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(完結)男二人、ヤマアラシのジレンマ故に  作者: たろう


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「あぁ、やっと終わった……」


僕は達成感と嬉しさからつい独り言をつぶやいてしまう。誰もいない自室に僕の声が拡散して消えた。


後はこれをほかの者に精査してもらって数値の確認修正と文言の推敲をする。その後で清書する。完成したものを写しに回して必要数用意したら資料の準備は終わりだ。


それに並行して発表用の原稿も作らなければいけない。まだまだ作業は山積みだったけれど、終わりが見えたのは大きい。


僕は凝り固まった首や背中を鳴らしながら立ち上がると、カーテンを開いた。東の空が白み始めている。まだ太陽が頭をだしたばかりの時間帯のため眩しさは思ったほどではない。


僕は部屋の空気を入れ替えるために窓を開ける。硝子の窓を薄く開いた途端に、冬の刺すような冷気と鳥の囀りが室内に侵入してきた。僕は心地よい鳥の声を聞きながら、冬の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。その清浄な空気は、僕の体を浄化してくれるような気がした。


何度か深呼吸を繰り返すと鬱屈していた気分が晴れた。僕は窓を閉じて軽く全身を動かす。全身の筋肉を軽くほぐしてから、お茶の用意と続きの作業の指示を出すためにクリストフを呼ぶ。


予定の日まで二週間ある。ぎりぎりだが間に合うはずだ。


僕は徹夜明けでまだ少しぼんやりする頭を振りながら、残りの日程ですべき指示を頭の中で大まかに考え始めた。






バタバタとした日々が続いて、ついにその日が来た。僕の七か月に渡る作業の成果を見せる時が。


例年よりも早い冬の訪れに見舞われた十一月の終わり、僕は自らに課した役目を全うするために、この場に臨んだ。用意した資料を携えて今国会議事堂に立っている。


ここ数日小雪がちらついていた王都では、久しぶりに晴れ間が広がり寒さが緩んでいた。ひしめく人々の上、高い天井に取り付けられた明り取りからは冬の柔らかな日差しが入り込み、この広い空間を満たしている。


僕は笑顔を保ったまま、周囲の貴族たちに悟られないよう小さく息を吸って気持ちを落ち着ける。


ここを訪れるのは、過去のやり直しをしてから初めてのことになる。僕がその素晴らしい建築的特徴を持つ議事堂内部にあって、貴族議員連中の視線と重圧の中でも自分を見失わなかったのは、過去の経験と、やり遂げねばならないと言う決意のおかげだった。


きっと本来の十七の歳の僕であったならば、老獪な議員の視線に冷静さを欠いてしまっていたはずだ。しかし、今の僕には周囲をしっかりと見渡す精神的余裕があった。


緊張を感じてはいるし、不安もあったが、不思議と悪い予感はしなかった。上手くいくような気がした。それは多くの人の協力のおかげだと思う。たくさんの人の協力と、この日までに間に合わせることができたという達成感が自信へと繋がっていた。


僕がこれから何を言うのか、何を為そうとしているのか、人々は固唾をのんで見守っている。


僕は壇上に立ち、ゆっくりと口を開く。腹に力を込めて、僕の声が一言一句正しく彼らの耳に届くよう、大きな声を出す。


さぁ、行こう。


「本日は若輩者である私のために皆様の貴重なお時間を割いていただきありがとうございます。まずは、私から礼を述べさせてください。私一個人の求めに応じてこのように臨時会への参加を許可くださった国王陛下の、その多大なるご理解とご厚情とに感謝申し上げます」


僕は父に向って一礼する。


「そして、日々この国のために尽力してくださる皆様方に最大限の敬意と感謝を申し上げます。どうかこの国の発展のために、これからも力を貸してくださるよう私は切に望みます」


