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(完結)男二人、ヤマアラシのジレンマ故に  作者: たろう


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4*

会場の空気が変わる。


観戦に来ていた誰もが、彼の登場を固唾をのんで見守っている。


アルベルト王子は、真っ青な空を背にして、人から見られることになれている足取りでゆっくりと歩くと、ステージへ上る階段に足を掛ける。


俺は一足先にすでに決闘場のステージに上がって彼が来るのを待っていたので、見下ろす形で、その姿を眺めていた。


爽やかな風が吹いて彼の金の髪の毛をさらさらと揺らした。この国の第一王子は、その人好きのする顔に穏やかな笑みを浮かべて、周囲を見渡しながら階段を一歩一歩と上ってくる。


会場に詰め掛けている女性たちのため息と男たちの囁きとが混ざり合い、会場全体に広がり、それは爆発的に大きくなり、彼が所定の位置に立つころには、大きな歓声のうねりとなって、辺り一帯を満たした。


予定調和のように、彼が興奮する観衆に向けて手を振り、続きざまに彼の父母、つまり国王と王妃へ向けて優雅な一礼。


そして、最後に俺に向き直って軽く一礼。


俺はそれに深々と頭を下げる。


会場の空気に飲まれないよう、俺は深呼吸をした。


二回戦目。全体では八戦目。


シード枠の二人が、この回から参戦する。俺の相手は、知っての通り第一王子だ。


彼は優雅な手付きで身だしなみを整える。普段と何ら変わりのない落ち着いた様子。緊張も気負いも、今の彼には見られない。気を抜けば手も足も震え出しそうになる俺とは全く違う。


ケヴィンと同じようにはいかない。


彼の様子から似た戦法は駄目だとすぐにわかった。代わりにどうやって攻めようかと考えていると、自分がケヴィンと同じ状態になってしまっているのに気づく。全身の筋肉に硬直がある。心臓の鼓動も速く呼吸も浅く速い。落ち着け。


そう言い聞かせながら、目を閉じて再度深呼吸をした。二度三度繰り返す。吸って、ゆっくりと息を吐く。


よし。大丈夫。


閉じていた目を開いて前を見ると、王子の視線と俺の視線がぶつかった。俺の平凡な茶色の目と違う、高貴な青い色だ。その青い目でこっちを見ている。けれど、その眼差しには何の感慨も感情も感じられない。ぼんやりと俺を見ている。いや、見てはいない。そう唐突に理解した。彼は、風景を見るのと同じやり方で俺を見ている。


全く頭にくる。俺はこんなにも意識しているのに、色々な戦術を練ってきたのに、彼は俺のことなんてこれっぽっちも気に掛けてはいないのだ。


普段通りにやれば勝てると踏んでいるのだろう。悔しいが、俺は上位勢にはほとんど勝てたことがないのだから、そのように対応されても仕方がない。仕方がないとは分かっている。実際その通りなのだが、それでも、こうやってまざまざと目の前で態度に出されると、腹が立つのが人情ってものだろ。


才能のない俺には、こんな落ち着いた態度で試合に臨むことはできない。やはり、こいつはどこか違う。特別な存在だ。王族だからなのだろうか。


いや。地位で人の性質が変わるなんてことはあり得ない。落ち着け。雰囲気に吞まれるな。


こいつだって王族の前にただの一学生だ。本職の軍人でも傭兵でもない。


余計なことは考えるな。今はただ一太刀。


どれほど可能性が低かろうとも、俺は諦めない。ここを勝って、こいつに一泡吹かせてやらなければ気が済まない。体格差から見て、来年になれば更に差が開いてしまう。そうなればもう、自主練だけでは勝てない。上位勢の誰に追いつけなくなるだろう。来年は三十位にも入れるかどうか怪しい。


ほとんどの貴族連中は、金に物を言わせて優秀な家庭教師を雇って三年の剣術大会に備えるだろうから。そうなったら、もう俺に可能性はない。魔法だってそうだ。だから、今勝たなければ。


一太刀で良い。あっと言わせてやる。


俺は睨むように目の前に立つ男を見る。別に憎んでいるわけでも怒っているわけでもない。せめて、この気持ちだけは、誰にも負けないという気概を持たなければいけないと思いを、つい視線に込めてしまう。


王子が俺の視線を受けて少し驚いたという顔をする。それから、にっこりとほほ笑む。


くそ!その余裕が腹立つんだよ!


