15話 蘇る想い ~亮太目線~
チシャの転校疑惑が晴れた日、
オレは放課後、アリスに呼び出された。
アリスは第三公園に来て、と言っていた。
第三公園はいつも人がいなくて、
周りも人通りがものすごく少ない。
どうしてこんな人気が無い所に
公園があるんだ?と思うくらいにだ。
おそらく、他人にはあまり聞かれたくない
話題なのだろうと思った。
オレは、何か悩み事とかの
相談かな?と思っていた。
でも、その予想は大きく外れた。
オレはアリスに脅された。
・・・いや、言い過ぎかもしれないけど。
でも、オレの好きな人をその人の前でバラす。
と言ってきた。
普通なら、そんなに焦りはしないだろう。
まあ、人によるかもだけど。
それに人には普通、好きな人のことよりも
もっと重大な秘密があるハズだ。
だが、好きな人はオレにとっては
バラされるとかなりキツイ。
バラされるくらいなら、死んだ方がいい。
と思うくらいに重要な事だ。
そして、オレは反射的に、
「何をすれば・・・秘密にしといてくれるんだ?」
こう言ってしまっていた。
するとアリスは、思いがけない事を言った。
「・・・私と付き合ってくれるなら、
秘密にしといてあげる。」
「・・・え?それって・・・」
その瞬間、アリスはオレに
抱きついてきた。
すると、泣きそうなか細い声で、
「私だって・・・こんな形で
言いたくなかったけどっ・・・!」
アリスは、オレの右頬に手をあて、
オレの左頬にそっと唇が触れるだけのキスをした。
驚きという感情がオレの顔に出る前に、
息をつくヒマも無くアリスは
「・・・好き。大好き。ウサの事が・・・
大好きだよ・・・・」
小さいけれど、はっきりとした声だった。
オレはショックだった。
アリスの想いに気づくことが出来なかったからだ。
・・・アリスの気持ちは痛いほど分かる。
好きだけど、その気持ちを伝える事は出来ない。
この関係を壊したくないから。
でも、日に日に好きという気持ちはふくれ上がり、
やがて制御出来なくなり、
おだやかなアリスが人を脅すような事をする。
でも、それは本当に好きな人がいる時だけ。
・・・いや、好き、じゃなくて
愛している。それほど強い想いを持っている時だけ。
そんなに誰かを強く愛した事のある人は、数少ないだろう。
・・・オレも、アリスみたいに脅していたら、
好きな人と付き合えたのだろうか。
何だかそれは、違うような気がする・・・・・・
そう思いながら、オレはアリスを抱きしめ返し、
一言、うん。とだけ言った。
その後の事は、あまりはっきりとは覚えていない。
次の日の朝、アリスが二人だけで学校に行こうと言ってきた。
チシャは先に行ってしまったらしい。理由は分からないけど。
学校に着いて、アリスは皆の前で、
自分たちが付き合い始めた事を言った。
その時チシャの方をチラッと見てみた。
無表情だった。というよりも、
感情の読めない表情。
他の人は、複雑な顔をしていた。
・・・まあ、いきなりだからな。
その後は、オレは誰とも話さずに、
ずっと机に突っ伏せていた。
皆が具合が悪いのかと心配していたけど、
気にしなかった。
放課後、アリスが一緒に帰ろうと言っていたのを断って、
オレは一人でさっさと帰ることにした。
・・・すると、下駄箱に手紙が入っていた。
何だろうと思い、開けてみると、
『放課後の4:30に裏庭に来て下さい。』
最初はラブレターか何かかと思った。
だが、そうにしては色気の無い、真っ白な手紙だ。
封も、セロハンテープでしてある。
とりあえず行ってみる事にした。
裏庭に行く道は一つしかない。
ちょうどその道を通っている時だった。
上から大量の水が落ちてきて、
オレは全身びしょ濡れになってしまった。
急いで上を見たが、そこにはもう、
人の気配は無いようだった。
びゅうっと冷たい風が吹いてきて、
オレはくしゅん、と、くしゃみをした。
・・・このままでは風邪を引きそうだ。
待ち合わせのやつは多分、
水をかけるためのものだろう。
とりあえず、オレは急いで家へと帰った。
本当は、学校のシャワー室を借りるなり、
先生に言ってすぐに着替えさせてもらったりしても良かったんだけど、
なんせオレは落ちこぼれクラスだから、
あまりクラスから出て普通のクラスの前など、
学校内をうろついていると、
他の人が悪口を言ってくることがあるから、やめた。
家に着いた頃には寒気までしていて、
これはちょっとヤバいな、と思った。
とりあえず急いで着替えて
シャワーを浴びて、ベッドにもぐりこんだ。
部屋はシーンとしていて、
聞こえるのは時計の針の音だけ。
オレは、一人暮らしにしては、やっぱりここは広すぎるなと思った。
親は、物心ついた時からもういなかった。
別に、寂しくなんてない。
親の事はこれっぽっちも覚えていないから、
最初からいなかったかの様にも思える。
「は・・・はくしゅっ!」
さっきよりくしゃみが大きくなっている。
・・・これはもしかしたら、本当に風邪、
引いちゃうかもな。
最初は浅い眠りを何度かくり返し、
くり返していくうちに、深い眠りに落ちていった。
・・・昔の事を思い出していたからだろうか。
オレは、昔の頃の夢を見た。
幼稚園くらいの頃。
アイツと遊んでいる。
ようやく、オレは自分と理解し合える人を見つけたんだ。
その時だった。
いきなりパッと場面が変わり、
どこかの学校の教室の場面になった。
・・・この教室、もしかして?
忘れるハズのない、あまりにも見覚えのある、教室。
オレは人を待っている。
教室内をウロウロしながら、時々、机の上に座ったりして。
そしてその時、ゆっくりとスローモーションの様に、
教室の扉が開いてく。
そこには・・・・・・・
その瞬間、オレはバッとベッドから飛び起きた。
「あ・・・そっか・・・夢か・・・・・。」
悪夢のようで、悪夢じゃないような、夢。
せっかく忘れかけていたのに、鮮明に蘇ってしまった。
思い出しただけでオレは目が眩む程の
陶酔感を覚えた。
途端にオレはあの時の気持ちが蘇り、
ずっとふたをしていた気持ちがあふれ、止まらず、
それを表しているかの様に、涙があふれてきた。
オレはアイツの事が、好きだった。
いや・・・だったではない。
今も、アイツの事が、好きなんだ。
やっと、オレはハッキリと自覚した。
自分の、気持ちに。
今までも好きだったけど、
こんなに好きになっていた事に気づかなかった。
いや・・・好き、じゃない。
愛している。深く、深く。
こんなんじゃ明日、どうすれば良いのか分からない。
学校に行きたくない。そう思ったのは初めてだ。
・・・風邪、引かないかな。
今なら引けそうな気がする。
ちょうど寒気がすごいし。
そんな事を思いながら、
またオレは眠りについた。
今度は、何の夢も見なかった。
そういえば最近、藤田先生の存在をすっかり忘れていた事に気づきました。
まあ、もともと影薄いキャラなんでね;
次回にでも出そうかな・・・なんて思っています。