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僕は今非常に緊張していた。もしかしたら、初めて公的な行事に参加し、高位貴族らや外国からの国賓らの前でスピーチをしたときと同じくらいかもしれない。


時間は午後一時よりも前。あまり味のしない昼食を急いで終えてからここにやってきた。それから時間はしばらくたっていたが、一時を知らせる鐘の音はまだ聞こえていない。


僕は早鐘を打つ鼓動を抑えながら一人、教えられた場所にあったベンチに腰かけている。


こんな場所がこの学園にあるとは知らなかった。


ここは図書館裏の奥まった場所で雑草の繁茂する一角で、そこにぽつんと存在を忘れ去られたような古びたベンチが一つだけあった。長く風雨に晒されて薄汚れたそれは、ずっと前からここに存在していることの証明だった。


恐らくこんな場所があるなど、ほとんどの人は知らないかもしれない。それを裏付けるかのように、約束の時間よりも早くついてしまって、そわそわしながらここにずっと座っていたが、誰一人近くを通りかかる者はいなかったからだ。


見通しも悪く特段眺めも良いわけではなく、しかも最後に手入れされたのはいつなのかと思うほどに、元気に繁茂する雑草が辺りを覆っていて、その中にあって茶色く萎れた名も知らない草の小さな花々が、何とも言えない物寂しい雰囲気を醸し出している。その上、日当たりも悪くなんとなくじめじめとしていて、あまり気持ちのいい場所ではない。不気味といってもいいかもしれない。


遠くで鳥の鳴き声がした。日陰になっているが、風通しが悪く気温は高いせいで汗がにじむ。


周囲を見渡しながら、お世辞にも人と待ち合わせに利用されるような場所ではないと思う。まぁ、だからこそ彼はここを指定したのだろうけれど。


そんな場所で僕は彼を待っている。約束よりもかなり早い時間に着いていたが、待っている時間など全く気にならなかった。


もうしばらくしたらキースがここにやってくるという事実で、僕はずっと頭の中はいっぱいだったからだ。


僕は汗をかきながら、期待と不安を抱いて座っていた。デミアンたちには一人にしてくれるよう頼んだので、今この場にはいない。


何をキースは僕に話したかったのだろうかと、もう何度目になるかもわからない問いを頭に思い浮かべる。


いや、答など一つしかないはずだ。先月の孤児院への損害の補填に関する話題のはずだ。キースがこのことを知らないはずはないのだから。


教室で彼から声をかけられた僕はとっさに、時間と場所を変えようと提案していた。彼が少しだけ周囲の目を気にしていたのもあったけれど、僕のほうこそ彼と気兼ねなく話がしたかったからだ。誰にも彼とのやりとりを邪魔されたくなかった。それに、周囲の目があれば、キースは思ったことの半分も話せずに会話を打ち切ってしまうかもしれない。言いたいことだけを言って。それは嫌だった。


もう間もなくキースがこの場にやってくる。彼は少しはにかんだ笑みを浮かべるだろうか。そして、彼が僕に話を切り出す。きっと八月のあの件だ。キースは僕に感謝の言葉を言うはずだ。そうしたらありきたりだけれど、僕は気にしないよう言うだろう。ここで下手な手を打てば彼はきっと委縮してしまう。それは良くない。だから、できるだけ自然に、彼の心の負担にならないようなんとか、その話題をさりげなく流そう。そんな大したことではないのだと言うように。感謝の言葉を彼は繰り返そうとするかもしれないが、それは駄目だ。それでは心の距離が離れてしまう。全くそれが大したことではないというように、彼に印象付けなければ。でも何と言えば?分からない。まぁ、いい。その場の雰囲気に任せよう。そうしたら今度こそ、きっと彼と話ができるだろう。腹を割って、何のわだかまりもなく。そうだ。今しかない。キースとの仲を深めるのは今を置いて他にない。そのために今まで頑張ってきたんだ。友達になろうと彼に言おう。なりたい、のほうがいいだろうか。いや、落ち着け。ここで上手くやらなければいけない。そうだ、そうしたら、もしかしたら彼と……。