いや、駄目だ。集中しろ。俺は自分に言い聞かせる。ゆっくりとした呼吸を繰り返す。


周囲のざわめきが遠くなる。


審判が片手を高々と上げた。


俺は待つ。その手が振り下ろされる瞬間を。それは酷く長い時間のように感じられた。


そして、俺の視界の隅で掛け声とともに、審判の手が振り下ろされる。


俺は剣を鞘から抜き放って走り出そうとした。先手必勝。


しかし、王子がいつの間にか抜刀していた。速い。


顔に微笑を貼り付けたまま、目の前の男が構えている。俺の一回戦目の試合を見ていたか聞いたか。いや、そんなわけはない。一回戦の試合の内容など気にする男ではない。何故なら、決勝へ勝ち上がってもおかしくはない実力の持ち主だから。一年のときの大会は見事準優勝を果たしていた。


負けたのはエリックだけ。


俺は速攻戦術を諦める。搦め手でいくしかない。


俺は走りかけた足を緩めて向きを変えると、呼吸を一回挟んでゆっくりと弧を描くように移動する。技術の無い俺にとって間合いが最も大事だ。間合いさえ管理することができれば、負ける可能性を下げることができる。


ゆっくりと自分の脚を動かした。相手の目を見て、次の動作を予想するしかない。王子が俺の動きに合わせて体の向きを緩やかに変える。じりじりとした緊張感が俺を苛む。ゆっくりとした時間が流れた。


埒が明かない。王子は自分から動くつもりはないようだった。あるいは、こっちの集中が途切れるのを待っているのかもしれない。余裕の表情は全く変わらなかった。夏の日差しに汗が出る。


とりあえず相手を釣ってやろうと思って俺が一歩前に踏み出した瞬間、目の前の男が俺に先んじて動いた。


あっという間のことだった。


まずいと思ったときには、その長い脚で俺に肉薄している。いつの間にか構えられていた剣が俺に向かって振り下ろされている。信じられない速度だ。


足を運んでいる最中での急襲に、俺は剣を構え直しながら、体勢を整えようと動く。剣先から視線を逸らしてはいけないと言い聞かせながら。


振り下ろされた剣が、確かな重みをもって俺の剣を打ち付けた。重い。


あの軽やかな動きのどこに、これほどの重さを隠しているのか。手がしびれる。まずい。受け流しに失敗した。


俺は慌てて王子の剣をはじき返して、距離を取るために一歩後退するが、相手はさらに一歩踏み込んでくる。今度は横一閃。


慌てて剣を立てて、左からくる刃を防ぐ。重い一撃だった。


試合の流れはあっという間に王子のものになったのが分かった。俺は防戦一方を余儀なくされる。


くそ。


小気味良い剣戟の音が会場に響き渡る。容赦なく王子が剣を風を切るように振り下ろす。俺はそれに振り回されて防戦一方だった。立て直す隙すら与えてもらえない。


幾度目かの攻撃の後、突然王子が一歩引くのが見えた。何か仕掛けてくると直感するが、考えが読めない。


俺は両脚を肩幅より気持ち開いて半身を前に出して剣を構える。どうあっても対応できるように。


俺が相手の動きをじっと見ていると、ふっと王子が体勢を低くして一気に駆け寄ってきた。あまりの速度に目で追えなかった。残像が網膜に焼き付いている。


気付くと、右腕をまっすぐに伸ばして、剣をこちらへ突き出すように構えている。速い。


もちろん、剣の先は潰されて平になっているし、両者皮鎧を上に身に付けているので、実際に刺さることはないが、あの一撃を受けては無事では済まないのは明白だった。当たれば肋骨にひびの一つも入るだろう。


