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(完結)男二人、ヤマアラシのジレンマ故に  作者: たろう


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30

その日は雪が降っていた。


もう三月だというのに、辺境の地ではまだ冬が猛威を振るっている。


特に気温の低いその日、僕が案内されてたどり着いた、彼が五年住んでいたという部屋は、とても小さかった。自分の部屋と比べると、本当に小さな部屋だった。


辺境軍の寮。一般兵が入るごく普通の建物。


彼の部屋の中には、ベッドと書き物机と制服などの衣類を仕舞うクローゼットと、あとはこまごまとしたものがいくつかあった。


たったそれだけだった。


彼の二十五年近くの人生の集大成が、この小さな部屋にすら見合わないわずかな品でしかなかった。彼が持ちえたものはたったそれだけだったという事実に、胸が苦しくなる。


何もない部屋。窓の外では雪が舞っていて薄暗い天気のために、部屋の中は寒々しい雰囲気に沈んでいた。


ひどく狭い部屋はがらんとして見えた。


彼の人生がどういうものだったのかを連想してしまう。


「既にこの部屋の中は隅々まで検め済みです。どうぞ、ご自由にご覧になってください。物の配置はいじっておりません」


僕たちを案内してくれた男がそう言った。


「ありがとう」


僕はなんとかそれだけ言うと、開かれた部屋の中に一歩足を踏み入れた。床を踏んだ瞬間、ぎしりと音がした。その音は、まるで僕の入室を咎め立てているように響いた。


唐突に、僕は彼のことを何もしらないのではないかという疑惑を抱いた。


まさか。


それは初めて意識した一つの視点。


慌てて足を止めて深く記憶を探ってみる。彼とのやりとりを。彼との会話を。彼の笑顔を。


そして愕然とする。


彼は本当の自分を僕に見せていなかったのではないか。そんな考えが突如として頭に浮かんできた。


それは一つの天啓だった。


記憶の中の彼は笑ったり怒ったり困惑していたり驚いたり微笑んだり、様々な表情をしていた。しかし、それはほんの一部分でしかなかったのではないか。本当の彼はずっと影に隠されていたのではないか。


僕は戸口に立って彼の部屋をもう一度見た。それはもしかしたらこの部屋のようなものではないかと思った。この部屋はきっとキース自身なのだと思った。その一部。彼が見せなかった彼の本当の部分。


でなければ、僕から見てこれほどに彼が暮らしていたこの部屋が、別世界のもののように見えたりはしなかったはずだ。


――あぁ、エルヴィンですか。彼は両親が健在ですから。


何にひっかかったのか分からないが、キースが学園時代に僕に話した言葉が記憶の中から引っ張り出されてきた。僕はなんといったっけ?僕はただ、平民なのに、キースとエルヴィンでは違うのだなと、思っただけだった。その疑問に彼は答えてくれた。たんたんと、普通のことのように。全く気にしていないように。そんなはずはないのに、何故か僕はその時、彼が孤児院出身であることを気にしていないと受け取ってしまっていた。


しかし、感情のこもらない彼が隠したその言葉の意味とは?彼が暗にほのめかしたのは?


孤独。


一人で生きて行かねばならないという苦しさ。寄る辺ない者の諦念。


彼が僕に語って聞かせた、彼自身の話は多くはない。それを僕は可能な限り思い出そうとしてみた。彼が僕に話した言葉の中に、彼の本当の気持ちが隠れていたのではないか。そうすると、見えてくるものがあった。


