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17話 手掛かり ~蒼目線~

「・・・え? 今日は学校休み?

 な、何でなの? 栗原さん・・・。」


『いやー、休みと言っても

 今日丸一日ってワケじゃないから!』


 学校に行こうと思って

 玄関を出ようとした瞬間、

 栗原さんから電話がかかってきた。

 

 内容は、今日は学校は休み、

 との事だった。


『午前中は何か学校に偉い人が

 来るかなんかで休みだけど、

 午後からは普通に来いって。』


「あ・・・そうなんだ。 教えてくれて、

 ありがとう。助かったよ。」


『いやーだってさ、クラスん中で

 一番最初に教室来んのって

 蒼くんだし。 だから一番最初に

 言っておかなきゃと思ってね。』


「あ・・・じゃあ、二番目にいつも教室に来る

 高畑くんに連絡網みたいに

 この事を電話で言えばいいかな?」


『あ、それはいいよー。 私が言っておくから。』


「ごめん。 ありがとう。 あ、じゃあ、また。」


 そう言って僕は電話を切った。


 僕は暇だから、いつも早めに学校に行く。

 その後、高畑くんが来る。

 

 高畑くんを初めて見た時、

 その真っ赤な髪の色を見て、

 ヤンキーみたいな頭だなぁと、驚いた覚えがある。

 けど、話してみると案外、恐くなかった。

 それどころかF組はみんな変わっているけど、

 高畑くんはその中でかなりまともだ。

 人は見かけによらない、というのは本当だと思う。


 あと、中山くんも真面目でいい人だと思う。

 でも教室にはいつも最後らへんに遅刻しない程度に来る。

 でもそれは、中山くんには弟と妹がたくさんいるらしくて、

 その子達の見送りや弁当作りなどで忙しいらしい。

 そーゆーの、えらいなぁと思う。


 皆それぞれ、自分なりに頑張ってる。

 それに比べて僕は・・・・・


 僕は、場面寡黙症ばめんかもくしょうという、

 病気みたいなのをもっているらしい。

 その名の通り、場面によって

 口数が減る、という病気だ。

 僕は学校だと、口数が減る。


 原因は、大体分かっている。

 女子の過剰な干渉と

 男子のいじめ。


 女子にはいつも、私と付き合う方がいい、だの

 いや、自分と付き合った方がいい、だのとうるさくて、

 男子は、女子にやたら好かれている僕を憎んで

 悪口を言われたり、水をかけられるだの酷い事をされた。


 そのせいで僕は学校を休みがちになり、

 軽い女性恐怖症みたいなのにもなった。

 そして、休みがちだったからか

 僕は留年する事になり、今に至る。


 学校じゃなければ普通にしゃべれる。

 さっきの電話も、場所は一応、家にいるからだ。


 この、あと少しで腰まで届くくらいの

 長い髪も、自分の顔を隠すため。

 この髪型にしてから、女子からは逆に嫌がられるようになった。

 それに僕はもともと霊感があるから、

 僕には、こーゆー髪型の方が似合う。


 でも、F組に入ってから、僕は少し変わった。

 長い髪は相変わらずだけど、

 軽い女性恐怖症だったはずなのに、

 僕はF組の女子とだけは接する事が出来るようになった。


 そして、一人の女の子を好きになった。

 女性恐怖症になってから初めてのことだ。

 もう、女性恐怖症は治っているんじゃないかと思ったけど、

 どうやらF組の女子以外は無理なようだ。


 でもまあ、良かった。

 せめて、F組の女子だけでも・・・ね。

 本当はもちろん、完治を望むが、

 そんな我がままは言っていられない。


 ・・・そういえば、さっき栗原さんが言ってた事。

 偉い人・・・? 何だろう。


 僕はさっきから、少し引っかかっていた。


 もし、学校に偉い人が来るなら、

 事前に先生が言うはず・・・・

 ましてや、僕たちが休む事になる程の人だったら、尚更だ。


 ・・・どうしよう。

 気になって仕方がない。

 皆、変だと思わなかったのかな・・・?

 もしかして、そう思っているのは、僕だけ?

 ますます気になってきてしまった。


 とりあえず、他の人に聞いてみよう。

 携帯のアドレス帳に書いてある

 F組、皆の番号に電話をかけてゆく。


 だが・・・・・


 何故、誰も電話に出ない!!??

