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めしエッセイまとめ

無人駅から徒歩1分のお好み焼き屋の話

作者: よもぎ

夏になると、父が必ず連れていってくれるお店というものがあった。

夏休み前から夏休み終了までの間に、いくつか何度か連れていってくれたのだ。

そのひとつが、最寄りの無人駅から近い距離にあるお好み焼き屋である。


この店はテーブル席が4つほどしかない小さな店で、その片隅には週刊少年ジャンプとサンデーが適当に詰め込まれていた。

冷房はガンガンに利いていて、鉄板が温まるまではちょっと寒いくらいだった。


父は大食漢なので、お好み焼きの大一枚と、あと大盛りの焼きそばを頼んでいた。私はいつも卵付きの豚玉を頼んでいた。

さて、テーブルには鉄板がついているが、客が焼くわけではない。

店主のおばちゃんが厨房で焼いたものを持ってきてくれて、鉄板に置いてくれるのだ。

この焼き加減がまた素晴らしく、ふんわりとしながらも生な部分は一切なく、表面はいい感じにカリカリしている。

ソースも自家製なのか、オ〇フクとはまた違う味わいだったのを覚えている。


私の言う卵付きは、目玉焼き付きになる。

と言っても後乗せではない。

目玉焼きを作っている上にお好み焼きの半面焼いたものを被せて合体させたものだ。

これがうまい。

クソガキなので何をどれだけ食べても身にならなかった時代であるので、夢中になってお好み焼きを食べた記憶がある。

家で母がホットプレートで焼いてくれるお好み焼きも好きだったが、一番好きなのはこの店のお好み焼きだ。



さて、私が食べている間、父はザクザクとお好み焼きを切り分けてモリモリ食べている。

お互いに額に汗しながら鉄板の上でじうじう音を立てるものを食べる時間は、無言である。

店内では、おばちゃんが見ているらしいテレビの音と、鉄板のじうじう言う音だけがしている状態だ。

余談だが、父は同じ干支で同じ星座で同じ血液型で生まれた私をいたく気に入っていた。

自分が外食に行く時、家族単位で行くわけではない場合は私を部屋まで呼びにきて、

「よもぎ、行くぞ」

と言ってきたものである。

母は買い物以外で外出するのが嫌いだったので、もしかすると母の代打だったかもしれないが、私はおいしい思いが出来ていたので気にしていない。




焼きそばはというと、特におばちゃんはこちらを見てもいなさそうなのに、私たちが半分以上食べ終わった頃に作り始める。

そうしてあともうちょっと、というところで届けてくれるのだ。

父は毎度必ず1/4ほどを私に食べさせてくれた。

早くに背が伸び、そこで背が伸び悩んでいた私を育てようとしていたのかもしれない。

父は背が高かったので、娘の私もさぞ大きく育つだろうと思っていたのかもしれないが、悲しいかな私は平均身長ほども育たず終わった。

しかし成長期に無限の食欲を持って父のグルメ外出に付き合っていたからか、胃は頑丈だし大食らいに育った。


この店の焼きそばは、具はまあまあある方で、もやしは入らずキャベツと人参、豚バラくらいが具だった。

しかし具が多すぎて辟易はしないし、麺ばかりで飽きるということもない。


関東の方からすれば、お好み焼きと焼きそばの同時食いは異質かもしれないが、私はどっちも白ご飯のおかずに出来る関西人である。

なので、疑問も抱かずワッシワッシと食べていた。

ソース味のコナモンはおかずである。



食べ終わっても気取った店ではないからデザートの類もない。

どころか、ジュースは取り扱ってさえいない。

なので完食したら支払いをして退店するのみだ。

おばちゃんの気が向けば飴玉をもらえるが、基本的には何もなかった。




このお店に行くと、父はさらに徒歩30秒のケーキ屋に寄った。

というか駐車場までの道にその店があった。

そこで、私に家に残っている人たちと自分用のケーキを買わせるのだ。

父は甘いものが苦手だったし、普通の食事の好みは覚えられても甘いものの好みは覚えていなかったので。

口に残るソース味を感じながら、その日のおやつで食べたいケーキと、皆が食べるケーキを選ぶ。

それが、私にとっての「父と行くお好み焼き屋」のシメだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 無造作に置かれた雑誌、テレビの音、鉄板の焦げる様。ふんわり焼かれた熱々のお好み焼き。 「昔からある地元のお好み焼き屋」の雰囲気が脳裏にありありと浮かびました。 [一言] ソース味のコナモン…
[一言] こんにちは。 美味しそう~。 鉄板の存在意義が気になりますが、とにかく美味しそう。 よだれが出てきます。 しかも、すぐそばにケーキ屋!? しょっぱくなっている口には、たまりませんね。
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