僕は居並ぶ議員に向かって一礼する。そして、ゆっくりと顔を持ち上げる。


「私が本日議題として取り上げたいと思っていることは、社会福祉についてです。皆さまもご存知のように、我が国の社会福祉の歴史は、王国歴1526年、時の女王マーテルによって制定された救貧法にまで遡ります。この画期的な救済法は、しかし残念なことに、その役目を十全に果たせるものではありませんでした。画期的ではありましたが、当時全く新しい試みであったがために、運用面においていくつかの問題を残していました。今はその問題点については語ることは差し控えます。私よりも皆様の方がずっと詳しいでしょう。そして、その問題を、全てではありませんが一部解決するために、そこから十八年の時を待たねばなりませんでした。そう。1544年、当時の国王ダラスによって、救貧法はそれが抱えるいくつかの課題が解決され、社会福祉法と名を変えて発布施行され、その後百年もの間身分を問わず失業者・傷病者・孤児・未亡人までも幅広く扱う国民の命綱となりました。運用のための国家予算の枠が救貧法よりも大きく取られ、国中にその弱者救済の手を伸ばすことが可能となり、また実際に一定の効果を上げることができました。我々の祖先は一つの偉業を成し遂げました。時代の転換点ともいえる素晴らしい法律でした。これにより、年間の死者数は大きく減り、怪我を負った者たちは社会復帰が可能となり、また孤児や未亡人の多くが生き延びることが可能となりました。私は、祖先を、この法律を整備するために尽力した過去の人々みなを誇りに思い、また、同時にそのために彼らが果たしてみせてくれた愛と熱意と行動力に称賛を贈りたいと思っています。そして、私たちは今、その過去に達成されたこの快挙を、今後も豊かな国の発展のために、維持発展させていく義務を負うものと考えています」


僕はここで言葉を一旦区切ると、居並ぶ貴族たちを見渡した。それから父を見た。父は大きく僕に向かって頷いた。


僕はそれに答えるように再び口を開く。


「しかし、今、私は悲しみに暮れている。この一つの素晴らしい救済のための予算が、今、一握りの私利私欲に溺れた者たちの手によって、恣にされ、その本来の役目を全うできていないという事実に、私はただただ憂いています。私と同じ学園に通う一人の同級生が、私に教えてくれました。大々的に毎年組まれている予算、孤児院運営給付金や傷病者医療費助成金といった様々な形で交付されている予算が、不幸な者たちのためではなく、貴族の私服を肥やすために使われているかもしれないと、私に示唆してくれました。私は、過去の偉人たちの功績を汚すことがあってはならないと思いました。そして実際に、私は今の実態を調査するために行動を開始しました。ただし、私個人の力は微々たるものです。ですので、この度は、孤児院に関する補助金の使途について正しく予算が利用され、流用されたり着服されたりしていないかという点に絞って調査しました。そのために、過去十年に渡って毎年王家に報告されている様々な資料・記録・履歴の多くに当たりました。そして同時に、各地にある教会や孤児院、そしてそのほかの施設に残されている彼ら独自の記録との照合を行いました。私の言いたいことがお判りでしょうか。過去十年分です。それは十分な年数とは呼べるものではありませんが、こうして告発するには十分な年数でした。それは、膨大な記録でした。病院の死亡記録、教会に登録された埋葬記録、孤児院の運営の収支記録、各領地貴族へ分配されている予算、各領地から王家へ報告された給付金の収支報告書、そして小麦や薪炭材の平均価格。そういったものです。お分かりいただけるでしょうか。私は、膨大な記録に当たり、計算し、そして、実態を突き止めました。そして、残念なことに、いくつかの貴族領において、実態と報告された数値とに差があることが判明しました。それは誤差と呼べるような値ではありませんでした。明確な違法行為でした。では、最初に私どもが配った資料をご覧ください。全ての領地の記録の比較表が乗っています。まだ明確な記述の書式が定まっていない一覧のため、読みにくい箇所や見方が分かりにくい部分など多々あるとは思います。そういった部分につきましては、私の方で説明の際に随時補足をいれさせていただきます。ですので、ただ今はどうか、そういった不備につきましてはご容赦賜り、とりあえず私の話に耳を傾けながら資料をご覧になって欲しいと思います。そのため、質問については最後にそのための時間を設けております。どうぞ今は私たちが調べたこの国の孤児たちの実態について、お耳を拝借できればと思っております」