 電話に出んわ・・・・

 くだらない事がつい、頭に思い浮かぶ。

 でもまだ、一応連絡していない人は一人、居るのだが・・・

 恐いから、ちょっとかけるのを躊躇ためらわれるな・・・・


 それでもしょうがないので、

 渋々、携帯のアドレス帳から高畑くんに電話をかける。


『・・・・はい。』


 呼び出し音が三回くらい鳴ったところで、

 高畑くんが電話に出た。


「あっ・・・あの、高畑くん?

 えと・・・あの、その・・・・」


 何からどう話せばいいか分からず、

 おろおろ戸惑う僕に、高畑くんは


『んだよ。

 あわてやがって。

 キショいんだけど。

 ・・・・何、学校の事?』


「え? あ、うん。

 栗原さんから電話、あったよね?」


『おう。 あったぜ。

 つーかさ・・・栗原といいお前といい・・・

 なんで電話なんだよ? 今の時代には

 メールという素晴らしい技術があんだろ。』


 そして、いきなり高畑くんは難しい専門用語を使いながら、

 メールと電話について熱弁し始めた。

 頭痛がするようなわけの分からないカタカナの羅列を

 さらさらとつっかえずに言う高畑くんを見て、

 機械系おたくなのかなぁと、ふと思った。


 だが、僕はメールが苦手なのだ。

 少しの文章でも、ありえないほどに時間がかかる。

 だから、いくら熱弁されても困るだけだ。


 しばらくすると、言いたい事を言い切って満足したのか、

 ふぅ・・・と受話器越しに高畑くんが息を吐き、


『ま、いーや・・・なあ、そういえばさあ、

 栗原の言ってる事、なんかおかしいと思わねーか?』


「っ・・・・!

 それ、僕も思った・・・

 だから、高畑くんに電話かけたんだけど・・・」


 良かった。同じだった・・・


『んー・・・やっぱそーか。

 アイツ、ついに動き出しやがったなぁ・・・』


 ん?

 ・・・・ついに?

 高畑くんは・・・何か知っているのか・・・?


「あのっ・・・高畑くん、それ、どーゆー意味?」


 つい、聞いてしまった。


『あっ・・・ヤベッ・・・

 じゃなくて!!

