62
太陽が中天へ差し掛かるころに採掘場へ到着すると、もう既にそこは混乱の極みだった。
正確には居住区と管理者施設がある区画が蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。取るものもとりあえず慌てて逃げ出そうとする者たちが、一時に馬車へと乗り込もうとして、しかしそのあまりの人の数の多さに喧嘩が起き殴り合いや怒鳴り合いが起こっていた。また別のところでは、繋がれている馬を無理やり奪って逃げだそうとする者とそれを阻止しようとする者との間で諍いが起きているようでもあった。
その上食料や物資の略奪も起き、あちこちに殴られたのだろう、昏倒して地面に倒れ伏している者たちの姿も見受けられた。
女の甲高い悲鳴と泣き叫ぶ声も遠くに聞こえている。
そんな場所に僕らの一団が登場すると、僕らに気づいた者から順に動きを止めて水を打ったように静まり返っていった。
こちらを見た者たちは最初僕らが誰なのかと訝しみ、そして先頭に立つエリックがぶら下げているドラゴンの首の存在に遅れて気づく。そうすると、誰もが一様にあり得ないものがあり得ない状態で存在することを知って驚愕の表情を等しくその顔に浮かべ、ある者は大口を開けて驚きに固まり、ある者は色をなくして立ち竦んだ。いつしか、驚きに呆然自失の体を成していた者たちがその衝撃からやっとのことで回復すると、今度は恐れをなして一目散に逃げだし始めるのだった。
戦う力のない者たちは別にそれでも良かった。しかし、僕らの登場に自分では一つも判断することができず、僕らが誰なのかを誰何しようとすることも、排除しようとすることもせず、そんな気概も持ち合わせていない警備を担当しているらしい男たちが、役割を放棄して一目散に駆けだす様は滑稽を通り越していっそ哀れですらあった。
悲鳴が徐々に遠ざかっていくその後ろ姿を僕らは追いかける形でどんどん進む。進みを妨げようとする気概のある物にはとうとう出会わなかった。
しばらく歩いて労せず一際大きな建物の前までやって来ることができた。そこは偵察に参加していた者曰くどうやら管理者用の施設らしい。それはこの場所にあって、とりわけしっかりとした作りをしていた。
遊牧民は基本天幕状の簡易家屋に暮らし、季節ごとに移動する。なのに、ここにある建物のほとんどは僕らの国の建築物と大差ない二階建ての建物だ。そして、今僕らの目の前にある建物は、貴族の屋敷のような立派な両翼を備えた三階建てだった。
その建物の前では、下男たちが必死に馬車の荷台に家財道具や食料などを積み込んでいる。その近くではこの上等な服に身を包んだここの責任者らしき恰幅の良い男が、荷馬車に必死に金目の物を積む男たちに罵声を浴びせ、一刻も早く作業を終わらせようと苛立たし気に棒で殴りつけながら近くをうろうろと歩き回っていた。
僕らは折よく、一切合切を持ち出してこの場から逃げようとしているところに出くわしたようだった。ただ、あまりにも行動が遅すぎる。責任者としてさほど優秀ではないことが窺えた。彼を守る護衛はたったの数人しかおらず、その男たちも、僕らの登場に気付くと主人を残して脱兎のごとく逃げ出してしまった。
そのことに腹を立てた男が、何事かと後ろを振り返ってやっと僕らの存在に気付いた。彼は今までの男たちがそうしたように、最初に僕らを訝しみ、そしてすぐにドラゴンの首を見つけると、今までの男たちとは違って、全く抵抗するそぶりも戦う気概も一切見せずに突然地に伏して命乞いを始めたのだから、本当に拍子抜けしてしまった。