あちこちからぱらぱらと、紙を繰る音がして、息を呑む気配がさざ波のように僕の方へ押し寄せて来た。


「さて、本日私はこの事案について、この重大な違反について、あなた方に問うために参上しました。いくつもの領地で行われている犯罪の実態についてです。横領と呼びましょうか。この残念な現実について、私はあなた方と話し合いをしたいと思い、本日、国王陛下に許可を賜り、こうして学生の身分でありながらこの場へと参上いたしました。そして、できるならば、未来へ向けて、健全な法の運用と悲惨な実態にあえぐ孤児院を救うための、建設的な話し合いがしたいと思っています。明るい未来のために。人は皆誰しも、そのうちに価値を秘めています。生きる価値です。それは貴族も平民も変わりはありません。社会福祉法はその生きる価値を守るための法律です。なぜ、生きる価値を守らねばならないのでしょうか。それは、国という組織それ自体が、そのうちに国民という構成要素を含むからです。国民なくして国はあり得ません。貴族だけで国は立ちゆきません。全ての人が日々を精一杯に生きられねば、国は成り立たないのです。国がそのために運用しているこの社会福祉法を悪用している人々は、それに気づいていないのです。全て貴族があれば、この国を正しく運用することができるでしょうか。平民がいなくてもこの国は未来へ進むことができるでしょうか。いいえ、できません。社会を支える仕事は多岐に渡り、社会を上手く回すための法律の運用一つをとっても、大勢の者の協力が必要です。我々が食べていけるのは何故でしょうか。我々があたたかい服を着られるのは何故でしょうか。我々が家に住むことができるのはなぜでしょうか。それは、一重に多種多様な仕事に従事する者がいるからです。私は気づきました。私が今日この日のために、春先からずっとこの件について調査を続けてきましたが、それをするにも私の代わりに現地へ赴いてくれたたくさんの人の協力があったから可能でした。そして、今こうして議会が運営できているのも、この話し合いの場を整えてくれる者たちがあればこそです。私は思います。この国を正しく進ませるためには、一般市民の力が必要不可欠だと。国民が自分たちの能力をいかんなく発揮しているからこそ、我々貴族があるのです。彼らを守ることこそ、より良い未来へと繋がる道なのです。誰にどんな才能があるのかは誰にもわかりません。私も私にどのような才能があるのかを知りません。であるのならば、できるだけ多くの人々がその才能に気付くための時間と機会が必要です。そしてそれは孤児たちも同様です。彼らの中には、きっと私よりも素晴らしい才能を秘めている者がいるでしょう。彼らもまた等しく未来を作るための一人なのです。我々が為すべきなのは、私腹を肥やすことではなく、それぞれの持つ才能が、求められる場所でその力を発揮できるようにすることです。彼らを蔑ろにすることは、ひいてはこの国の未来を蔑ろにするのに等しいと私は考えます。彼らから搾取することは、この国を搾取することと同義です。この資料には、その罪の、全貌とはいいませんが、一部が記載されています。その実態の一部が明らかにされています」


僕はそう言ってから言葉を区切ると、もう一度周囲を見回した。いくつかの青ざめた顔がある。いくつかの訝し気な顔がある。いくつかは安堵したような顔があり、いく人かは顔を輝かせている。