速すぎて太刀筋を逸らせないと判断したが、対処できない。


俺は慌てて体の向きを変えて、鋭い一突きをかろうじて避ける。すんでのところで躱すことに成功した。


一陣の風のような王子が俺の左横を通り過ぎる。ぎりぎりで避けられた幸運に感謝するのもつかの間、すぐに反撃に転じなければならない。急いで俺がその背に向けて剣を振り下ろそうとしたときには、しかしすでに王子は俺の背後に回り込んでいた。


俺には王子の動きが見えていなかったけれど、背後に嫌な気配を感じて、とっさに前方に体を投げ出すようにして飛び出す。俺は石畳の上に無様に這いつくばる形になったが、運が良かった。背後で王子の振った剣が空を切る音がした。


いつのまに移動していたのか……。全く気配を感じなかった。


即座に俺は、さらに石畳の上を転がって距離を稼ぐと、急いで振り返る。


王子が驚いたという風に目を見開いているのが見えた。


わずかな硬直。


王子の集中が途切れた隙をついて、俺は立ち上がると体勢を整えた。息が上がり始めている。疲労が蓄積してきていた。精神的にも揺さぶられている。


俺は再び深呼吸をした。そして先ほどと同じように、半身で剣を構える。


「面白い。やるね、君」


柔らかな声で彼が言った。どこか気の抜けた、そして場違いに楽しんでいるのが伝わる声音だった。


その瞬間、一気に頭に血が上った。完全に上から人を見下ろす目線での発言だった。ふざけやがって。


俺は、怒りに駆られて猛然と走り出し、力任せに剣を振り下ろす。王子が易々とそれを受けると、はじき返すでなく、太刀筋を逸らして受け流した。上手い。


その剣捌きにますます腹が立った。


二度、三度と繰り返し力任せに剣を振り下ろす。王子はたんたんと俺の剣を受けていなす。流れるような動作だった。


俺は力任せに剣を幾度と振り下ろしながら、王子を後方へと追いやる。何度も何度も。


けれど、調子が良かったのはそこまでだった。


王子をステージ端まで追い詰めたと思ったら、突然俺の振り下ろした剣を躱して、ひらりと横に避けた。俺は予想に反した行動のせいで、咄嗟には自分で力を込めた剣の勢いを殺しきれず、一瞬体勢が崩れるのが分かった。


その隙を王子が見逃すはずがなかった。しまったという焦りを感じたときには、彼は一瞬で俺の後方に回り込み、そのために今度は俺がステージ端を背にする形になってしまった。このステージから落ちても負けになる。


俺は自分の愚かさを呪った。


王子が自身の勝ちを確信してつまらなそうな顔をするのが見えた。


馬鹿にしやがって……。


王子が勝利を確信した表情で剣を横になでるように振るうのが見えた。なでるような優雅な動きではあったが、その横一閃は鋭い。その鋭い剣筋が見えた瞬間、俺はとっさに膝の力を抜いて折りたたむように足を折り曲げる。そして、地面に這いつくばるくらいに背を低くしてそれを躱した。


考えての動作ではなかった。ただの思いつきだった。しかし、たまたまではあったがそれは功を奏した。俺は、上手く王子の剣を躱すことができた。


その一瞬の有利展開を俺は見逃さない。今度は折り畳んだ膝を思い切り伸ばす。足が伸びる勢いを利用して、剣を相手へ差し出すように伸ばし、そのまま前のめりの体勢で王子へ肉薄する。王子の驚きに見開かれた青い目が一瞬見えた気がした。


口から自分のものとは思えない声が出た。


剣を握る手に力を込めて、一気に斜め上に向けて渾身の突きを打ち出す。それは過たず、王子の胸に吸い込まれる。俺にはそう見えた。勝ったと思った。


勝利を確信して、ふいに彼の胸元から視線を上に向けると、そこには口の端を持ち上げて笑う王子の顔があった。


なんだ?