彼は自分が何を思っているのかをほとんど話さなかった……。


代わりに彼が話してくれたことの多くは、馬の話、訓練の話、魔法の話。そういったものばかりだった。


彼は、自分の過去を一言も話さなかった。


彼は、自分の現在を一言も話さなかった。


彼は、自分の将来を一言も話してはくれなかった……。


何故か。


あぁ。


僕は気づいた。気づいてしまった。


その瞬間、吐き気がこみ上げてきた。一瞬でそれは収まったが、はっきりと胃の中から何かがせりあがってくるあの不快感を僕ははっきりと感じていた。


それは自分への嫌悪。苛立ち。


胸が痛い。この痛みは、しかし僕のせいだ。なんと愚かだったことか。キースのことを何一つ知ろうとしていなかった馬鹿な僕自身のせいだ。過去の自分の行いが、今の僕を苛む。


彼は、自分のことを僕に話す意義を感じていなかったんだ……。


そのことに僕は気づいてしまった。


しかしそれは拒絶ではない。僕を嫌っていたわけではない。ただ、彼は自らのことは全て自分一人で為そうとしていただけなのだ。それが彼にとっての当たり前だったのだ。


だから彼は僕を嫌って自分のことを秘密にしていたわけじゃない。


なぜなら、真に拒絶はしなかったから。僕が抱きしめたとき、そっと彼が僕の背に手を回してきたから。


そして、なぜならば、彼は僕を求めていたから。唇を重ねるごとに、肌を重ねるごとに、言葉を交わすごとに、彼はそっとそれを僕に見せていた。口にはされなかったけれど、僕はそのことに気づいていた。嬉しかった。だから求めた。もっと僕を求めて欲しかったから。


なのに……。


「アルベルト?」


デミアンが僕に声をかけてきた。


彼は僕が暗い思考に落ち込むのを引き留めてくれた。現実に立ち戻ることができた。


「なんでもない。ありがとう」


僕はそう言った。


そして、僕は部屋の真ん中に立つと、恐る恐る頭を動かして部屋の中を見回す。


本当に何もない部屋だった。暖炉さえないのだ。この寂しい部屋では、冬の寒さはさぞ厳しかったことだろう。僕はキースが一人この部屋にいて、目の前にある書き物机に座り、日誌や手紙や報告書や、そういったものを書いている姿を想像してみた。


それは本当に寂しいという以外形容しがたい光景だった。


彼は、何を思って生きてきたのだろう。愚かな僕をどう思っていただろうか。


ベッドが一台あった。僕はそれに腰かける。ひどく硬く、本当にこんなところで人が眠れるのだろうかと思うほどだった。まったく弾力が無く、薄い布団は体を包み込んではくれないようだった。


彼が僕の部屋で、僕のベッドを見ては騒いでいた姿が思い出された。彼のあの態度はきっと、全くの本心だった。僕はあのとき、何を思っていた?大げさだなと思っていたような気がする。


後悔が僕の胸を刺す。


僕は立ち上がって書き物机に近づいた。それは単純に部屋にあって目に付いたからというだけで、近づいたのは何か考えがあったわけではなかった。ただ、ふがいない過去の自分を思い出させてくれた彼のベッドから離れたいという無意識の行動だった。


僕は机の前に立つ。気持ちを切り替えて机の周囲を見た。使い古されてはいたが、きれいに整頓された机。こんなにも物の少ない部屋にあって、そこが勉強熱心だった彼という人物の人となりを最も体現した場所であるように思われた。そして、何かがあるとしたら、きっとここをおいて他にはないだろう。


机の上に数冊の冊子が立てておいてあるのが真っ先に目についた。軍の日誌であるようだった。何気なく一つ抜き取って中を開くと、思った通り日誌だった。彼の丁寧で硬質な文字で日々の任務の状況が記されている。


日々の業務と訓練の内容、今後の予定や業務の進捗状況など、簡潔に記されている。そして、ところどころに、彼の受け持つ部下たちに対する、丁寧なコメントもあった。


—―ライリーが部下たちと打ち解け始めたようだ。良かった。

—―ジャンの分析技術が向上してきた。次の段階に移行できそうだ。

—―新人のビリーは魔法の才能は無いが、身体能力が優れている。今後の活躍が楽しみだ。

—―マーカスが最近すごく真面目だ。私生活で何か変化があったのだろうか。噂のマリーが原因だろうか?