次から次へと自分にとって都合の良い想像が頭を駆け巡る。


いやいや、落ち着け。


僕は一人でに進んでいく自分に都合の良い思考を必死に押しとどめた。相手のこともしっかりと考えなければ。それで何度失敗したか忘れたのか、僕は。


あまり期待しすぎるのは良くない。冷静になれ。


よし。大丈夫。


実際、キースから話ができないかと言われただけなのだから、今はそれ以上でも以下でもない。自分にとって都合の良いことばかり考えていると、予想を裏切られたときの落胆が大きくなるだけだ。もし予想と違ったら、つまり、全然別の用事での呼び出しだったら、例えば何かのアドバイスが欲しいというような、もしそうだったら僕は立ち直れないかもしれない。だから今は冷静にならねばならない。


朝の出来事を思い返す。


今日は夏休み明け最初の日だった。僕は朝いつも通りに学園へ到着し、自分の席に着いた。長期休暇前と同じようにみんなから朝の挨拶をされ、それに返事を返したり、休暇中にあったことや、そのほか他愛もないようなことを友人たちと話した。


そうしていると、いつの間にかキースは教室にいて、僕の視界の隅で彼は今までと変わらず姿勢よく椅子に腰かけていた。


それから級友たちと一通りのお喋りが終わり、一時だけ人が掃けた頃だった。


静かに立ち上がった彼が僕のところまで歩いてやってきた。迷いなくこちらへ。


周囲を窺いながら、僕の所へ来たのだ。何かを言わんとしていたから、僕はここじゃないほうがいいんじゃないかと言った。彼は少し逡巡して、それに同意した。


だから僕らは時間と場所を簡単に話し合い、昼の一時頃に、ここで待ち合わせようということになったのだ。彼は用事を済ませてから来ると言っていた。


その時の僕の気持ちは言葉に言い表せない。彼が周囲を気にして声を潜め、僕の耳元で囁くように言う。その緊張した声と、彼と二人だけの秘密を共有しているという事実で、僕は頭がいっぱいだった。その後の授業については、なんとか集中しようと自分に言い聞かせても、全く功を奏さず、少しも勉強に身が入らなくて、気づけば午前中の授業が終わってしまっていた。


僕は気もそぞろに昼食を終わらせると、急いでここへ来たというわけだった。


気持ちを落ち着けるために、何度目かの深呼吸をしていると、人の近づいてくる気配があった。顔をそちらへ向けると、思った通り彼だった。


僕は思わず立ち上がった。


「すみません。お待たせしてしまいましたか」


気づかわし気に彼がそう言ってきた。


「いや、今来たばかりだから」

「良かったです。お呼び立てをしておいて遅れてしまっては、合わせる顔もありませんでした」

「問題ないよ」


遠くで時間を告げる鐘が鳴った。


「ほらね」


僕は安心させるために笑顔を浮かべると、彼も笑みを浮かべた。


「座ろう」

「いえ、同席するのは……」


僕がベンチに腰掛けると、彼はためらった。


「君に立たれていては、話もできない。今は誰の目もないから。ね?」


そういって少しだけ強引に手を引くと、彼はすんなりと隣に座った。近い。


戸惑う彼の顔を僕はじっと見た。元気そうだ。


「久しぶり。元気そうでなによりだ」

「殿下もお元気そうで。今年の夏は特に暑かったので、体調は崩されませんでしたか?」

「ありがとう。この通りなんともないよ。キースは?」

「はい。私の方も大丈夫でした」

「それならば良かった。それにしても、君は少し日に焼けたみたいだね、キース」

「そうかもしれません。色々と忙しく過ごしていたもので。ですが、殿下の方が私よりも日に焼けているようですよ」

「そうかな」


僕は比較するために何気なく自分の腕を差し出すと、キースが同じように腕を僕の腕へと寄せてきた。触れるか触れないかの距離。


「いや、同じくらいだよ」


夏の制服である半袖シャツから伸びる彼の長い腕を辿っていくと、日に焼けた彼の首筋と夏服の襟元からわずかに覗く胸元のまだ日に焼けていない白い部分が目にまぶしい。その肌色のコントラストが瞼の裏に焼き付いて離れない。