呆れ顔のエリックはとりあえずそいつを逃がさないよう部下に命じて縛り上げると、近くの柱にそいつを縛り付けて一旦放置することにした。まだまだやるべきことがあるからだ。でっぷりと太った中年男は後ほど回収することにして、僕らはそのまま奥の小さな神殿へと向かう。
果たしてその神殿にも愚か者はまだ潜んでいて、その男もまた、必死に身の回りの物を荷車に積んでいるところだった。
慌てすぎて彼は僕らの接近に全く気付いておらず、彼が振り返ったときにはもう僕らは彼のすぐ側まで来てしまっていた。彼もまた僕らの運んできたドラゴンの頭を見て何やら叫ぶと、泡を吹いて気絶してしまった。
「こいつの反応、明らかにこのドラゴンのことを詳しく知っているって感じでしたね」
「あぁ。こいつも連れて行くぞ」
エリックの言葉にテキパキと縄で拘束する。先ほどの男と同じように、後で回収できるようその辺の柱に縛り付けて監視を一人つけると、残りの者たちで神殿へと足を踏み入れた。
中はあらゆる物が散乱しており、逃げるためになりふり構わなかったことが窺えた。
じっくりと建物の中を検分していくと、その神殿が奇妙なことに僕たちは気づいた。それは祀る神の像がどこにもないということだった。普通は神殿と言えば、連邦でもそうだが必ずその中に祀る神の像が大なり小なり安置されている。なのにここにはそれがない。それ故誰を祀るために建てられた神殿なのかはっきりしなかった。
それだけでなく、その建物の奥まった場所にある倉庫には光の魔石を始めとして闇の魔石や火の魔石などが厳重にそして潤沢に収められている。その点もまた僕らに強い違和感を与えた。
念のため全ての部屋を検めると、奥の施錠された部屋があり、こじ開けると中には祭壇があった。一つの立派な卓が、祭壇のように天鵞絨が敷かれその上に燭台や杯などが配置され、部屋の奥に鎮座していた。
さらには魔術の精巧で複雑な刻印が刻まれた羊皮紙が幾枚かその円卓の中央に敷かれ、それを囲むように光の魔石が大量に置かれている。
「何だと思う?」
「分かりません」
「紋様が違うものが混じっていますね。用途が違うのでしょうか」
「連邦の言葉は少しならわかるので、後でパブロに尋問してもらいましょう」
そう、エリックが連れて来た部下の一人が言った。僕らは取り合えずその数枚の羊皮紙も回収して、持ち帰り調査することとした。
その後は、鉱山内に掲げられていた連邦の旗を全て下ろしてから、適当な布で作った旗に変えて掲げる。この場所が占領済みであることを対外的に示すためだ。こうすれば、臆病者たちが戻ってきていざこざが起きるのを防げるだろうと考えてそうした。
それから全くの無人となってしまった鉱夫たちの宿舎で昼食を摂り、代わる代わる休憩を取ると日没前にそこを離れた。即席の旗のおかげかはわからないが、誰も戻ってくる様子はなかった。
本当ならそのまま宿舎のベッドで一夜を明かしたかったが、さすがに敵の拠点で寝泊まりすることは安全の観点から避けようということになった。夕暮れに採掘場を出ると、夜ダークドラゴンの死体のある広場には何事も無く到着することができた。