僕は僕のやり方で、未来を変えて行かねばならない。そのために、今日僕はここへ来たのだから。そのために、今までこの問題に取り組んできたのだから。


「長くなりました。時間は有限です。さぁ、未来のために、有意義な話し合いをしましょう」


僕は手元の資料に視線を移した。






それからの日々はとても忙しかった。僕は学園に通うこともできずに、冬休みを迎えることになってしまった。


様々な抵抗があったが、それ以上に建設的な話し合いができた。僕は自分の為したことが、こうして未来へと繋がっていくという確信をもって、その過程に立ち会うことができたことをとても幸運なことだと考えていた。それは実に素晴らしい経験だった。


多くのことを学んだと思うし自分に足りない部分も知ることができた。それは自分がいかに狭い世界にいたのかということの証明だった。


以前の僕は、残念ながら成人後議会に議席を賜りながらも、明確な目標や志を持たずにいた。もちろん責任ある立場として積極的に議員の話に耳を傾け、何がより良いのかを考え、問題提起をしたり意見をしたり責任を追及したりといったことはしていたが、今回のように自分から新たな問題を提起するというようなことをしなかった。国内の問題に対処するための善後策を調べ述べることもあった。僕には知識があった。色々なこの国の問題について学び知っていたからできた。しかし、それは全て結局のところ、流されていただけだった。状況に、人に。行動のきっかけは常に自分以外の誰かであった。


僕は今になってそれを恥じた。


自分の為すべきことがなんなのか、おぼろげながら見えて来たように思う。もっと色々なものを見て回りたいと思った。


それからしばらくあって、件の告発が僕の手を離れ国王の預かりとなった。問題は願ったほうへ進んでいきそうだった。僕はやっと重圧から解放された。


自由になった僕は、兼ねてから誘われていたデミアンの領地で行われる狩猟に参加するために王都を離れた。例年なら冬休み開始と同時にデミアンの屋敷に滞在しのんびり過ごしたあとで狩猟を楽しみ、王都に戻って年末年始を家族と過ごすというのが僕の恒例だったのだが、今年は異例のことがあったため、デミアンのところには数日滞在するだけだった。


侯爵領で行われた狐狩りの結果は、僕の方は残念ながらあまり誇れるようなものではなかった。こればかりは運にも左右されるので仕方ないがちょっと落ち込んだ。来年は頑張ろうとデミアンが慰めてくれたが、そう言ってくれた彼自身はきちんと表彰までされていた。相変わらずそつのない男だ。


王都に向けて侯爵領を発つ日の前日、デミアンの部屋で、彼の従僕が用意してくれた酒を二人で飲みかわした。僕らは他愛のない話をした。狩猟でのことや学園のことや将来のことについてだ。


来年学園の三年になったときのこと、卒業後のことなどを適当に話していたときだった。


「それで、どうするつもりなんだ?」


デミアンが唐突に僕に質問してきた。全く質問になっていない質問だった。


「何のことだろう?」


僕はデミアンの質問の意図が図りかねて問い返した。


「キースのことだ」


彼が珍しく逡巡してから答えてくれた。彼が僕を見つめている。その目は真剣だった。


「藪から棒にどうしたんだい?」


僕はとりあえず知らないふりをしてみる。


「最近カインとエスメラルダがうるさいんだ。教えろって」


僕にはすぐにその場面が想像できた。二人がデミアンに詰め寄って声高に質問攻めにしているところを。


「そうか。すまない。君には迷惑をかける」

「構わないさ。あの兄妹は昔からあぁなんだ。慣れている」

「すまない」


僕は再度謝った。


「それで、アルベルト。どうなっているんだ?」

「うん」

「君がキースを特別に思っているのは見ていればわかる。長い付き合いだ。でも理由がわからない。接点はないに等しかったはずだ。私が見ていないところで何かあったという可能性もなくはないが、その可能性は限りなく低いと考えている」

「そうだね」

「何故なのか。あの二人よりもこっちが知りたかったくらいだ」

「ごめん」

「そうか」

「君にも言えないことなんだ」

「そうだろうな」


デミアンが考える風に言う。


「そんなに分かりやすかったかな」


僕はよせばいいのに、つい聞いてしまった。


「まぁ、そうだな。春休み明けの、あの日以降君の様子が時々おかしいというのは感じていた。接点がない相手だったので、全く関係性が見えてこなかったから、こちらとしてもどうすることもできなかった」