 いや、その、何でもねーよ。』


「はぐらかさないでよ。」


『うっ・・・・』


 僕はピシャリと言い放つ。

 ここは学校じゃない。

 そう。普段の僕はもっと、強気。

 普段と違う僕に驚き、焦ったのか、


『ッ・・・・分かったよ。

 教えてやっから、今から俺ん、来い。』


 しばしの沈黙の後、

 めんどくさそうに高畑くんが言った。


「高畑くんの家?」


『そ。

 メールで地図、送ってやっから。

 そんでも分かんなかったら、電話しろ。じゃ。』


 ブツッ。ツー、ツー、ツー・・・・・


 ・・・一方的に電話を切られてしまった。


 高畑くんの家・・・かあ・・・

 うわさによると、一人暮らしだって聞くけど。


 とりあえず、行ってみよう。


 だが、その後送られてきた地図は、少し拡大された地図に、

 ウチの学校と、近くの駅と、

 高畑くんの家の場所と思われる所に、赤い丸が。

 文章も何も無しに、

 地図だけ。


「・・・さすがにこれは無理だよ・・・・・」


 そして、電話で何度も怒鳴られながら、

 どうにか高畑くんの家までたどり着いた。


 結構綺麗な、マンションだ。


 部屋の番号を聞き、

 その部屋のドアの前まで来た。


 ピンポーンとインターホンを押すと、

 それに出ずに、高畑くんがいきなりドアを開けて出てきた。

 インターホンの意味、皆無。

 凄い速さで開いたそのドアにぶつかりそうになったが、

 かろうじて、その前に軽く避けた。


「・・・ん。入れよ。」


 顎を自分の部屋の方へくいっと動かし、

 ドアを開けたまま、すたすたと奥へ行く。

 僕はあわてて入り、ドアを閉めた。


 高畑くんの入っていった部屋を見てみると、

 どうやら寝室のようだった。

 ベッドと、本棚と、机。

 そしてその机の上に、電源の付いた

 デスクトップのパソコンが。

 殺風景すぎる。

 何か、もっと散らかっているイメージがあったんだけど・・・

 でもまだ部屋はあるし、そこが散らかっているのかも。


 ここのマンションの部屋は、

 高校生が一人で住むには十分大き過ぎる所だった。

 奥にリビングらしきものが一つ、

 そして、おそらくそのリビングにも、何部屋かあるだろう。

 この寝室が一つ、

 あと、トイレらしきものが一つ。

 あとその他もろもろで・・・・・

 7、8つ。

 ざっと見て、7、8つは部屋があると思う。

 恐らく、3LDKくらいだろうか。

 少し・・・・広過ぎる、かな?


 そんな事を思っていると、

 高畑くんはパソコンの置いてある机の椅子に座り、

 机の引き出しから、おもむろに眼鏡を取り出した。


「・・・っ、

 高畑くん、眼鏡するんだ・・・?」


 意外・・・

 意外過ぎる。

 似合わなさ過ぎる。

 ・・・失礼だな。うん。


 そんな僕の思考を読み取ってからか高畑くんは、

 手を止め、こっちを見て、


「んだよ。何か文句あんの?」


 僕を軽く睨んだあと、

 まあいいやとでも言うように、眼鏡をして、

 またパソコンのキーボードを打ち始めた、高畑くん。

 何これ・・・・誰?


 目の前に広がる光景が、

 あまりにありえなすぎて、混乱する。


 ・・・・あれ、そういえば、

 高畑くんって良く見ると・・・

 結構、かっこ良い。


 銀縁の眼鏡をして、

 真剣にパソコンに向き合う高畑くんは、

 普通にかっこ良く見える。


 これなら結構、女子にモテるんじゃないかなー・・・


「おい、オマエ。」


「えっ!? な、何?」


 ぼーっとそんな事を考えてると、

 いつの間にか高畑くんが手を止めこちらを見ている。

 いきなり声をかけられ、少し、ビビった。


「あのさあ・・・

 いつまでもそんなトコ突っ立ってないで

 早く入って来いよ。そこまで遠慮されると調子狂うんだけど。」


「え? あ・・・・」


 僕はまだ、寝室に入らず、

 廊下で突っ立っている。

 どうしようかと、おろおろとして、

 廊下のフローリングの軋む音がした。

 ・・・・だが、いきなり人の家にきて、

 いきなり寝室に入っていいのだろうか?

 なんていうか・・・まあ、失礼てのもあるけど、

 なんか・・・なんていうか・・・・


 僕はいつの間にか顔が赤くなっていたみたいで、

 高畑くんが一瞬、驚いた顔を見せ、

 また、眉間にしわを寄せる。


「オイ・・・オマエまさか、

 栗原と立花に色々言われて、

 ソッチ系に走ったんじゃないだろーな・・・」


「え!? いや、違うよ!!

 ・・・・失礼、します。」


 恐ろしい誤解を解くため、

 おずおずと入る。


 すると、高畑くんは目をパソコンに戻し、

 またキーボードを打ち始める。

 それにしても、すごい速さでキーボードを打つ。

 何かすごいなあ・・・と、英斗くんに気迫負けしていると

 しばらくしてから、


「ん。これ。見てみ。」


 と、高畑くんがこっちを見ながら、

 パソコンの画面を指さす。

 素早く動いていた手はもう、止まっていた。


 恐る恐る画面を見てみると・・・・


「・・・・え? これって・・・・・」


 すると、高畑くんは淡々と言った。


「これ、警察の秘密のデータベース。

 まあその、金とか権力とか使って

 自分の犯した罪を無き物にした、

 最ッ悪なやつら。」


 そんな警察の秘密のデータベースに

 アクセスできる英斗くんに驚いた。

 けど・・・・それよりも前に・・・


 雑誌やテレビで一度は見た事のある、

 超有名人とか大物の中に、

 一人だけ、幼い、平凡な顔。


 恐らく、中学生くらいだろう。

 だが、その中学生の顔に少し、見覚えがあった。

 今より少し鋭さに欠けるが、

 中学生とは思えない、冷たい表情。

 光の無い、黒い瞳・・・・・・

 間違い・・・ない。

 この人は・・・・


「く・・・栗原、さん・・・・?」



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