「そうみたいです。殿下は夏の休暇中はどこかへ行かれましたか?」

「うん、避暑へね。いくつかある王家の直轄地の一つに、夏の別邸があるんだ。涼しい高原の真ん中に建っていて、毎年家族でそこへ行くんだ」

「それは素敵ですね」

「毎年の恒例なんだ。議会も無いから父の時間にある程度融通が利いて、しかも王都は暑くて体調を崩しがちだから、しばらく涼しい場所に行こうっていうわけだね」

「なるほど」

「君は夏休みの間、何をして過ごしたの?」

「ええと、特にこれといって面白いことは……。いつも通りです」

「本当?いつも通りとはどんな?僕は君のことを何も知らないから……」

「つまらないことですよ」

「いいよ。教えて」


じっと彼の目を見ながら言う。


「あー、もし嫌でないなら……。無理強いをするつもりじゃないんだ」

「とんでもない。ええと、その、殿下は私が孤児院の出身だということはご存じですか」

「知ってるよ」

「さすがですね」

「そんな大したことではないさ」

「普通は私のような者のことなど、知っていたりはしませんよ。名前すら知らない貴族の方もいるでしょう」

「そうかな」

「そうですよ」


彼がふっと息を吐くように笑った。


「それで、今年の夏はその孤児院へ戻っていたんです」

「そうなんだね。毎年戻るのかい?」

「いえ、孤児院を出てからは初めてです。今年は特に暑いので、お世話になった先生の体調が心配だったので、手伝いをしようと思ったのです。もう高齢の女性なので、一人で年端もいかない子たちの世話は大変でしょうから」

「なるほど。それは確かにその通りだ。小さい子は勝手に動き回ったりで目が離せないからね。すぐ側にいたはずなのにいつの間にかいなくなっていたり、知らぬ間にけがをしていたり」

「そうなんですよ。注意したことの半分も守れなくて……。殿下はよくご存知ですね」

「僕にも弟がいるからね。もう十歳なんだけれど、まだまだ幼くて手がかかるやんちゃ坊主なんだ。色々苦労させられているからね」

「あぁ、そういうことなんですね。それにしても十歳ですか。可愛い盛りですね」

「可愛くもあり、憎たらしくもあり」

「ええ、わかります」


キースが何かを思い出しているようにくすくすと笑った。


「このくらいの年齢の男の子はなかなか大変ですよね。好奇心のままに行動したり、なんでも自分の考えたことを試してみないと気が済まなかったり、注意には耳を貸さないで失敗やケガをしたり」