そこには愛情と慈しみが溢れていた。胸が熱くなる。


僕は揺れ動く気持ちを抑えるために、日誌のページを繰る手を止めて、読むために向けていた視線を本から外す。そして視線を泳がせてからふと他の日誌にも目をやると、その立てて並ぶ冊子の中に一つだけ、背表紙に文字のないものがあるのを見つけた。違和感。僕はなんだかそれがとても気になった。


日記でもつけていたのだろうか。そう思った。中を見たいと思った。でも、もしそれがキースの日記であるのなら、僕が許可なく彼の秘密に触れるのはよくないと思い、視線を手元の冊子に戻して彼の文字を追いかけようと試みる。なのに、手元に集中しようと思うのに、しかしどうしても目が滑る。


少しも頭に入ってこなくなってしまった文字を追いかけながら、しばらくそのままでいたけれど、徐々にもっと彼のことが知りたいという欲求が湧き上がってくる。


僕はしばらく悩み、そうしてとうとうその欲求に抗いきれなくなって、読みかけの冊子を机の上に伏せると、そっと指先でそれを引き抜いた。こわごわと両手で持ち上げてみる。表面にも裏面にも何も書かれていなかった。僕は少しだけ緊張しながら、意を決して冊子を開くと中を覗き見た。


そこには僕の全く予想していないものが綴られていた。


昔から伝わる御伽噺や寓話だった。僕の知っている話もあれば知らない話もある。ドラケンヴァルトや彼が過ごした他の地域の物語もあるのだろう。


何ページにも渡って、さまざまな種類の逸話が記されていた。


キースは何故こんなものをわざわざ書き溜めていたのだろうと思った。


僕はしばらく考えて、しかしその意図をくみ取ることができなかった。趣味だろうか。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ、自分の知らないキースが、この冊子の中にいた。


僕は、そっとそれをもとの位置に戻した。


それから、机の一番上の引き出しを開けてみた。


そこには便せんや封筒やメモ用紙やペンやインク壺なんかがしっかりと整頓されてしまわれていた。


一本ペンをつまみ上げてみた。どこにでもある安物のペンだった。


その引き出しの奥に、紐でまとめられた手紙の束が出て来た。全てキース宛になっていた。裏返すと、エレーヌと署名があった。


僕は少し逡巡して、その手紙を開いて中を読んだ。


そこには、しっかりと教育を受けた者特有の、そして女性らしい美しく流麗な文字で、文章が綴られていた。


学園生活はどうですか?友達はできましたか?きっとあなたは優しいから、たくさん友達ができたでしょうね。私が言いたいのは一つだけ。自分を強くもつ、それだけです。きっと私には言えないような苦労がこれからあるでしょう。誰も彼もが優しい人間ではないということは、あなたはもう知っているでしょうけれど、そういう人たちを相手にしてはいけません。自分のことを、自分の大事にする人のことだけを考えるのですよ。未来を信じて、一生懸命に考えて行動するのですよ。あなたならできるわ。


今日、新年のお祝いをしました。あなたが送ってくれた食糧で、子供たちは立派な食事を摂ることができました。彼らに、世間一般の子供と同じことを体験させてあげたいというあなたの優しさに、私はいつも感謝しています。


ドラケンヴァルトを目指しているそうですね。北の地は寒いでしょう?風邪などひいてはいませんか?こっちは何の心配もいりません。みんな元気よ。私も元気です。だから、今は自分のことだけを考えてください。旅はお金がかかるでしょう。大変な時に、私たちに送金する必要はありません。どうか怪我にだけは気を付けて。優しいあなたが傭兵などという仕事をしているなんて、本当に、本当に心配です。


