76 ⭐︎
二人のその後。
舌の根の乾かぬうちからまたお下品な話を上げていく……すみません、好きなんです
目が覚めた。
ぽっかりと瞼が開くと、カーテンが閉じられた部屋は薄暗く、しかしその隙間からわずかに光芒が入り込んできていて、それゆえに真っ暗というほどでもなかった。微かに室内を見通すことができる、そんな明るさだった。
視線の先には天井が見えた。
寝不足という感じはしなかった。ぐっすりと眠り、気持ちよく目覚めたという感覚があった。
今は何時だろうと思ったとき、耳に幽かな寝息が聞こえてきてそちらへ視線を向けると、アルベルトがいまだ夢の中にいるのが分かった。規則正しく繰り返されるゆっくりとした呼吸が彼の心地よい眠りを教えてくれていた。
あたたかな布団の下では彼の太い腕が俺に絡みついている。一糸まとわぬ体のその滑らかな皮膚越しに彼の体温が伝わってくる。
もう三月末というこの時期、やや標高の高いこの辺りはまだまだ冬が終わりそうにはない。アルベルト曰く、四月の半ばくらいまでは雪がちらつくこともあるそうだから、王都と比べても随分と寒い地域だ。
その分夏は涼しく過ごしやすいというが、果たして夏涼しいのと冬暖かいのと、どちらが良いのだろうなんてくだらないことを考えていた。
ゆっくりと呼吸をしながら、俺は自分の口から白い息が吐き出されるのを見ていた。鼻の頭や耳が寒さで痛む。心なしか頭痛もする。この辺りの寒さはどうやら辺境に負けず劣らずらしい。屋内に居て息が白く染まるのはかなり寒いということだ。
アルベルトがいるのに暖房は使用されないのだろうかと考えて、昨日の会話を思い出す。
そうだ。たしか中央暖房装置は点検が済んでから出ないと使用できないと誰かが言っていたんだった。数日は暖炉の火のみで寒さを凌がねばならないとも言っていた。申し訳なさそうに頭を下げる施設管理者の顔を思い出す。
なるほどこういうことだったか。
しかし、それは彼のせいではなくて、こんな時期に前準備もなく無理を言ってここまでやってきた俺たちのせいでもある。
ここまでの道中はなかなかに大変だった。王都から離れれば離れるほど解けきれずに残った雪が俺たちの進行の邪魔をして進みは遅くなる一方だった。雪道に入り込んで馬車の車輪が足をとられて幾度も立ち往生しかけたし、さらに、この高地にあるグリュンベルグの屋敷まで登ってくるのに、一番近くの町からは徒歩での移動を余儀なくされた。
食料や水、そして燃料などの必要な荷物をそりに移し替えて、使用人や護衛や料理人なんかと一緒にここまで来たが、彼らには相当な苦労だったと思う。なんせ雪道だ。朝早くに麓の町を出発して正午を過ぎての到着になった。
そんな大変な道のりのことや、その後の木の下でのやりとりのことなんかを温かい腕の中でつらつらと思い出していた。
アルベルトのそのときの言葉が今もはっきりと思い出せる。耳の奥で聞こえている。その響きにじんわりと胸に暖かいものがこみあげてきた。それは今こうしていても夢だったのではないかと思われた。そして、しかし隣にある大きな体が、現実だと教えてくれる。それは幸福だった。
そんな幸せを噛みしめれば、この窮屈な状態もむしろ心地よいものだが、不意に俺の腹が鳴って現実に引き戻された。
俺はもう一度頭を巡らせて窓の方を見遣る。夜が明けていることだけははっきりしたが、時計の文字盤が読めるほどの明るさではない。一体今は何時だろうか。
昨夜遅くに寝入ったことを思えば、今が朝だとは思われない。
俺はきっと昼だなとあたりをつける。となるとこの弱弱しい光は外が曇りか雪だからかもしれない。
そうとなれば、滞在初日の朝食をすっぽかしてしまったことになる。用意してくれた人たちに申し訳なく思った。だからこそ、昼はきちんと食べようと思い素早く起き上がろうとしたが、しかしそれはアルベルトの腕に阻止された。彼の太く重い腕が俺が起き上がるのを阻んでいた。