剣の先が第一王子の皮鎧に触れたと思った瞬間、王子が信じられない動きを見せた。


なんと、上半身を後方に逸らして、頭上に上げた両腕をそのまま地面につけた。膝の柔軟性と体の柔らかさを最大限に引き出した動きだった。そして、その後方に反り返る勢いのまま片足を振り上げて、俺のあごをその足で蹴り上げた。


衝撃と浮遊感。それから、俺の視界が暗転した。


俺はそのまま意識を手放して気を失うのが分かった。一瞬の油断。


脳が揺さぶられる衝撃。支えを失い、受け身を取れないまま地面に体が打ち付けられる痛みを感じたところまでは覚えている。


そして、どのくらい気絶していたのか。


はっと目を覚ますと、王子殿下が涼しい顔をして俺を見下ろしていた。その向こうに真っ青な空が見えた。


王子の瞳と同じ色の空だと思った。綺麗な青い……。


「大丈夫か?」


俺が気が付いたことに気付いた審判が、俺に声を掛ける。何を言っている?


一瞬、状況が理解できなかった。


そのすぐ後で歓声が、周囲の観衆の声が耳に響いた。五月蠅い。


日差しが眩しい。眩しさで目が痛み、涙が滲む。


あぁ……。


気絶する直前の記憶が頭の中に蘇る。負けたのだ。俺はすぐに悟った。


覗き込む端正な顔で、そのことがはっきりと認識できた。


背中に石畳の硬い感触がある。頭が痛い。顎も。


「大丈夫かい?」


王子が優しい声音で俺に問うてきた。


そして、その手を俺に差し出してくる。


あの時と同じように。


彼が俺の手よりもずっと綺麗な手を俺に差し出してきた。


負けた。


その事実が俺の心を満たした。悔しさが俺の全身を満たした。


「さぁ、僕の手をとって。いい試合だった」


王子の言葉が耳に届く。何のわだかまりもない自然な声。勝者の余裕。


くそくそくそくそくそくそくそくそ。


汗一つかいていない涼しい顔でそんなことを言う王子が憎らしかった。負けたばかりの惨めな対戦相手に向かってなんて残酷な言葉を吐くんだと思った。


「余計なお世話だ」


俺は王子の差し出された手を払うと、上半身をゆっくりと起こした。


少しくらくらする。しかし、これ以上ここに寝転んでいるわけにはいかない。無様な姿を長く晒しては、この先のあいつらの嫌味の格好のネタにされてしまう。


俺はふらつく体をなんとか意志の力でねじ伏せて立ち上がった。


大丈夫。問題なく退場できる。


「すぐに医務室に言ったほうが良い。頭への衝撃は後から症状が出ると聞く」

「……言われなくてもそうする」


ついぶっきらぼうな言葉遣いになってしまった。彼は特段気にした様子は無かったが審判員が咎めるような視線を俺に寄越す。


「うん。そうしたまえ。それから、キース。対戦ありがとう。素晴らしい試合だった。とくに最後の君の攻めはとても良かった。本当にあの場面で僕はひやりとさせられたよ。一瞬負けを覚悟したほどだ。才能があるんだね、君には」


嬉しそうに微笑みながら、そんなことを言いだす王子に俺は胡乱気な視線を向けてしまう。


は?こいつは何を言っているんだ?俺に易々と勝ったくせに?こんな無様な負けをお見舞いしたくせに?


全く理解が及ばなかった。


「あと少し反応が遅かったら、僕は確実に気絶させられていたよ。久しぶりにぞくぞくする試合内容だった。またやりたい。いつか。あぁ、君の最後まで諦めないというその執念は本当に見事だった……。称賛に値するよ」


王子がごちゃごちゃと言葉を紡いでいる。俺には何の意味もない言葉を。


「今の試合はどっちが勝ってもおかしくないものだった。僕が勝てたのは本当に幸運だったよ。君は誇っていい」


幸運?俺に勝ったのが幸運だと?やすやすと俺の動きに対処していたのに?最後には、完全に俺の動きを読んで反撃を繰り出したのに?さらには言うに事欠いて、誇っていいだと?ふつふつと怒りがこみ上げる。上からの物言いにも限度というものがある。だから俺は、ここで我慢の限界に達してしまって。