班長になったそうで、おめでとう。あなたは優秀だから、きっともっと出世するかもしれませんね。でも、私は心配です。あなたが、辺境という危険な地で仕事をしているということが。あなたが怪我をしてしまったら、そう思うと、私は心配です。あなたは本当ならもっとやりたいことをやってもいいのですよ。未来は無数に開かれているのだから。


あなたは愚痴の一つも手紙に書いて寄越さないのに、いつも私のほうが些細な心配事を手紙に書いている。どっちが保護者なのかわかりませんね。あぁ、でも、私は心配です。あなたが心配です。不安なことはない?怖いことは?辛いことは?私には何を言っても良いのですよ。大人がいつだって子供よりも強いとは限らないのですから。


孤児院からの手紙だと僕は理解した。


便せんに、小さな文字でびっしりと、日々のことや生活のこまごまとしたこと、キースが送金したお金によって何を買ったかなどなど、細かく綴られていた。


文面から、書き手のキースに対する感謝と、彼の体調を慮る優しい心遣いが見て取れた。


どの手紙にも、キースに対する感謝と深い愛情にあふれている。


そして、手紙の最後には必ず、明日があなたにとって良い日になりますようにという言葉が添えられていた。


彼の唯一の理解者……。


僕は……。


僕はこの部屋から逃げ出したかった。


彼の過去の痕跡が露わになるたびに、僕が何もなしてこなかったということを見せつけられる。


僕のしてきたことが、何もしてこなかったことが、翻って自分の胸に突き刺さってくる。


僕は、もう一つあった引き出しを開ける勇気を失ってしまいかけていた。


それでも、僕は知りたいと思った。


震える手でゆっくりと隣の引き出しを開ける。


開けてはいけない箱を開けてしまったような気がした。


恐る恐る引っ張り出したその引き出しの中には、一枚の白いハンカチがあった。ハンカチだけがあった。綺麗に折りたたまれて、ぽつんと。


何故か彼の部屋にあって、この一枚のハンカチだけは不釣り合いのような気がした。彼の部屋に馴染まない異質な物のようだった。


僕はそのハンカチを持ち上げてみた。


「それは何だ?」


デミアンが近づいてきて隣に立った。


僕はそのきれいにたたまれた絹の白いハンカチを広げてみる。


すると、それには王家の紋章が金糸で刺繍されていた。


どうして彼がこんなものを持っているのだろう。僕は訝しく思った。


「それは……」

「知っているのか?」


一緒に見ていたデミアンが何かに気付いたようだった。僕は隣に立つデミアンに視線を向ける。


「ちょっといいか」


そういうので手渡すと、デミアンはそれを手に持ってしげしげと見つめていた。


「あぁ、やっぱり。これは……」


デミアンが言葉を詰まらせる。


その声の調子に僕はひっかかりを覚えて、デミアンに問う。


「デミアン、何か知っているのか?」

「ああ、うん。きっとこれは……。アルベルト、覚えてないか?」

「何を?」


デミアンが僕をじっと窺うように見つめている。残念ながら僕には何も心当たりが無かった。


デミアンが一呼吸置いて、それから僕を窺うようにして見つめながら、静かに言った。


「これは、学園時代に、君が彼にあげたものだ。ほら、二年生の春、あの愚か者どものせいでずぶ濡れになっていたキースに、君が渡したものだ」


その瞬間、僕はありありとあの時のことを思い出した。払われる手。険のある声。きつい拒絶の言葉。そして、僕が彼の胸ポケットにむりやり押し込んだ……。あのハンカチ……。


全身に鳥肌が立った。後悔が押し寄せてくる。自分への怒りが湧き上がってくる。


一瞬の間に様々なことが僕の頭の中を駆け巡った。


僕はまるで雷に打たれたかのようにして動けなくなった。ただ、友人が手に持つハンカチをじっと見ていた。僕が過去に何気なく渡したハンカチを。何の意図もなくただ渡し、そしてその渡したことすら忘れていたハンカチを。