彼の方を見ると起きる気配はない。幸せな夢を見ているだろうアルベルトを起こさないよう、俺は彼の腕から抜け出そうと試みることにした。腹が減りすぎていて一刻も早くこの空いた腹を満たしたかった。
寝入った男を起こさぬように注意して、その弛緩した彼の腕をゆっくりと持ち上げようとしたけれど、アルベルトが横抱きに俺を抱きしめているせいで思うようにはいかない。彼の腕を持ち上げてどかそうとすると布団ごと持ち上げねばならず、そのために生じた隙間に部屋の冷たい空気が入り込もうとするので、俺はそれを断念する。
僅かに入り込んできたひんやりとした空気に俺は身震いした。
仕方なく、俺は自分の体を静かにベッド端まで移動させて、その腕から逃れることにした。
久しぶりなせいもあり、昨晩頑張りすぎて未だぐっすりなアルベルトが目を覚まさないよう祈りながらゆっくり体をずらしていく。
なんとなくイタズラに勤しむ子供のするように息を詰めてベッドから滑り出しながら、昼ご飯はなんだろうかと考えていた。目覚めてすぐだというのにこんなにはっきりと空腹を感じるのは辺境軍人としての任務から離れてからは久しぶりだった。
随分打ち解けたアルベルトの従僕のクリストフがすぐ近くに控えているだろうから、彼に昼食の内容を聞いてみよう。それから支度を手伝ってもらわなければいけない。なんせ、貴族の服っていうのは一人で脱ぎ着するのが面倒なものが多い。
貴族位を手に入れて今一番やっかいだと感じているのがこの日々の身だしなみだった。貴族なりたての俺には、未だ慣れぬ日々の習慣だった。
俺の叙爵が宣言されてすぐに、アルベルトが俺のためにたくさんの衣装を誂えてくれた。彼曰く、貴族になったからにはある程度身なりには気を使わないといけないのだそうだ。そういう物なのかと思って、俺は彼の好意を受け入れたが、しかし俺の認識は甘かった。そう言ってありがたくも用意してくれた俺の普段着は、どれも一人で身に付けるのが大変な代物ばかりだった。
ボタンが背中側にあったり、編み上げの紐がついていて体に合わせるために丁寧に絞って結ばなければいけなかったりするし、上下や中と上に羽織るものとの色味を合わせたりわざと色味を外してお洒落にみせたりしなければいけない。その色の組み合わせも定番のものから扱いが難しい組み合わせと、野暮ったく見える取り合わせがあったりで俺にはどうにもわからなかった。
それから、同じものを続けて着用しないよう気を配ったり、ネクタイやスカーフを美しく結んだりと、こまごまとした気を遣うべきことが多すぎて、俺一人ではまだまだ身だしなみを完璧に整えるのは難しかった。
無論一人でも着られないことはないのだけれど、しわにならないように着るのは無理だった。さらに仕上げに髪の毛に櫛を通した後で整髪料できっちりと撫で付けねばならないのも大変で。だから俺の日々の暮らしには、もうアルベルト配下の従僕たちが必要不可欠となっていた。
その内一人暮らしをしたいと思ってはいるが、そういった日々の準備のことを思うとそれは難しいことのように思われる。
そんなことを考えながら、俺はベッドからやっと抜け出すと伸びを一つする。それから寒さでぶるりと身を震わせた。屋内だというのに凍えるほどに寒かった。全裸では尚更だ。
俺は脱ぎ散らかした服を探して視線を下に向ける。
「どこに行くつもりだい?キース」
きょろきょろと視線をさ迷わせている俺の背後から、突然アルベルトのくぐもった声がした。俺はびっくりして振り返る。その声は寝起きでまだふにゃふにゃだ。
「あれ、起こしちゃった?」
「いや、丁度今目が覚めたところ」