「そうだ、キース。君さえよければぜひとも、僕と……」

「うっせーんだよ!」


未だ興奮気味に喋り続ける王子に向かってつい、俺は怒鳴ってしまった。言葉遣いも酷いものだった。まずいと思ったけれど、一旦我慢していた言葉が口から零れると、もう止められなかった。


「そんなに負けた俺を馬鹿にして楽しいのかよ。誰に才能があるって言うんだ?言ってみろよ、その口でもう一度!何が幸運だ。どっからどう見たって、お前の方が才能があるだろ!運じゃなくて完全に実力だっただろうに……。反応が遅れていたら?完璧に反応して躱した上に、カウンターを決めてきたやつの言うことか?おためごかしはやめろよ。頭おかしいんじゃねぇの?フェアプレイの精神か?終わったら勝ち負けは水に流して仲良く?は!そんな薄っぺらい騎士道精神で話しかけてくんな!こっちが惨めになるんだよ!もっと喜べよ!もっと嬉しがれよ!自分が勝ったって!負けてざまぁねぇなって馬鹿にしろよ。俺のことをよぉ。何の苦労もなく簡単に勝てて、興ざめだったって言えよ!」


一息に言いたいことを言ってしまったせいで苦しくなった俺は、大きく息を吸い込む。こんなに大声を出したのはいつ以来だろうか。そのおかげで気持ちが少し落ち着いたのだろう。言い放った自分の発言にはっとして正面を見る。徐々に頭が冷えていくのを感じた。


正面には、驚きに見開かれた王子の目があった。青い目。呆けたように、その瞳が揺れている。


しまった。言い過ぎた……。衆人環視の中大声で王子を罵倒してしまった……。けれど、一度口から出た言葉は取り戻せない。


なんで俺がこんな気持ちになるんだよ……。可哀そうなのは俺のほうなんだぞ……。


「お前!殿下に向かってなんて口の利き方だ!罰則ものだぞ!」


大人しくなった俺に向かって、審判がいきり立つ。俺の胸倉をつかみながら審判が怒鳴りつけてきた。それは至極尤もな言い分だった。


もはや俺には反抗する気概もなかった。むしろ、叱られて当然だと思った。そりゃそうだよな……。冷静になった俺は血の気が引いていく。退学処分になるだろうか……。そのことが一番気がかりだった。


すると、胸倉をつかまれ怒鳴りつけられている俺をかばうように王子が割り込んできた。


「いえ、いいんです。僕は何とも思っていません。謝罪もいりません。手を放してやって下さい。僕が無神経だったんです」


審判を宥めすかすように彼が言い、その言葉に従って審判員が俺から手を離した。


「すまない、キース。許して欲しい」


必要のない彼の謝罪の言葉に、嫌な気持ちが胸に広がる。


「さぁ、試合の終了の宣言をお願いします。後の試合が詰まっているので。どうぞ」


王子の言葉にかぶせるように俺も謝罪する。


「すみませんでした。謝罪します。殿下」


俺は、掴まれたためによれた首元を整えると、王子に向き直って深く頭を下げた。


「すみませんでした」


再度謝罪する。


「いいよ、気にしていない。こちらこそすまなかった。先生。彼も試合で気が立っていたんだ。普通ではない状態だったのだから、どうか暴言について怒らないでやって欲しい。このみなが楽しみにしていた大会を、僕たちのせいで台無しにはしたくないんだ。どうか」

「……わかりました。お前も、二度と殿下にたいしてあんな無礼な態度を取るなよ。次はないぞ」

「はい。すみませんでした。謝罪いたします。王子殿下。寛大なお言葉とお心遣い、感謝申し上げます」


そう言って再び俺は頭を下げる。


それを見てやっと冷静になったのだろう、審判が神妙な顔つきで一つ頷く。


それから、彼の口から勝者である王子の名が高々と宣言されるのを俺は他人事のように聞いていた。


俺と王子はお互いに一礼する。


俺は、何か言いたげな王子を無視すると、踵を返して、退場するべく歩き出した。観客の、王子の勝利を湛える言葉を聞きながら。

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