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第漆拾漆話【ゴエティア】

 



「事態は収拾されました。各国の皆様には大変なご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございませんでした」


「女王が謝る必要はない。こんな事が起きるなど誰も想像できなかっただろう」



 真摯に謝罪するアルミラ女王に対し、レオガルド国王が庇うような言葉を投げた。


 魔物の軍勢が空から攻めてきてから五時間が経過していた。

 竜王騎士団と王国軍を始め、クリフォード、シリウス、ジニー、シロエなどの助力もあって魔物は掃討され、危機は去っていた。


 外に出ていたシリウスやジニーやシロエも『円の間』に戻ってきており、各国の代表達は今回の魔物強襲について話し合っている。代表達に謝罪したアルミラは、助力してくれた三人に感謝の言葉を述べた。



「シリウス様、ジニー様、シロエ様、魔物討伐のご協力感謝いたします。お蔭で被害を抑えられました」


「なんの、儂等は大したことしてないぞ」


「現段階の情報ではありますが、今回の騒動で市民に死者は出なかったようです。兵士の中に死者と怪我人が数人出ただけとなっております」


「ば、馬鹿な! あれだけの魔物に襲われて市民に一人も被害が出ていないだと!?」



 エイダン宰相が調べた結果を報告すると、代表達は信じられないといった反応を見せた。魔物の軍勢が襲い掛かってきて、市民に被害が出ていないのはあり得ない。軍隊を投入したとはいえ、王都中に手が回ることはないからだ。