「こちらの言うことに反論してきたり、どこで覚えてきたのかませたことを言ったり汚い言葉を使ったり」

「ええ、そんな感じです。時々こちらがぎょっとさせられるようなことを言ったりしたりしますよね」

「うんうん。僕もこの夏は、弟のせいでひどい目にあったんだ」

「どんなことがありましたか?」

「うーん。ちょっとね。酷く恥ずかしい目にあってしまったよ。そのくせ自分のしでかしたことに、弟は気付いていないのだからね」

「なんとなくわかります」

「その後もいろいろと困ったことをしてくれて、一時も心が休まるときなんてなかったよ」

「きっと殿下のことを信頼して甘えているんですよ」

「まぁ、そうかも。そう思えばこそ、手がかかっても可愛くもあるんだよね」


キースが僕のほうを見て笑っている。


「ごめん、僕の話で君の用を遮ってしまった」

「いえ、そんなことはありません」

「それで、うん。何の用だったのかな」


緊張を顔に出さないようして僕は彼に向き直る。


「お忙しいのにこうして時間を割いていただきありがとうございます」

「お安い御用だよ。それで?」

「一言御礼を申し上げたいと思いこのような場所までお越しいただきました。ほんとうはあの場で言えば済むことではあったのですが、その……」

「いいんだよ。あの場では周りの目もあって難しかっただろうし、僕も二人で話がしたかったから」

「本当にお気遣いいただき、何とお礼申し上げたらいいか……」

「いいよ。このままではお礼ばかりで日が暮れてしまうんじゃないかな。さぁ、もう君の気持ちは伝わっているから。それで、僕にお礼とのことだったけれど、僕はお礼を言われるようなことを君にしたかな?」

「はい。その、この夏、私が孤児院に滞在していた間のことです」

「うん」

「突然王宮から、国王陛下の代理人だという方がいらっしゃいました。通知文書を持ってきたんです」

「どんな?」

「孤児院の被った不当な扱いに関する補填、とその人はおっしゃっていました。その、今年は色々と忙しくて、私は何も知らなかったんです。そういう決定がなされていたということに。だから、とても驚いて。あれは、殿下のおかげですよね、あの給付金は」


キースが僕の反応を窺うように言葉を切った。けれど、僕の顔になんの手がかりも浮かんでいないことに気が付いたのだろう。彼は黙り込んだ。


「父から聞いている。君のお世話になった孤児院にもきちんと届いたんだね」

「はい。新しい社会福祉法が発表されたということは、孤児院に戻ってすぐ先生から聞かされていましたが、これについては先生もご存知なくて、とても驚いていました。その新しい法律のおかげで、色々なことが良くなるだろうって先生は喜んでいました。その法律が新しく出来たのも、今回これまでの補填として補償金が給付されることになったのも殿下のお陰だったんじゃないかって、そう思ったのです」


キースがじっと僕を見ている。


「今年の頭に、あなたは言っていました。きっとよくなるって。僕はそのとき、何のことかさっぱりわかりませんでした。新しい法律が発布されたのはその三か月も後のことだったのに、あの時点で殿下は既にご存知でした」

「僕も一応王家に籍を置いているからね」

「ええ、そうです。ですが、私は、きっとあなたがやったのだと思いました。あなたがきっとやってくれたのだと思いました」


遠くで鳥が高く鳴いた。


「私にはわかります。それがどれほど大変だったか。私は知っていました。不正があるということを。そして、だから、この不正を正すために、卒業後は社会福祉局へと進むことを決めていました。全てではなくても、長い時間が掛かったとしても、ちょっとずつでも、変えていけたらと、そう思っていました」


彼の言葉が震えているのが僕には分かった。


「殿下。今まで人生を生きてきて、これほど嬉しかったことはありません。この感謝の気持ちを言葉にする方法を私は知りません。本当になんといって御礼を申し上げたらいいのか。誰も私を助けてはくれないと思っていました。自分の手では、社会を変えることはほとんど不可能で。不可能だと思ってもやらねばならないと思っていて。でもどうしてもそれは難しいことも目に見えていて。それなのに、あなたは……。本当にありがとうございました」


そう言ってキースが立ち上がって深々と頭を下げた。長い時間、彼は美しい姿勢のままで頭を下げ続けた。


「顔を上げて。キース。そんな、僕はそんな大したことはしていないんだよ。だからそんなに感謝をされると、こっちが申し訳ないような気がしてしまうよ」


そう言ったけれど、彼は頭を下げるのをやめようとしなかった。


「僕がしたのは不正を指摘したこと、ただそれだけだよ」

「やはりそうだったのですね。ありがとうございました。殿下がしてくださったことで、事態が大きく変わりました。好転したといってもいいでしょう。本当に……」

「さぁ、顔をあげるんだ。そのままでは話もできない。僕らはここでは対等のはずだ」


僕は立ち上がると彼の肩に手を添える。


何度目かの言葉でやっとキースが顔を上げてくれた。僕はほっとして彼の手をとってベンチへ誘導する。彼は僕の指示に素直に従ってくれた。二人で腰かけると、やっと僕は安堵の息をついた。


