていける。
そんな想いを込めて書きました。
感想をいただけるとすごく励みになります。
「ESN大賞9」参加作品として挑戦中!
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
次回もどうぞお楽しみに!