僕は震える指で、デミアンの持つそれを取り上げた。手のひらの上に広げる。


わずかに黄ばんだ、元は純白だった絹のハンカチは、時の流れを表していた。


十年近くの時が経っていた。


キースの顔が思い出された。


「まさか、あのときのハンカチを後生大事に持っていたっていうのか?キースが?あの時、すごく迷惑そうな顔で僕のことを睨んでいたというのに?」


目の前が真っ暗になる感覚。


「キース……」


僕の声は、部屋の中に拡散して響くことなく消えていった。


僕が君に与えられたものは、結局このただのハンカチだけだったのか。


今、そのことに気付いた。目の前が真っ暗になった。全ての音が遠くへ消え去った。


息が苦しい。


僕は足が頽れそうになるのを必死にこらえた。


そして手に持った黄ばんだそれを見る。王家の紋章が刺繍された古いハンカチ。


――簡単に他人に明け渡せるようなものなど!


彼の怒りの声が聞こえる。耳の奥でこだましている。


その言葉が僕の心を深く深く抉る。


今までで最も大きく、人生で感じたことのない後悔の念が押し寄せてきた。高波のように。僕を沖へと攫って行く。後悔の海へ。


僕は、自分にとって無価値なものを彼に与えることしかできなかった。まるで捨てるように。価値のないものを押し付けただけだった……。


彼は欲しがらなかった。何も僕から受け取ろうとしなかった。怒りに震えて叫ぶキースの顔を思い出した。


――俺は恵んでくれとは言っていない!俺は欲しいとは言っていない!


彼の言葉が僕の頭に響き渡る。胸を深々と突き刺す。


自分自身がキースに何をなしたのか。


「大丈夫か?アルベルト?顔が真っ青だ」


僕は何も言えなかった。胸が張り裂けそうなほどの後悔で、言葉を紡ぐ余裕すら失っていた。


僕は、彼の心の中にまで入り込むことはできなかったという事実に打ちのめされていた。


いつまでも呆然と立ち尽くす僕に、デミアンが体が冷えてしまうからと、引き摺るようにして領主の屋敷へ連れ帰ってくれた。


そうされなければ、僕は足に根が生えたようにあそこにあのままずっと居座り続けただろう。


屋敷に戻ると、僕は部屋に閉じこもった。デミアンにはしばらく一人にして欲しいと伝えていた。彼は、忠実なる友人は、僕の気持ちを汲み取って一人にしておいてくれた。夕食の誘いもとうとう部屋にもたらされなかった。


僕は一人部屋に居続けた。暖炉も燃えていない寒い部屋で。


あの部屋を出てからずっと僕は、一つのことについて思いを馳せていた。


それはもちろんキースのことだった。


彼の抱える孤独を、絶望を思った。


僕との会話の中で、彼は何を思っていたのだろうと、今更ながらに考えた。


何を思いながら死んでいったのだろうか。


自分自身を凍らせ、最後には崩れ落ちていったキースの姿を今なお夢に見る。


彼の最後の絶叫が耳にこびりついて離れない。


—―最初から未来など信じてはいない!


想像を絶するほどの絶望の叫びだった。


あぁ、僕はどうして本当の彼を見なかったのだろう。気づけなかったのだろう。彼の心の内を。


でも、今ならわかる。以前の僕には実のところどう足掻いても見えなかったのだろう。


こうして、彼を失って初めて気づくような愚か者の僕には。


朝から降り続けていた雪は、夜には止んでいた。開かれたカーテンの向こうの夜空は晴れ渡り星空が広がっていた。


僕は、それをカーテンの間から見ていた。


辺境伯から提供された一室で、空を見ていた。キースに僕があげたハンカチを握りしめながら。


そして真夜中ごろ、僕は珍しいものを見た。


暗い天には、青く輝くオーロラがはためいていた。その青白い光は、街の上に輝いていた。僕の上に輝いていた。きっとキースの墓の上にも輝いているはずだった。


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