「そうか。気を付けるよ」

「そうだな。それなりの頻度でキースを見つめていたから分かりやすかった。普段他人に執着を見せないから余計に気になった」

「そうかぁ。恥ずかしいなぁ」


僕の零した言葉に、デミアンが片眉を持ち上げた。


「今の言葉でなんとなく察した。あの二人に詰め寄られたときは何を馬鹿なことをと思っていたが……」

「えぇ?」

「何年の付き合いだと思っている。様子がおかしいと思っているときに、突然調べ物を始めたと思ったら、とうとうこの間は議事堂で孤児院の運営についての問題の提起までしてしまった。君がキースを気にしだしたのが四月。調べ物を始めたのも四月。キースは孤児院の出身。自ずと繋がってくる。それで、君はどうしたい?」

「どうしたい、とは?」


彼はまっすぐに僕を見ている。


「これから先のことだ」

「……どうもしないよ」

「本当に?」

「本当さ」

「正直に言えば、君の将来のことを考えたらやめた方が良いとは思っている」

「デミアン。僕はどうもしないと言ったよ」

「あれだけのことをして信じられるわけないだろう。仮にキースが友人だとしても、普通はただの友人にあそこまで尽くさない」

「いや、まぁ、そうかもしれないけれど」

「その曖昧な態度が既に肯定になってしまっているんだ」

「そうなのかな」

「君は早いうちに心を決めなければいけない」

「分かっているよ。でも決められないんだ」

「そんなにか……」


優柔不断は僕には許されない。分かっている。


「愛人と言っていいのかわからないが、そういう関係ではだめなのか?」

「駄目だ」

「そうか」


デミアンが口を閉ざした。


「正直私に戸惑いがある。何故、と思った」

「うん」

「今までそんな様子は一切なかった。つまりその、男とつきあうというようなことだ。あぁ、ややこしいな」

「うん。なかったと断言できる」

「良かった。でも何故だ?何があった?君はほとんど他人に興味関心を抱かなかったはずだ。なのに突然だ。あぁ、もし相手が女性だったらこの問題はもう少し簡単だったのだが……」


僕には答えられない。あまりに荒唐無稽すぎるから。


「気の迷いとか、なにかそういうきっかけみたいなことがあったのかと思った。けれど、今記憶を辿ってみてもそんなことはなかったと断言できる。そして君はどうみても正気だった。キースのために七か月もかかることを、君自身になんのメリットもないのに、ただただ大変なだけのことをやり遂げた。傍にいれば嫌でも知れる。本気だということが」

「今日は君はずいぶんと饒舌だ」

「……そうだな」


デミアンが困った風に笑った。僕もつられて笑った。


「しかし、出来るのなら、私は君にその道に進んで欲しくはない」

「まぁ、そうだろうね」

「勘違いしないでほしい。特殊な関係だからそう言っているわけじゃない。その道が、後戻りできない道だからだ。これは友人としての助言だ。君の親友としての助言だ。私は君のために言っている」


デミアンの言い方はとても優しかった。そして、僕には、彼の言わんとしていることが分かった。


「ありがとう。そういえば、一月前にカインに言われたんだ。応援するって。まぁ、相手がキースだとは気づいていないけれどね。家柄が釣り合わないどこかのご令嬢相手だと思っているらしい」

「そうか」

「面白がってるんだよ」

「さもありなん。でも……」

「でも?」

「キース相手だと分かったとしても、あいつの意見は変わらないだろう。カインはそういう男だ。きっとエスメラルダも」

「……そうだね」

「私はそういったことも含めて、今君に問うている、アルベルト。今なら君の傷が浅いうちに引き返せるからだ」


僕は答えられない。


「今ならまだ引き返せる」


デミアンが、優しい声で再度言った。

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