採掘場から連れて来た二人はその巨大な死体を見てまた恐慌状態に陥り、手の付けられない暴れようだった。二人は幾度も逃げ出そうと試み、その度に誰かしらに連れ戻されると言う有様だった。歯の根も合わないほど怯え、神の怒りがどうこうだとか、ダークドラゴンがどうこうだとか、聞きとりにくい言葉でぶつぶつ言い続けて会話にならなかったので、彼らの尋問は明日以降の道中の落ち着いたところでするということで意見が一致した。
翌日、遺品を確保してから遺体の埋葬を済ませると森の監視塔へ向けて出発した。男たちはまだ小さな声でぶつぶつと呟き続けていて、道中煩いと何度も隊員に怒鳴られたが収まることはなかった。
食料や燃料、武器等を鉱山で接収できていたので道中の僕らには何の不安も無かった。しかも馬もいるので負担は行きの時よりも少なかった。
進みもずっと早い。これなら、キースたちに追いつける可能性もあると、来るときとほとんど同じ経路を辿りながら僕は思っていた。
帰路に着いてから二日目の昼、順調に進んだおかげで明日の昼過ぎには監視塔へ到着できるだろうというところまで来た。倒木が腰かけて一休みするのに具合が場所を偶然見つけて、休憩を取りつつ簡単な食事を摂っているときだった。
そんな気配はなかったけれど一応追っ手の存在を警戒して、交代で見張りを立てる。樹齢か病気か、数本の気が枯れたことによってできた梢の隙間から、青い空が僕らを照らしている。僕はふいに思い出して、あの羊皮紙を荷物の中から取り出した。
天気は良く日の光が燦燦と降り注ぐ中で顔を突き合わせて話し合っている時、不意に背後から大きな声がした。
僕らは何事かと振り向くと、連れてきていた神官が僕の持つ羊皮紙を見て騒ぎ出したのだ。それを聞きつけたもう一人の恰幅の良い男もまた、神官の言葉に触発されたのだろう、大声でわめきだした。魔の森で大騒ぎする者たちを、隊員の一人が静まるよう怒鳴りつけたが効果はなく、さらには殴りつけて口を塞ごうとしたがほとんど効果が無かった。
僕の持つ羊皮紙が何なのか知っているらしい二人が、色を失って騒ぎ出したかと思ってみていると、しまいには笑い出し始めた。それは完全に常軌を逸した様子で、僕らはその変わりようにただただ困惑する外なかった。
すぐに連邦の言葉が分かるパブロに二人が何を叫んでいるのかを聞き出させた。彼らは支離滅裂に騒いでいるようで、聞き出すのに随分と時間を要したがなんとか彼らの言い分が判明した。それは僕らが全く想像だにしていない内容で、僕は自分の仕出かしてしまった失態にここに来てやっと気付くことになった。
連れて来た二人は、一旦喋り出すと堰を切ったかのように嬉々としてべらべらと話す。とめどなく後から後から悪意に満ちた言葉が零れ落ちた。
僕はその内容を聞いている最中から目の前が真っ暗になるのを感じた。すぐに全身を後悔と恐怖とが満たして、居ても立ってもいられなくなり、立ち上がると監視塔を目指して駆け出した。
後ろから呼び止める声がしたけれど、僕はそれを全て無視して駆け出した。ひたすらに監視塔のある方角を目指した。
急げ、急げ、急げ、急げ。
一心にそれだけを考えて走る。
森の鬱蒼とした木々を避けて、太い木の根や下草やぬかるみに何度も足を取られそうになりながらも僕はひたすらに走った。それ以外に僕に取れる手段はなかった。走りながら僕は全身に魔力を行きわたらせる。エリックがしたように身体機能を向上させるために。
空を飛ぶことができたならと思った。
僕はただキースが無事であることを願いながら走り続けた。後ろから数人が追いかけてきているようだったが、僕にはどうでも良いことだった。