 皆が騒つく中、エイダンがシリウスに視線を向ける。



「皆様、どうかお静かに。これについてはシリウス殿から説明がございます」


「市民に被害が出なかったのは、誰かさんが守護魔法をかけていたお蔭じゃろうな」


「守護魔法?」


「そうじゃよ。王都にいる全ての市民に、魔物の攻撃を通さぬ強固な守護魔法をな」


「全ての市民にだって? 信じられない、そんな事が可能なのですかシリウス殿」


「儂としても不可能と言いたいところじゃが、実際に起こってるんじゃから事実じゃろう」


「「……」」



 シリウスの話に代表達は押し黙ってしまった。

【五星天】と名高い天位魔術師のシリウスから不可能と言わせる奇跡。それではいったい、誰が市民に守護魔法をかけたのか。


 それについてはシリウスも探ってみたが、見つけられなかったと伝える。


 代表達は神妙な顔を浮かべた。

 もしそれが本当だとすれば、ドラゴニス王国にはシリウスを越える魔法使いがいるのかもしれない。もしくは、敢えて存在を隠していたか。


 アルミラ女王に疑いの眼差しが送られる中、エイダンが話題を切り替えた。



「それともう一つ報告が上がっています。市民によると、魔物に襲われそうになったところを“黒い影”が助けてくれた証言されています」


「黒い……影?」


「黒い影が見えたと思った途端、襲ってきた魔物が突然死んだようです。それは数か所に留まらず、王都全域で行われたそうです」


「まさかその黒い影とやらが、王都の中を駆けずり回りながら魔物を倒したと?」


「そんな馬鹿な……」


「守護魔法をかけた者に続き、黒い影に関しても正体は不明ですが、この者達のお蔭で市民に被害が出なかったようです。無論、ドラゴニス王国の者ではありません」



 怪しむ代表達にはっきりと伝えたエイダン。

 王国としても誰がやったのか把握していないと、はっきりアピールする必要があった。まぁ本当に誰の仕業か分かっていないのだが。


 そう言われては追及できないので代表達が押し黙っていると、レオガルドが険しい顔を浮かべて告げた。



「問題は、誰が何の目的で魔物を襲わせたかだ」


「それについては俺から話がある」


「「皇子!?」」


「もう大丈夫なのですか!?」



 話に割って入ってきたのは、『円の間』にはいなかったゼーラ帝国のクリフォードであった。皇子の上半身には包帯が巻かれており、失われた左腕が痛々しく見える。


 彼が何者かに襲われ負傷したことは既に知っている。今も眠っている配下のゴルドーと一緒に治療室に居たはずなのだが、起き上がって大丈夫なのかと心配していた。


 自国の軍服を肩に羽織っているクリフォードは、自分の席について口を開いた。



「各国の代表達が集まっている今の内に情報を共有しておきたい」


「わかりました。ですが余り無理をなさらぬようお願いいたします」


「無理などしていない。それよりも、今回の黒幕がわかった」


「なんですと!?」


「いったいどこの誰なのですか!?」



 驚愕する一同に、クリフォードは続けて言い放った。



「今回の黒幕は【ゴエティア】という組織だ。そして恐らく、奴等の目的は俺だった」


「「【ゴエティア】……?」」



 組織の名を言ってもピンときていない代表達に、何があったかを説明する。

 赤い傘を差した黒ずくめの二人の男が、突然襲い掛かってきた。自分達のことを【ゴエティア】と名乗ると、その内の一人と交戦。


 防戦一方で左腕を千切られてしまい、自分を庇ったゴルドーもやられてしまった。



「【ゴエティア】か、そんな名の組織は聞いたことがありませんな」


「あの【死霊王】と互角に戦っていたとされるクリフォード殿が手も足も出なかったというのが信じられませんな」


「奴は強かった。俺の帝具は竜の攻撃にも耐えるものだが、奴の一撃はそれ以上だった」



【死霊王】ファウストは強敵ではあるが、魔法攻撃を無効とする帝具『ゼラシオン』と相性が良かった。

 しかし今回の相手は、『ゼラシオン』の防御力を上回る膂力を兼ね備えており、クリフォードとは相性が悪かった。


 話を聞いて気になったところがあるのか、宰相のエイダンが皇子に尋ねた。



「皇子はどうやってその場を切り抜けられたのですか?」


「トドメを刺されそうになったところを、何者かに助けられたんだ」


「その者は誰でしょうか?」


「分からない、名前を聞いても答えてくれなかった。仮面で顔を隠していたし、何か事情があるのだろう。だがそいつは俺を襲った奴等を圧倒し、退けた。その上俺とゴルドーを何かの力で治療してくれた。俺達が生き延びられたのもそいつのお蔭だ」


「「……」」



 代表達は混乱していた。

 英雄と呼ばれるクリフォードを圧倒した【ゴエティア】を、さらに圧倒した謎の人物。皇子を助けたから味方なのだろうが、正体を隠す必要があるというのは怪しくもある。



「助けた者はどんな格好だったのですか?」


「背丈は子供だった。白い仮面を被っており、黒ずくめの格好の上から黒い外套を着ていた。それと見慣れぬ剣も持っていたな」


「うん? 白い仮面に黒ずくめの格好? ねぇもしかしてそれって――」


「殿下!」


「むぐっ!?」



 クリフォードの言う人物に心当たりがあったカロリー王国のスナック国王が発言しようとするが、背後にいたモティ宰相に口を塞がれてしまった。




「何するのさモティ!」


「陛下、今シノビ様のことを言おうとしていましたね」


「そうだよ。だって特徴が似てるもん。モティだってそう思うでしょ?」


「はい」



 この二人は魔王シノビを知っていて、皇子を助けた者の特徴と合致していた。だからスナックは魔王のことを話そうとしたのだが、モティは小声で注意する。



「魔王様のことを話してはなりません」


「え~何でさ」


「仮にクリフォード皇子を助けたのが魔王様だとして、名乗らなかったのは不都合があったからでしょう。我々が憶測で話したら、魔王様に迷惑がかかってしまうかもしれません。陛下はそれでもよろしいんですか?」


「う~ん、言われてみるとそうだね。内緒にしていた方がいいかも」


「そうです」


「スナック国王、何か知っているのなら話していただきたい」


「ごめんなさい、僕の勘違いでした」



 コソコソしている二人に痺れを切らした代表の一人が問い詰めると、スナックは申し訳なさそうに謝罪する。


 これだからボンクラ国王は、と周囲がスナックに呆れる中、シリウスがクリフォードに問いかけた。



「先ほど皇子は黒幕の目的が自分にあると仰っておったが、それはどういう意味なんじゃ。何か確証があるのかの?」


「俺の左腕には強大な力が宿っていたのだが、奴等はそれを狙っていた。左腕を奪った後にあっさりと撤退したことからも、俺の左腕が目的だった可能性が高い」



 なくなってしまった左腕を見下ろしながら話すクリフォードは、アルミラに顔を向けて謝罪する。



「魔物の襲来は奴等による陽動だろう。俺のせいで国を危険に晒してしまい、アルミラ女王には大変申し訳なく思う」


「皇子が謝ることではありません、貴方も被害者の一人なのですから。私達の方こそ皇子を守れず申し訳ございません」



 クリフォードはゼーラ帝国からの招待客として来てもらっている。招待した要人に重傷を負わせたとあっては、ドラゴニス王国としても立つ瀬がないだろう。ゼーラ帝国から責任問題として抗議されてもおかしくはない。


