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第陸拾漆話 両手に花

 



「いや~お祭りって良いね! 僕こういうの初めてだからすっごく楽しいよ」


「オメ~ははしゃぎ過ぎにゃ。まぁ楽しいことには同意するにゃ。ここは食いモンも美味いし、このジュースも甘くて最高にゃ」


(……疲れた)



 魔法使いのジニーと白猫獣人のシロエ。

 要人の大物二人と何故か一緒に祭りを見て回ることになってしまった。


 当初の話では土地に詳しい俺が王都を案内する予定だったのだが、二人はあっちにふらふらこっちにふらふらと目についた楽し気なものに釣られて勝手に歩き回ってしまう。


 屋台をはしごしたり――あ~んとかされて困ったが仕方なく付き合った――、魔法店や武具店を見て回ったりな。


 そんな感じで午前中二人に振り回された俺は、体力的には問題ないが精神的にかなり疲労していた。


 今は喫茶店で休憩しているが、そろそろこの二人から解放されたい。二人に付き合いながら怪しい者がいないか注意するのは結構大変なんだぞ。


 ぐったりして椅子に身体を預けていると、ジニーが申し訳なさそうに尋ねてくる。



「ごめんね、僕等ばかり楽しんじゃって。サイ君は楽しくなかったかい?」


「いえ、そんな事はありません。ただ少し疲れてしまっただけです。お二人といられて凄く楽しいですよ」


「そっか、それなら良かった」


「その割りには、少年は余り笑っていないように思えたけどにゃ」



 ジニーが安堵すると、シロエがニヤニヤと口角を上げながら聞いてくる。

 ちっ、自分では作り笑顔を浮かべていたつもりだったが、この様子では全然駄目だったようだな。どうも笑顔を浮かべるのは苦手だ。



「ごめんなさい、僕は余り感情が顔に出ないようなのです。それで皆からも誤解されてしまうこともあって……ですがちゃんと楽しんでいますよ」


「そうだったんだね、全然気にしなくていいよ。誰にだって苦手なことはあるさ。サイ君が楽しいと言ってくれているんだからそれで十分だよ。ねっ、君もそう思うだろ?」


「うぅ、悪かったにゃ。少年にそんな事情があるとは思わなかったにゃ」


「いえ、お気になさらず」



 謝る俺をジニーが庇うと、シロエもばつが悪そうに謝ってくる。悪気があった訳ではないが、人の欠点を突いてしまったと反省しているのだろう。

 うむ、やはりこの二人は心優しい善人だな。



「ちょっとしんみりしちゃったね。折角の祭りなんだから楽しまなきゃ! そういえば、そろそろ飛竜による軍事パレードが行われるんだったね! 見に行こうよ!」


「それは良い考えにゃ! シロエも竜を見てみたかったにゃ」


(なっ、まだ付き合わされるのか)


「ほらサイ君も行こうよ」



 ここらで別れたかったのだが、二人に手を引っ張られ発言する機会を失くしてしまった。喫茶店を後にして大通りに向かうと、人だかりを発見する。


 観光客を通さないためか、衛兵が一定間隔で立ち並んでいた。

 俺達も人だかりの後ろに並ぶが、俺の背丈では前の人間が邪魔でパレードを見ることができない。



「これじゃ少年が見えね~にゃ。ほら、シロエの肩に乗るにゃ」


「いえ、お気になさらず」


「子供が遠慮するにゃって」



 気を遣ってくれたのだろう。シロエが俺の脇に手を指し込むと、ひょいと持ち上げて肩に乗せてくれる。

 この細腕で子供を蹴鞠けまりのように持ち上げられるのは、獣人の膂力があるからだろうか。



「ほら来たよ! 見てごらんよ!」


「へ~、あれが飛竜ワイバーンなんにゃ」


(ふむ、あれが竜王騎士団か)



 ジニーが指し示した方向に視線をやると、赤色の飛竜ワイバーンが大通りを歩いていた。大きめの小屋と同じくらいあるワイバーンは、竜族の中でも飛行能力に長けた竜だ。そのワイバーンが計十五体ほど大通りを一列で並び歩いている。