「そうだね。君の言う通り、僕がやった。でも、やったと言っても、本当に触りのところだけだよ。証拠を集めて訴えただけなんだ。その後のことは僕は話を聞いていただけで、具体的な関与はしていないんだ」

「そうだとしても、でも……何故、殿下はそんなに良くしてくださるのですか?どうして……」


僕の真意を探るような表情で、キースが僕を見つめている。彼は納得していない。何故そんなことをしてくれたのかと、彼のその表情が僕に問うていた。


「僕はただ……」


――君と友達になりたかったんだ。


「ただのきまぐれだよ。それ以下でも以上でもない。僕の全くの気まぐれだ。それがもし仮に、君にとっての良い結果に繋がったとしても、それは偶然だよ。君が僕に感謝する必要は全然ないんだ」


本当はそう言いたかったのに、その言葉は結局口に出すことはできなかった。


なんとなく、それは卑怯なことのような気がしてしまった。相手の立場に付け込んでこちらの要求を迫るような、そんな風な考えが突然頭に浮かんでしまっていた。


だから僕には言えなくて、当初考えていた返事とは全然違うことを答えてしまっていた。


一度言ったことはもう戻せない。仕方ない。


仕方ないけれど、それは気にならなかった。もはや最初の目的は達成されたから。


彼はこれから自由に生きていける。それが一番重要だった。もし僕がここで、全てが僕のお陰であるように言ってしてしまえば、彼は僕に負い目をかんじてしまうかもしれない。それは避けたいことだった。


そんな事態は僕の望むことではない。


それに、悩みから解放された彼を僕がこれから頑張って落とせばいいのだから。勝算はある。あとはやるかやらないかだけだ。カインの言ったように。


そんな風に思った。


そう思ったら、なんだか気持ちが軽くなった。


そうだ。よくよく考えてみれば、もう僕は誰気兼ねすることなく、彼に言い寄ることだってできるんだから。


午後の授業の予鈴がなった。その音が遠くから響いている。


「さぁ、授業に遅れる。君の気持ちはしっかり伝わった。僕はそれだけ十分だ。君の助けになることができて僕は嬉しい。教室に戻ろうか」

「……はい」


キースを促すために立ち上がると、敢えて僕は振り返らずに先を歩き出す。


だから、これから、少しずつ仲良くなって、本当の友達になればいい。


僕はそう思っていた。心が軽くなる。


足取りも軽い。


午後の授業こそはしっかり集中して受けないといけないと思いながら、こんな浮かれた気持ちでは集中などできそうにないような気がした。


僕は意識していないと考えや気持ちが顔に出やすいようだから、またデミアンに不審がられるかもしれない。


そういったことをつらつらと考えながら、僕が図書館の建物の角を曲がろうとしたときだった。


「あの」


後ろから呼び掛けられた。


振り返ると、キースはまだベンチのところにいた。


「あの、殿下」

「うん?」

「その」


逡巡。ためらい。ものすごく長い時間が、沈黙のうちに過ぎたような気がした。けれど実際はそんなことはなくて。


「私と友達になっていただけませんか」


彼の形の良い唇から、その言葉が零れた。


僕は、彼からそんなことを言われるなんて全くこれっぽっちも考えていなかった。


少しも期待していなかったから、僕はなんだか間抜けにも、しばらく何を言われたのか理解できなくて、ただその場に立ち尽くしていた。


授業開始を告げる本鈴が遠くで鳴るのが聞こえた。

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