既にキース以外の全てのことが意識の外へ追いやられてしまっている。残された隊員たちに何の事情の説明もなく置き去りにしたことにすら、その時の僕は気づいていなかった。
全身の強化魔法を維持しながら僕は薄暗い森の中を進む。景色はどんどんと後方へ流れていく。そんな中でも、僕は等間隔に残されている来る時につけた目印を辿って僕は走り続ける。
あれから何日たった?二日?どうしてキースを帰した。もっと人をつけるべきだった。いや、それよりも連れてくるべきではなかった。もしもう襲われた後だったら……。いや、キースは自分の身は自分で守れる男だ。大丈夫。だが何故こんなことになった?どうかもう塔に辿り着いていてくれ。いや、怪我人をつれては早く動けない。もしまだ森の中をさ迷っているのなら、急がなければ。手遅れになる前に。
そういった支離滅裂なことが、繰り返し繰り返し頭の中でぐるぐると渦巻いていた。何度も最悪な事態をを考えてしまう。嫌な想像が頭に浮かぶたびに僕は彼の安全を祈った。
どうか無事でいてくれと、ただそれだけを願いながら走っていると、すぐ後ろからエリックが呼び止める声がした。僕はそれが聞こえていたけれど振り返らなかった。
僕の突然の暴挙に即座に追いかけて来たエリックが、速度を上げて並走するように横につくと、僕に怒鳴る様に声を掛けてくる。
「一体どうしたって言うんだ、アルベルト。止まれ。勝手な行動は慎め」
「僕は行かないと」
「どこへ?と言うか、一旦落ち着け。他の奴らを置いてきてしまっている。荷物や連れて来た男どもだっている。全員が全員、急には動けない。まずはあいつらが支度を終えて動けるようになるまで待とう。単独でお前が動くのは危険だ」
「そんな時間は無い!」
「ドラゴンのことは確かに気になるが、冷静さを欠いている状態では何も上手くはなせない。あの一頭を倒すのだって大変だった。もう一頭いることが仮に真実だとして、お前一人でどうなると言うんだ。今いる面々で協力して事に当たらないといけないだろう。あるいは塔へ戻って残してきた奴らと協力して討伐することもできる」
「そんな余裕はない。僕は行かなければならない。放っておいてくれ。今はこの話をしている時間さえ惜しい」
「お前、おかしいぞ。どうしたって言うんだ?いつものアルベルトらしくない」
「僕らしくない?今のこれが本当の僕だ」
説得を試みようとするエリックの言葉通り、今の僕は普通ではなかった。それは自分でも自覚していた。それが分かっていてなお、悠長にしていることなんてできなかった。
あの連れて来た男が笑いながら語った場面を思い出す。苛立ちと焦燥感が同時にこみ上げる。
僕らが持ちだしたあの羊皮紙は新しく開発された魔術そのものだったらしい。効果は精神の支配。単純な生き物ほど操りやすく、あのドラゴンもまた、彼らの手によっていいように使われていたのだと、連れて来た男たちの話から分かった。
しかし、その時既に黒竜は討伐済みだったので、僕らはその話を聞いても別段焦ったりはしなかった。良い手土産が出来た程度にしか思っていなかった。しかし、彼はそんな僕らににたにたと笑みを向けて言ったのだ。
「ドラゴンが、二頭いたそうです……」
「二頭?本当か?あんなものが二頭もいると?」
「はい」
そんな、と周りの男たちが色を失って言葉を漏らした。
「だが、どこに?」
予想だにしていなかった事実に僕らの間に動揺が走った。僕らは確かに一頭を倒した。しかし、二頭目など影も形も無かった。もう一頭はどこにいるのか?