 その飛竜一体ごとに騎士が隣について先導していた。

 彼等こそ竜王騎士団。軍隊には所属しておらず、女王直轄の精鋭部隊だ。団員は全員貴族の出であり、精鋭中の精鋭。


 ふむ……俺も初めてお目にかかったが、堂々とした佇まいからしてそこらの衛兵とは比べものにならないな。



 竜王騎士団と飛竜を間近で見ることができて、ジニーやシロエは勿論、観覧している観光客も目を輝かせて楽しんでいる。


 そんな中、騎士が飛竜の背に乗り――飛竜には鞍と鐙がついている――、先頭の騎士が号令をかけると空高く一斉に舞い上がった。



「「おおおおおお!!」」


「凄いや、大迫力だ!」


「少年、飛んだところしっかり見たかにゃ!?」


「はい、見ました」



 飛竜たちの飛翔に観光客が興奮の声を上げる中、上空では飛竜達が隊列を揃えて飛び続ける。横一列だったり、V字のように並んだり、ぐるりと旋回して見せ場を作っていた。


 その演技は洗練されていて、日々鍛錬していることが窺える。飛竜も素晴らしいが、操っている騎士達もまた称賛に値するだろう。


 そんな時だった。突如、観光客達が違う方向を指して騒めきだす。



「おい見ろ、なんかでっかい竜が出てきたぞ」


「白いドラゴン?」


「凄く綺麗~」


(あれはまさか……白夜か!?)



 突然現れた白き竜に観光客達が目を奪われ、恍惚のため息を漏らす。

 白き竜は間違いなく白夜であり、彼女が軍事パレードに参加しているのに驚いた俺は慌ててナポレオンに念話で尋ねた。



(ナポレオン、聞こえるか)


『うぇ!? あ、サイ様ですか! 何か御用ですか?』


(たった今白夜が軍事パレードに参加しているのだが、お主は何か聞いていないか)


『あ~、それなら偉そうな人間がハクヤ殿に参加して欲しいと頼み込んでおりましたぞ。エリス殿が言うには、竜との絆を他国に示したいそうです』



 ふむ、そういう事か。

 確かに白夜の登場は影響力インパクトが大きい。大きな白竜は神々しく、こう言ってはなんだが飛竜が十五体居たところで白竜の前では霞んでしまうだろう。


 白夜を後に登場させたのも、飛竜に出番を作らせたかったからだと思われる。最初から白竜が居たら観光客は飛竜などそっちのけだろうからな。


 意外だったのは、この手の政略に白夜が協力したことだ。白夜は頼まれても断りそうな性格だと思っていたが、竜側の使者として立場を考えて了承したのだろうか。



(今姫様はどうしている。そちらは安全なのか?)


『王女の部屋で、エリス殿と一緒にパレードを見ておりますぞ。今までハクヤ殿も一緒におられましたが、窓から飛び出すとドラゴンに変身して飛んでいきました』


(そうか)


『ハクヤ殿が王女を連れて行こうとしておられましたが、我輩とエリス殿が必死に止めてました』


(うむ、でかしたぞ)



 というより、何を考えているんだあの馬鹿竜は。姫様に危ない真似をさせようとするんじゃない。

 どうやら姫様も乗り気だったそうだが、引き止めてくれたエリスとナポレオンに感謝せねばな。



(今の所怪しい気配は感じないか?)


『問題ないであります! 今日はもう王女も外へ出る予定はございませんので危険はないでしょう。ただ、自分も祭りに行ってみたいと王女が少し寂しそうで不憫でございます』


(……分かった。もし何か不穏なことがあれば連絡してくれ。頼んだぞ、ナポレオン)


『承知いたしました!』



 祭りに行ってみたい……か。姫様もまだ子供だ、そう思うのは当然だろう。もし平民なら俺の隣に立っていてもおかしくないが、姫様は女王だ。まだ仮ではあるが、好き勝手できるお立場ではないのだろう。


 不憫ではあるが、それは仕方ない。

 そういう立場に生まれた者の宿命なのだから、慣れていくしかないだろう。



「何俯いているのさ。サイ君も見てごらんよ、あの美しい白竜をさ!」


「顔を上げ続けているのが少し辛くて……」


「グワーッ」


「おい、何かおかしくないか?」


「本当だ、様子がおかしいぞ」


(何だ?)