そう言って彼がベッドに起き上がる気配。衣擦れの音がしたかと思うと、俺の腕が不意にひっぱられた。
俺は彼の成すがままにベッドへと倒れ込んだ。
布団もひんやりと冷たい。その冷たさを肌に感じていると、アルベルトがキスをしてきた。俺はそれを黙って受け入れる。
暗闇の中で乾いた音が繰り返される。
「駄目だ。もうやらないぞ」
「残念」
はっきりと拒絶の言葉を口にすると、笑い含みに彼がそう言った。
俺は未練たらしくキスを繰り返すアルベルトの肩を手で押しやる。
「はい、おしまい」
アルベルトがちぇっと言って俺を解放した。そうして伸びをする。その声が小さく響く。
「あぁ、お腹がぺこぺこだ」
「俺も。腹が減りすぎて死んでしまいそうだ」
「それは困る」
くすくすとアルベルトが笑う。
「今すぐ食事にしようと言いたいところだけど、それよりも先に身を清めないと。匂いがすごい。一緒にシャワーを浴びよう」
「お前のせいだぞ」
俺の言葉に、ごめんと言って彼がベッドから降りると立ち上がった。
俺はそれを横目に窓の側まで行くとカーテンを一息に開け放った。冷気が俺を包み込んで全身に鳥肌がたった。それから、外から入り込む光がまぶしくて、咄嗟に目を閉じる。
すぐに俺の目は光に慣れた。瞼を開くと窓の外は雪だった。道理で寒いわけだ。
ちらちらと降る雪を見ていると、知らぬ間にアルベルトがすぐ側に立っていた。彼は俺の手を取ると引っ張る。俺はそれに抵抗せず、隣室へと促されるままについていく。途中で俺は脱ぎ散らかした下着を見つけて拾いあげるとそれに足を通した。それから、床に投げ捨てられていた丈長の上着も拾ってそれを羽織った。
俺が支度するのを見届けてから、再びアルベルトが俺の手を取って隣室に誘う。
彼はやはり全裸だった。
流石にもう俺は驚きはしないが、それでも何と言うか、こういうところで色々な違いを意識する。それは別に嫌なことではなくて、まぁ、うん。
俺はついでに彼の分の長衣を拾い上げる。
隣室の暖炉には既に火が入れられ、赤々と燃える薪が部屋を十分に暖めてくれていた。俺は良かったと安堵の吐息を漏らす。さすがに暖房がない部屋は寒すぎた。
それからしばらくして、俺たちが起き出してきた気配にクリストフがやって来てお伺いを立てる。
アルベルトは細々としたことの確認や指示を出してから、部屋を出てそのまま俺を浴室へと引っ張っていった。昼食はいつでも出せる状態とのことで、俺たちは風呂上がりに食堂で摂ることになった。
ぎゃーぎゃー騒ぎながら身を清めると、クリストフやロベルトらに手伝ってもらって着替えを済ませ、俺たちは食堂へ向かった。
この屋敷には食堂が三か所もあって、昼食の準備はその内の一番小さい食堂に用意されていた。入室すると既に給仕たちが控えていた。俺たちの到着を待っていてくれたようだった。
アルベルトが長い卓の一番奥に腰かける。俺はその右隣の席へ誘導され、腰を落ち着けた。他愛もない会話を交わしながら運ばれてくる料理を一皿一皿片付けていく。お互い相当空腹だったらしく、皿の上の料理は綺麗に俺たちの胃袋に収まっていった。
パンをいくつかおかわりして、満足感とともに退席する。
そのまま俺たちは部屋に戻ると、暖炉の火で暖かな部屋の長椅子に腰かけた。
食後のお茶をクリストフが用意してくれて、それが済むとアルベルトの指示で退出していった。
窓の外では未だ雪がちらついている。
「雪が止んだら、外に行かないか?」
俺はアルベルトに外出の提案をする。昨日軽く歩き回ったとはいえ、まだまだ細かく見て回ったというほどではない。俺は自分の領地というやつを、狭いとはいってもきちんと知っておきたかったから、そう言ってみた。
「そうだね。いいよ」
「ありがとう」
「でも、今日は無理そうだ」
「明日は晴れるだろうか」