疑問で頭がいっぱいになっていると、神官は人を小馬鹿にするような笑みを浮かべて何事かをべらべらと語り続けている。
「な、なんだって……」
「おい何だ。何と言っている」
「離脱した者たちを追いかけさせた、と……」
「キースたちを?!」
僕は思わず声を荒げて聞き返してしまった。パブロが僕の勢いに気おされたように目を白黒させて頷く。
「あの魔術を通じて、こちらの様子をわずかながら知れるようです。それで、どこから来たのかを探るために、跡を付けさせたと言っています」
「そんなことができるのか……」
「まずいな。あいつらは怪我をしている。その状態でドラゴンに襲われては……」
エリックが僕の顔色を窺うように視線を送ってきた。色を無くした僕らの様子を見て、二人の捕虜がゲラゲラと笑い出す。
その下卑た笑いに不快感を催した。
パブロが続けて言う。
「あの部屋にあった魔石で魔術に魔力を供給していたようです。それを移動させたせいで、魔力の流入が止まり魔術が強制的に終了してしまったと言っています」
「魔術が途切れるとどうなる」
「……こいつが言うには、ドラゴンは自分を操った人間に憎悪や怒りの感情を抱いているだろうと。だから、後を追いかけるというだけの命令しか出していないが、人の支配から離れたドラゴンが何をするかは、不明だと……。もしかしたらもう、追われていた者たちは既に襲われている可能性もあると」
「そんな!いますぐドラゴンを止めさせるんだ!ここに羊皮紙自体はある。出来るはずだ!」
僕がそう怒鳴ると、パブロがそれを伝えた。男は笑って言った。
「無理だそうです。その魔術は高度なもので、自分一人では発動できないと」
「僕たちがいるじゃないか。やり方を聞いて僕たちで協力すれば、再び大人しくさせられるのでは?」
「それも無理だと言っています。魔術に対する知識が無いとこの術は扱えないと」
「本当なんだろうな」
エリックが袖を捲って、その太い腕を露わにした。
獰猛な声と尋常ではない彼の威圧感に身の危険を感じないわけではないだろうに、連邦の二人は全く意に介した様子も見せず、楽しそうに言葉を紡ぐ。
「知識のある熟練者が三人がかりで発動させていたそうで、自分一人ではどうあっても無理だと」
「くそ!」
僕は怒りのままに言葉を吐き捨てた。
僕の慌てぶりを見てでっぷりと太った男と神官は気が狂ったように笑い合う、その場面が僕の脳裏で再生される。
「とりあえず一旦落ち着け。そんなに急ぐと塔まで持たないぞ。魔力の枯渇で途中で動けなくなる。少し休憩を挟もう」
「そんな余裕は無い!」
僕は走る足を止めずそれどころか体に行きわたらせた魔力を増やしてさらに加速した。さて、お前らの仲間はまだ無事だろうかと、そう囁いたその言葉が僕の焦燥感を煽り続けている。
「おい!待てって!本当にそのままだとヤバいんだ」
友人の声が後方から聞こえて来たが、すぐに彼は速度を上げて僕に並走する。
「なぁ、アルベルト。お前この前からなんかおかしいぞ」
「どうとでも言ってくれ」
僕の腕を走りながら掴もうとした彼の手を払う。
「キースなのか?」
何かに気付いたようにエリックが声を潜めて問いかけて来た。
「そうだ。彼を助けなければ」
「友人だから助けたいというのは分かる。だが、まだ襲われたと決まったわけじゃない。あいつは優秀だ。俺たちが助けに向かっている間、身を守るくらいのことはできるはずだ。あいつを信じろ」
「ドラゴン相手に?僕らだって何人もが協力してやっと倒した相手だぞ。そんなの不可能に近い!」
「それでもお前が単身で乗り込む理由は無い。それにあいつだって軍人だ。何が起きてもその覚悟はできている」
「お前は!」
怒りが爆発して僕は怒鳴った。エリックを睨みつける。しかし、彼は動じなかった。
「理由ならあるんだ。僕は彼を助けなければいけない。僕は彼に助けられた。それに、もし彼に死ぬ覚悟が出来ているとしても、それを助かることを願わない者なんて一人もいないだろう?」
「それはそうだが……」
「彼を死なせたくない」
「それなら、俺たちが先に行く。少しお前は頭を冷やせ」
「僕は僕の手で彼を助ける」
「何故そこまで自分がやることに拘るんだ?俺には分からない。そんなに深い関係だったのか?お前たちは?たしかにあいつは優秀だし、今回の道中非常に役立った。だがそれだけだ。……代わりなど、きっと居るだろう……」
「代わりなどいない!」
僕は怒りに任せてエリックとの会話を一方的に切り上げると道中を急いだ。なんとしても追いつかなければならない。取り返しのつかない事態になる前に。エリックは僕の後にぴったりとついて追いかけてきていたが、僕はそれを意識しないようにした。
僕はただひたすら彼の無事を祈りながら走り続けた。自分の荒い呼吸の音が頭の中に響いて煩かった。