 姫様のことを考えていたら、元気がないと思われたのかジニーに促される。誤解されると困るので咄嗟に言い訳を吐いていると、なにやら観光客が空を指して騒めいた。


 気になって確認すると、今まで綺麗な隊列を組んでいた飛竜がばらばらになっている。何か問題でも起きたのかと注視していると、三体の飛竜が突然暴れ始めた。



「おい、どうしたんだ!? しっかりしろ!」


「ガアアアアア!」


「お、おわぁぁあああああ!!」


「きゃああああああああああ!!」


「落っこちちまったぞ!」



 暴れる三体のうち、耐えきれなかったのか騎士が振り落とされてしまう。あの高さから落下したら騎士といえど助からないだろう。

 すると隣で見ていたジニーが懐から杖を取り出し、騎士に向けて呪文を唱えた。



「僕に任せて、【物を浮かせる魔法(オブロート)】!」


「「おおおお!」」



 ジニーの魔法で落下していた騎士が空中で止まる。そのまま杖を操作し、怪我なく地面に着地させた。


 魔法による救出劇に観光客が沸くも、まだ事態は解決していない。飛竜が突然暴れた原因を探る為、俺は鑑定眼を使った。



(鑑定眼!)


『ステータス

 名前・シュナイダー

 種族・竜族(飛竜ワイバーン

 レベル・130

 状態【錯乱】』


『飛竜は錯乱魔法によって【錯乱】状態になっている』


(錯乱魔法だと!?)



 飛竜のステータスを深掘りして調べると、驚くべきことが判明した。飛竜は自ら暴れたのではなく、何者かに錯乱魔法をかけられて暴れてしまったのだ。



「ギャアアアア!!」


「頼む、言う事を聞いてくれ!」


「おい、こっちに来るぞ!」


「に、逃げろ!」



 騎士を振り落とした飛竜が下降して観光客を襲ってくる。観光客が慌てて逃げようとする中、白夜が割り込んで飛竜を止めた。それでも暴れ続ける飛竜の頭にげんこつをかます。



「おい、しっかりしろ! それでも誇り高き竜か!」


「ギャ……」


「あっ」



 げんこつが強すぎたのか気絶してしまったようだ。白夜は気絶した飛竜を抱えながら空に飛び上がる。


 暴れていた二体の竜も竜王騎士団によって取り押さえられていた。一先ず混乱は収まり、観光客は助けてくれた白夜へ「ありがとー!」と感謝し手を振っている。



「サイ君、大丈夫かい? もう大丈夫だよ」


「大丈夫です、少し恐かっただけです」


「おい少年、シロエの上で漏らすのだけは勘弁してくれにゃ」


「漏らしてませんよ」



 白夜が助けてくれた時から、俺は顔を見られないように伏せていた。

 何故かといえば、白夜は俺の素顔を知っているからだ。万が一顔を見られて正体を明かされないようにな。お蔭で気付かれることはなかった。


 ただそのせいで、シロエから失礼ないちゃもんをつけられてしまったがな。



「ワイバーンも凄かったけど、あんなに綺麗で偉大な白いドラゴンを見られてラッキーだったよ! それだけでもこの国に来た甲斐があったね」


「でも、何でワイバーンは突然暴れたのにゃ? 今まで平気だったのに、どう考えてもおかしいにゃ」


「そうだね……気になるけど僕等が悩んだところで意味はないよ。とりあえず解決したんだから、後はこの国の人に任せればいいさ」


「それもそうにゃ」



 シロエの疑問にジニーが肩を竦めながら答えると、シロエも納得したように頷いた。俺は飛竜が暴れた理由を知っているが、それを二人に言う訳にはいかない。何故分かったのか答えられないからな。


 問題なのは、どこの誰がいつ錯乱魔法を飛竜にかけたかだ。


 上空を飛んでいる飛竜に魔法をかけるのは難しいだろう。誰に魔法をかけられたかまで深掘りしておけばよかったが、騎士が落下してしまってそれどころではなかったからな。



(とりあえず、この事は閣下に報告しておくか)


「そろそろ僕は戻らないと。あんまり遊んでいると師匠に小言を言われちゃうからね」


「んじゃシロエも戻るにゃ。サボってるのがクロメにバレるにゃ」


「サイ君、僕達に付き合ってくれてありがとう。君のお蔭で凄く祭りを楽しめたよ。またいつか会おうね」


「またにゃ、少年」


「お二人共、ありがとうございました」



 ふぅ、これでようやくジニーとシロエから解放されるな。

 ジニーは軽く抱きしめて、シロエは頭を乱暴に撫でてくる。俺も挨拶をすると、二人は名残惜しそうに立ち去って行った。


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