「どうだろう。山の天気は読みにくいから」
「そうなんだ?」
「うん。僕も人から聞いただけだけどね」
「そっか」
「晴れたら湖まで足を延ばしてみよう」
「あぁ、湖があるんだったな」
「うん、それほど大きくはないけれど綺麗だよ」
「魚はいる?」
「いるよ」
「なぁ、アルベルト」
「うん」
「俺は釣りってやつがしてみたいんだけど」
「釣りか……」
「難しいかな?」
「いや。釣れるかどうかは別にして、釣り自体は難しいことなんてない。ただ、ほら、外はすごく寒いだろう?一時間もじっと座っていられないんじゃないかと思って」
「それもそうだな。じゃあ、雪が解けたら」
「いいね。たしか、昔使っていた釣り竿がどこかにあるはずだから、それを使おう」
「おお」
「後で探させてみるよ」
「楽しみだ」
「そうだね」
そう言ってアルベルトが俺を抱きかかえたまま長椅子に寝そべる。
ぱちぱちと爆ぜる薪の音を聞きながら、俺はじっとしていた。満腹感からくる心地よい眠気が俺を包み込んでいた。時計の文字盤を見ると三時を指していた。
「キース?」
「うん」
俺は炎の揺らめきをみつめながらおざなりな返事をする。アルベルトが俺を背後からその太い腕に抱きかかえている。
その体温と息遣いとを感じていた。
アルベルトの手が俺の体をゆっくりと撫でている。それが心地よかった。
「眠くなってきちゃった?」
「ちょっと」
「そっか」
そう言いながらも手は俺の体の上を行ったり来たりしている。俺はくすぐったくて、くすくすと笑った。
腰の当たりを撫でていたと思ったら、今度はその手が俺の上を這って頭の方に移動していく。その大きな手が俺の頭を撫で、彼の指が髪の毛をもてあそぶ。
それから俺の後頭部に唇を寄せキスをする気配。
俺は黙ってアルベルトのしたいようにさせた。
「ねぇ、キース」
「うーん?」
「いや、なんでもない」
そう言って、彼は黙り込む。俺はアルベルトの言葉を特に考えもせず聞き流していた。
うつらうつらとした眠気が俺を満たしている。
ただ、アルベルトだけを感じていた。微かな呼吸やそれに合わせて上下する胸や、大きな手のやわらかな動きと温かな体温だけが今の俺の全てだった。
そうしていると、知らぬ間にアルベルトの手が俺の服の下に入り込んでいた。
腹を撫でて胸へと移動していく。
俺はなんとなくそのいたずらな腕を掴んだけれど、そんなことで動きを制限できはしなかった。
「くすぐったい」
「嫌?」
「嫌というほどでもないかな」
俺はぼんやりした頭で思ったままに言う。
そうすると、今度はアルベルトが俺の首筋に吸い付いてきた。音を立ててキスをする。
その音を遠くに聞いていた。
俺は嫌だとも良いだとも言わなかった。
俺の胸を撫でていた手が再び下へ降りていく。腹を撫で臍を撫でる。
俺はくすぐったくて腰を折ったけれど、アルベルトは止めなかった。
「止めろよ」
「嫌?」
「んー……」
また聞いてきた。
それでも彼は撫でるのを止めなかった。乾いた大きな手のひらが、俺の肌の上を行ったり来たりしている。それは心地よくて、俺はいつしか夢と現実のはざまにまどろんでいた。
そうしていると、彼の手がとうとう下腹部の方へと降りて来た。
ズボンの隙間から入り込み、俺の下着の中へと滑り込む。
その時になってやっとアルベルトのしていることに気が付く。
しかし、気が付いたときはもう後の祭りだった。
「ちょ、アルベルト」
俺は少し強い調子で呼び掛けたけれど、卑怯にも彼は答えなかった。
その長い指が俺の弱点を刺激する。もう片方の手もいつの間にか俺の服の下へと滑り込んできていた。
いやらしい手つきで俺の肌を撫でさする。その手が俺の尻の方へ回る。
