ゴマアザラシはもう結構!
多摩川の河口に、一頭のゴマアザラシが現れた。
人々は彼を「タマちゃん」と呼び、笑顔で手を振った。
カメラを向け、グッズを作り、ニュース番組では連日その姿が流れた。
「引き取って水族館で保護すべきだ」という声も上がった。
だが、結局はこう決まった——
「自然のものは自然に」。
つまり、自由を尊重するということだ。
タマちゃんは、川の流れに身を任せながら考えた。
「自由って、なんて心地いいんだろう」
けれども、夜になると少し寂しくなった。
ファンも報道も、ブームが去ると潮のように引いていったからだ。
そんなある日、数名の水族館職員が川にやって来た。
看板には「リッゲン水族館」と書かれている。
彼らは笑顔でこう言った。
「保護ですよ、保護。あなたを安全な水槽で暮らさせてあげたいんです」
言葉は優しかったが、タマちゃんの鼻先には、いつの間にか網が構えられていた。
それを察したタマちゃんは、急いで川を下った。
多摩川から鶴見川へ、さらに帷子川へ。
逃避行の果てに出会ったのが、同じく放浪中のゴマアザラシ、シンちゃんだった。
二頭は意気投合し、仲良く泳ぐようになった。
ところが間もなく、別のニュースが飛び込んできた。
「自由水族館連合」が、新館長を迎え、話題の動物を集めて再起を図るというのだ。
関係者を通じて、タマちゃんに正式な招待状が届いた。
「新しいステージで、あなたの『人気』を活かして輝いてみませんか?」
シンちゃんは大喜びした。
「すごいじゃない、タマちゃん! いよいよ僕たちの時代だ!」
彼は先に自由水族館連合へ向かい、飼育員たちに愛想を振りまいた。
だが、世の流れは速い。
リッゲン水族館が、あろうことかゴウメイ水族館と合併したのだ。
名前は長くなったが、勢力は倍増。
関係者の間では、「あの連合なんて目じゃない」と囁かれた。
タマちゃんの胸がざわめいた。
「こっちのほうが組織の規模が安全で、人気もありそうだな……」
彼は、あっさりと心変わりした。
「個人の人気なんて、組織の『数』の前では脆い。選ぶべきは強いほうだ」と、かつて捕獲しようとした職員たちのことも、もう遠い昔のことに思えた。
シンちゃんは呆れた。
「自由水族館連合から『人気者』として声がかかってるのに?」
「だって、リッゲンとゴウメイが組めば無敵だよ。組織力(数の力)ってすごいだろ? そっちのほうが安心できる」
「……数が揃えば、あなたという『人気という不安定な個』はいらなくなるかもしれないよ」
「そんなこと、あるもんか」
タマちゃんは意気揚々と、リッゲン=ゴウメイ合併水族館の門をくぐった。
白いスーツの職員たちが出迎え、フラッシュが焚かれた。
得意満面のタマちゃんは、にこやかに言い返した。
「これもひとえに、私の人気あっての——」
だが、その言葉は途中で止まった。
目の前の看板に、巨大な文字が掲げられていたのだ。
『ゴマアザラシはもう結構!』
タマちゃんは目を疑った。
「えっ……どういうことですか? 私を『目玉のポスト』に迎えてくれたのでは?」
職員は、淡々と答えた。
「いやあ、申し訳ない。合併の結果、組織が合理化され、水槽の数が減りましてね。それに、うちの既存のゴマアザラシの『数』で十分なので、これ以上新たなゴマアザラシを増やす必要がなくなったんですよ」
「では、私は——?」
「あなたのお気持ちはありがたい。でも、必要だったのは『タマちゃんという目立つ個体』ではなく、『合併による安定した数(組織規模)』のほうでしてね」
横にいたゴウメイ側の職員が、柔らかい笑みを浮かべた。
「それに、うちのゴマアザラシたちは『組織の平和と安全』のために、他の個体とは『距離』を置きたいそうで。ご理解とご協力、お願いしますね」
タマちゃんは、しばらく言葉を失った。
人気に溺れ、より大きな力(数)を選んだつもりが、結局「数の論理」で「余分な個体」として切り捨てられたのだ。
振り返ると、遠くの自由水族館連合から歓声が聞こえた。
イルカやアシカが跳ね、観客の笑い声が響く。
あそこは、タマちゃんの『人気』を求めていたはずだ。
もう、彼の居場所はどこにもなかった。
数日後、多摩川の河口。
タマちゃんは泥混じりの水をすすりながら、シンちゃんに言った。
「裏切られたよ……。数が全てだったなんて」
シンちゃんはため息をついた。
「だから言ったのに。『1番じゃなくてはいけない!んです』って」
二頭のアザラシは、灰色の川を並んで泳いだ。
冷たい風が吹き抜け、どこかで鉄橋の音が響く。
タマちゃんは空を見上げてつぶやいた。
「自由って、こんなに狭かったっけ」
シンちゃんが小さく笑う。
「でも、ここなら『押すなよ押すなよ』って言われずに済むでしょ。誰にも利用されない」
二頭の影は、ゆっくりと流れに溶けていった。
どこへ流れ着くのかも知らぬまま、
ただ、川の音だけが静かに響いていた。
『某国民◯◯◯』のタマちゃんに捧げる!物語。
そして
うちの次男が折角投票したのに…ガッカリだよ
◯木とぼやいてなさった。信用するからだよw
所詮アヤツは進◯郎の前のネタ枠だった男だから…