 申し訳なさそうにしている女王に、皇子は「気にしないでいただきたい」と言って、



「俺が自分の判断で戦いに赴いたのだ。それで怪我をしたからってそちらに責任を押し付けたりはしない。それよりも今は【ゴエティア】のことだ。

 奴等の最終目的ははっきりとしていないが、魔王に匹敵する力を持っているかもしれない。そんな危険な奴等が人界を嗅ぎまわっている。この場に居ない国々にも報せ、警戒するべきだ」


「そうですね、その組織には注意しましょう」



 と、話が一区切りついた頃だった。

 ドンッ……ドンッ……と、一定のリズムで重低音が鳴り響く。再び魔物が襲ってきたのか!? と慌てる代表達に、アルミラが説明した。



「これは花火を上げている音です。戴冠祭は中止になってしまいましたが、怖い思い出で終わらないようにせめて花火を上げているのです」


「ほほう、それは良い考えじゃな」



 アルミラの話に、シリウスが穏やかに笑みを浮かべる。

 王都にいる市民もまた、いつの間にか晴れた夜空に打ちあがる花火を見上げていた。



「綺麗ねぇ、サイとリズもそう思わない?」


「思います、母上」


「た~まや~」



 その中にはミシェルとサイとリズもいて、三人は仲良く手を繋ぎながら花火を見上げている。

 こうして、三日間に及ぶ波乱万丈な戴冠祭は終わりを告げたのだった。



 ◇◆◇



「おや、お二人共戻りましたか。例のものは回収できましたか?」


「アア」


「邪魔も入りましたけどねぇ」


「ホホウ、それは重畳ですね」



 大陸のどこかにある神殿のような場所。

 そこにサイやクリフォードと戦った【ゴエティア】のサレオスとヴァティンが空間転移でやってきて、元々その場にいた一人の老人に声をかける。


 二人に気付いた老人が、サイにボコボコにやられた身体が全快しているサレオスに尋ねると、ヴァティンと一緒に軽く説明した。

 そしてヴァティンが、クリフォードから奪った左腕を老人に渡す。



「これです」


「ホホウ、まさに“王の左腕”です。二人共、よくやってくれました」



 ヴァティンから左腕を受け取った老人は、神殿の中央にある祭壇に向かう。そして祭壇に置かれている大きな棺に触りながら、ふわりと横にスライドする。


 ゴゴゴゴゴゴゴッと重音を鳴らしながら、棺の蓋が開かれた。


 棺に入っているのは、人間の亡骸だった。

 亡骸といっても、いたるところの部位がない。両目がなく窪んでおり、心臓あたりがぽっかりと空いていて、右腕と左腕もなかった。


 欠損だらけの亡骸に、ヴァティンから受け取ったクリフォードの左腕を置く。

 シュルルルルッ!! と亡骸の左肩から糸のようなものが現れ、左腕と結合した。



「ホホウ! 合っていたようです。これで“王”の復活にまた一歩前進しました」


「それでもまだ“四つ”だ。四つ探すのに三千年もかかっている」


「致し方ありませんよ。七十二の同胞も指の数だけしか残っておらず、“王”の身体を持つ者が生まれてくる時代もそれぞれ異なるのですから。どうしても時間がかかってしまいます」