咄嗟に腕を掴んで止めさせようとしたけれど、気付いたアルベルトが俺を抱きかかえて体勢を組み替える。あっという間に俺に覆いかぶさるような恰好になった。
自然俺は彼を見上げる格好になる。俺は止めるように言おうとして、しかし、その青い双眸に、欲望の色を見出して何も言えなくなる。今やその視線は言葉よりも饒舌だった。
彼が何を求めているのかを俺は瞬時に理解した。理解してなお、拒めなかった。
唇が近づいてきて、俺の口を塞ぐ。
ゆっくりとやわらかな舌が入り込んできて、上手く考えられなくなる。
彼は長い時間を掛けて俺の口腔内を蹂躙しつくして、やっとその口が離されると、湿った音が部屋に響いた。俺は息を大きく吸い込んだ。
「キース」
アルベルトが熱のこもった視線で俺を射すくめる。俺はもうなす術も無くて、ただ彼のしたいようにするのに身を任せた。
「絶対おかしい」
俺はそう言って起き上がった。
部屋は薄暗く、しかしカーテンの隙間からは眩しい光が差し込んでいる。
夜が明けていた。天気もいいらしい。
「どうしたんだい、キース?」
そう言った俺に、図体のでかい男が不思議そうに問うてきた。
「おかしいって」
「何がだい?」
「もう夜が明けてるんだけど」
アルベルトが伸びをする気配。そうして彼が布団の中で体勢を変えた。
「あぁ、そうみたいだ。天気が良さそうだね」
「そうみたいだって、お前」
「うん?そうだ。ご飯を食べたら散歩に行こうか。昨日言ってたもんね。周辺を歩きたいって」
「言ったけど」
「どうしたの?機嫌が悪い?」
「いやいやいや!お前のせいで何もしないままここでの滞在二日目が終わってるんだけど!」
「何も?そんなことはないだろう」
「いや、何をしたって言うんだよ、お前は」
「いっぱいしたじゃないか。ベッドの上で愛を確かめ合っただろう?」
「昼飯を食って、やって、晩飯を食って、またやってって、おかしいだろう!ちょっとは加減というものをだな」
「うん、ごめん。反省してる」
語気を強めた俺にすぐにアルベルトが謝罪の言葉を言った。
あまりに素直にアルベルトが謝罪の言葉を述べるので、俺はそれ以上何も言えなくなる。
「君と一緒にこうしていられるのが嬉しくて、つい」
その落ち込んだ声音に俺の怒りは急速に萎んでいく。
「いや、まぁ、うん」
「ごめん」
殊勝な態度が俺を冷静にしてくれる。
「いや、俺もそのごめん。言い過ぎた。その、俺も拒絶しなかったし、そこは悪かったかなって」
そう言うと、なんだか気恥ずかしくなって俺はベッドを出る。すこし足元が覚束なくてふらふらしていた。絶対昨日のせいだ。
なんとか醜態を晒すことなくそ窓際まで辿り着いてカーテンを開ける。思った通り天気は良い。快晴だった。
振り返ると俺を見つめるアルベルトがベッドの上にいた。心配そうにこっちを見ている。
「大丈夫かい?」
「えー、平気平気。このくらいでへばってたらお前とは暮らせないだろう」
そういうと、彼が笑った。
その笑顔のままにアルベルトがベッドから下りると俺の傍まで来る。御免と言いながらキスを一つくれて、徐に俺を抱き上げるとその体勢のまま寝室を出る。
「おい……。ちょっと?」
「昨日は無理をさせすぎちゃった。ごめんよ。とりあえずシャワーを浴びよう」
「いや、ちょ、待ってって。服を着たいんだけど!」
慌てて言うも彼は気にした様子もなく寝室の扉を開け放つ。
「そうしたらすぐにご飯にしよう」
「いや、待って。ちょっと。せめて、せめてパンツだけでも!」
「体への負担は君の方が大きいからね。僕が責任を持ってお世話するから。任せてくれ」
「いや、だから」
うきうきした顔のアルベルトが俺の言葉も聞かずにずんずん歩いて部屋から出て行くのを俺は止めることなどできようはずもなくて、俺は抱きかかえられたまま浴室まで彼の手によって運ばれたのだった。




