10話 幽霊事件 (1) ~美留目線~
「え~と・・・これは
どういうコト?」
目の前にいる
みめ麗しい人に、
私は問いかける。
「えっと、だからですね、
私はこの男の人に取り付いた
幽霊なんです。私を成仏させるために、
私を自分に取り付かせたんです。」
「あ・・・ああ・・・そういうコトかぁ・・・」
そうは言ってみたものの、
いまいち腑に落ちない。
「それで、何をしたら、
成仏するの?」
成仏しない霊には、
この世にまだ未練がある。
というコトは、その未練を晴らしたいハズだ。
「えと、実は私・・・
一度、男の人とキスをしたいんです・・・」
「え?あ、ああ・・・」
やっぱりこの人は女の人だ。
見た目が男なので、なかなか
女と信じられなかったのだが。
それに、この人は、若いうちに
死んだのだろう。
長く生きてれば、一回ぐらいは
誰でもキスを経験するし、
口調からもして、若い女の人の感じだ。
「いや、でもウチのクラスには
特別かっこいい人は・・・・・・
あなたが今、取り付いてる人しか
いませんよ?」
「いえいえ!別にどんな人でも
いいんです!ただ、男の人と一度
キスがしたいだけで・・・」
ふーん・・・そういうもんなんだ。
「あ、じゃあ、ウチのクラスには、
実六くんと英斗くんとウサと
チシャと・・・・・先生がいますけど、
誰にします?・・・あ、というより、
外に出て探します?」
男子を一人ずつ
悪いコトだが指差しながら、言う。
「あ・・・外はちょっと・・・
何て言うんですか?」
「え・・・フツーに、
して下さいって・・・」
「いやいやいや・・・
変質者!?」
「じゃあ、このクラスの人しか
ないですよ?」
一体、誰にするんだろ?
「え・・・じゃあ、ウサ・・・さんで?」
「えっ!!??」
思わず大声を上げてしまった。
「あ・・・ダメ・・・とか?」
おずおずと申し訳なさそうに
聞いてくる。
「いや!ダメとかじゃないんだけど・・・」
ちらっとウサの方を見る。
え、オレ!?という顔をしている。
そしてその霊は、どんどん
ウサに近づいていく。
ウサは固まっていて、
動けないみたいだ。
そして、私の横にはいつの間にか、
楓ちゃんと祐美ちゃんが
デジカメとビデオカメラを持って
目を輝かせてる。
まあ、中は女の人だけど、
見た目が男だからな・・・
そして、固まってるウサに
おかまいなしに近づく霊。
ちょちょちょちょっと・・・!
ウサが嫌がってんじゃん!!
唇が重なりそうな、
その時。
「・・・やめとけ。」
見ると、チシャが霊の腕を
引っ張って引き離している。
「・・・ちょっと、何すんの?
私の邪魔、してもいーと思ってんの?」
「お前じゃない。相手を
よく見ろよ。嫌がってんのに
無理やりすんのか?」
「でも、私を成仏させるのが、
最優先・・・・・・」
霊がいきなりしゃべるのをやめる。
そして、また口を開く。
「・・・いいわ。じゃあ、
あなたにするわ。ちょっと来て。」
ぐいぐいとチシャの腕を
引っ張りながら、霊はさっさと
教室から出て行ってしまった。
ウサはまだ、ぽかんと口を開けたまま、
つっ立っている。
とにかく、ウサに何もなくて
良かったと、私は一安心した。
それと同時に、自分とチシャへの
憎悪が、じわじわと
わいて来ていた・・・・・・・