 苛立つサレオスに、老人は「ですが……」と続けて、



「“王”が復活するのも、残るは目、心臓、右腕の三つです。その三つの中でも、心臓を持っている者に心当たりがあり探ってもらっています」


「という事は、残っているのは目と右腕か」


「あの~ちょっといいですかねぇ」



 老人とサレオスが話していると、不意にヴァティンが挙手した。「どうぞ」と老人が促せば、ヴァティンは二人にこう告げた。



「目についてですけど、ちょいとオレに心当たりがあるんですよねぇ」



 ◇◆◇



「レオガルド国王の言伝は以上となります、オオジジ様」


「うむ、助かったぞ」



 戴冠祭が終わってから少し経った後、白竜のハクヤはレオガルド国王から頼まれた言伝を竜王ジークヴルムに伝えるため、竜が棲むドラゴニックバレーに帰っていた。


 同じ【六王】である獣王からの言伝に対し、竜王はどうするのかとハクヤが尋ねる。



「オオジジ様はどうされるおつもりですか」


「う~む、ここは一つサイに頼んでみるかの」


「サイとは、人間の子供のことでしょうか。オオジジ様もサイを知っておられたのですか」


「知っておるとも。あの子ならきっと協力してくれるだろう」



 二人共サイとは直接会っていて、その素顔も知っている。

 竜王はサイと軽く話をして、ハクヤは兄であるヤクロの暴走を止めるために共闘したのだ。竜王がサイを知っているのに驚いたハクヤは、困ったように尋ねる。



「確かにサイが協力してくれれば心強いです。ですがオオジジ様、ワタシはサイがどこにいるのか分かりません。協力を頼むのは不可能ではないでしょうか」


「王女の側に鼠の亜人がおっただろう」


「ナポレオンのことですか?」


「そうじゃ。その者はサイと繋がっておる」


「そうなのですか!?」



 驚愕の事実に目を見開いた。

 ハクヤとナポレオンはもうマブダチみたいな関係だ。しかしナポレオンがサイと関係を持っていることは全然知らなかった。


 というより、何故それを竜王が知っているのかが気になる。



「彼からサイに頼んでみてくれんか」


「わかりました」


「あ~それと、王女がいる前でサイの話をしてはならんぞ。亜人の彼以外にサイについて話してはならん。内密に頼む」


「それは構いませんが、何故でしょうか?」


「それはまぁシークレットというやつじゃよ」



 よくわからないが、サイについてナポレオン以外に話してはいけないことは分かった。だがハクヤとしても、一つ困ったことがある。



「オオジジ様、実はワタシも長い間オリアナの側を離れたくないのです」



 オリアナは様々な人間から命を狙われている。

 ついこの間の戴冠祭でも、ハクヤが参加していなかった舞踏会で暗殺しかけられたばかりだ。


 友達と言えるほど仲良くなったハクヤは、オリアナのことが心配なのである。今回のように数日程度なら離れられるが、長期間オリアナの側を離れるのはマズい。


 ハクヤとしても、竜の使者である自分が敵への抑止力になっていることは分かっていた。



「そうか、ならヤクロに頼むかの」


「えっ、父上ではなく兄上ですか!?」


「ヤクロもそろそろ外の世界を知る頃じゃろ」


「大丈夫でしょうか?」



 心配そうな顔を浮かべるハクヤ。

 ヤクロは竜としての誇りを人一倍抱いており、仲間からは慕われているものの、人間や亜人や魔族を強く嫌悪している。


 ドラゴニックバレーから出すと絶対暴れるので、今までは外の世界に出さず閉じ込めていたのだ。



「最近は静かに己を鍛えておるぞ。サイに敗北して高い鼻が折られたので少しは大人になったのじゃろう」


「へぇ、あの兄上が……俄かに信じられません」


「今のヤクロなら心配ないじゃろ」


「わかりました、ワタシから兄上に伝えておきます」


「頼んだぞ、ハクヤ」



 ハクヤがヤクロのもとへ向かい、一人になった竜王は悲し気に呟いた。



強敵ともよ……お主も逝ってしまうのか。寂しいのぉ」



 竜王ジークヴルムは、獣王がいる海の向こうをじっと見つめていたのだった。




ここまでお読み頂き、誠にありがとうございました。


いかがでしたでしょうか?

少しでも楽しんでいただけたら幸いです!


そして大変申し訳ありませんが、この作品はここで完結させていただきます。

というのも、この作品を投稿するにあたって、自分の中で目標を定めていたからです。

残念ながら目標には届かなかったので、キリがいいところで完結することに致しました。


個人的にも凄く筆が乗って、楽しく書けていたので残念であり悔しくもあります…。


伸びなかった原因は何かな〜と読み返してみたら、この作品には物語の起伏があまりなかったように感じました。


次回の作品は反省を生かし、淡々としたストーリーではなくハラハラドキドキできるような物語を描きたいと思いますので、機会があれば目を通してもらえると嬉しいです!


閲覧、ブクマ、ポイント、いいね、をしてくれた読者様の期待を裏切り、打ち切りのような形になってしまい、大変申し訳ございません。


ブクマやポイントなどの応援、凄く励みになりました!

本当にありがとうございます!


また、毎回誤字脱字をしていただき誠にありがとうございました!

本当にありがたく、助かりました!!


改めて、ここまでお読みいただきありがとうございました!


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