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第伍拾玖話 自作自演

 



「キャー! サイ様素敵です~!」


「んぐ、やめんか」



 魔王プロティアンとの手合わせで、宣言通り一撃も喰らわず完封したサイの姿に興奮した小夜が思いっきり抱き締めた。

 大きな胸に挟まれて息が出来ず苦しんでいると、クレハ達もサイの戦いぶりに興奮していた。



「チッ、アタイもまだまだだな。もっと力をつけね~と」


「オレも、少しは強くなったと思ったけど全然足りないです」


「ブモー! ブモー!」


「う……うぅ……サイ様!」



 クレハとゴップが現状に満足せずさらに精進することを誓う中、タロスとシンゲンは激しく感動していた。

 タロスは興奮して雄叫びを上げ続けているし、シンゲンに関しては感極まり過ぎて号泣している。


 そんな愉快な仲間達を目にして微笑むサイは、近づいてくるプロティアンに告げた。



「もう満足だろ。こちらも帰らせてもらう」


「ええ、構いませんよ……と言いたいところですが、少々問題が起きました」


「何だ、まだ何かあるのか?」


「いえいえ、ワタクシのことではありませんよ! サイ様に関係のある問題です。こちらをご覧ください」



 いい加減しつこいぞ、と睨んでくるサイにプロティアンが慌てて説明するため大きなモニターを展開する。

 その映像には、サイ達が最近訪れたカロリー王国の王城が映されていた。



『おい王様! どういう事だ!』


『魔王の手下になったってのは本当なのか!?』


『そんな事許さねーぞ、ちゃんと説明しろ!』


「これは……」



 モニターの映像には、多くの国民が王城に詰め寄っていた。全員何かに対して怒っていて、カロリー王国の王であるスナック国王に対して文句を叫んでいるようだった。


 いったい彼の地で何が起こっているのかと疑問を抱いていると、プロティアンが状況を教えてくれる。



「恐らく、サイ様とカロリー王国の国王が繋がっている事が国民に漏れたのでしょう。それも聞く限りですと、魔王の軍門に下ったと勘違いしているそうです」


「何だと? 俺とカロリー王国は友好関係を結んだだけだぞ」


「魔王と友好関係を結ぶなんて、国民は普通信じてくれませんよ。人間にとって魔物や魔族は敵であり、それらを束ねる魔王なんて恐怖の対象ですからね」


「うぬぅ……それもそうか」



 プロティアンの説明を受けて素直に納得するサイ。

 確かに、サイとてアルフレッドやリズから魔物や魔族は人間にとって悪しき者であり危険であると教えられてきた。

 ゴップやシュラ達のような話が通じる魔族に会わなければ、その認識は変わっていなかったかもしれない。


 そう考えると、王様が魔王と友好関係を結んだなんて話、国民には到底信じられないのだ。

 だから、スナック国王は人間の敵である魔王に屈したという偽りの情報が流れてしまい、こんな事態に陥っているのだった。



「非常に悪い状況になったな……」



 モニターを眺めながら悩むサイ。

 この事態を招いたキッカケは自分にもある。スナック国王が意外と優秀かつお菓子作りの天才であるから、“人間目線で”友好関係を築いてしまったが、今にして思えば“魔族目線で”どうなるかをこれっぽっちも考えていなかった。


 このまま放置しておくのも忍びなく、どうにか助けてやれる手立てはないかと必死に考えを巡らせていると、横からプロティアンが提案してくる。



「サイ様、ワタ~クシに名案がありますよ」



 ◇◆◇



「ヤバイよヤバイよ~! どうしようモティ、このままだと僕は国民から吊し上げられちゃうよ~!」


「いやはや、困りましたね」


「困ったじゃないよどうにかしてよ~!」



 カロリー王国の国王であるスナックは、城門に詰め寄っている多くの国民を見下ろしながら隣にいる宰相のモティに泣きついていた。


「国王出てこ~い!」「ちゃんと説明しろー!」と国民は憤慨していて、今にも暴動が起こりそうである。


 こうなったのも全部自分の責任だと自らを責めるモティ。

 カロリー王国に安寧をもたらそうと、先代魔王リョウマに代わって新魔王シノビと友好関係を築くことには成功した。


 これでリョウマが支配していた時と同様に、魔物や魔族に襲われカロリー王国が亡ぶようなことは回避されただろう。


 だがモティ宰相は、混乱を避ける為にもその事実を国民に敢えて伝えていなかった。


 人間の敵である魔王と友好関係を築いたなどと言っても到底信じられないか、受け入れられないことは分かりきっていたからだ。


 だから魔王シノビに会いに行く時も冒険者を雇わず自前の兵士を用意したし、くれぐれも情報を漏らさないように警告もした。


 この事を知っているのはスナック国王とモティ、付き添った軍の兵士に、会議に参加した政務に関わる者達だけ。

 王城の中にいる者達だけが知っていて、多くの貴族や国民は全く知らない。


 しかし、どこから情報が漏れたのかは知らないが、スナック国王と新魔王シノビが王城で会合したことが国民にバレてしまっている。


 それもバレているどころか、友好関係を築いたのではなく「魔王に忠誠を誓った」と間違った情報が出回ってしまっていた。


 こうなってしまっては、真実を伝えた所で信じて貰えないだろう。いや、信じてもらった所でどの道受け入れられないので詰みである。



「モティ~、早く何とかしてよ~! いつもみたいに何か考えがあるんでしょ~!」


(申し訳ございません、陛下。こうなる事は予測できていましたが、陛下にはお伝えてしませんでした)



 胸中で謝罪するモティ。

 国を守る宰相の立場からすれば、早い段階で新魔王シノビと友好関係を築こうとしたのは決して誤った選択ではない。

 そして彼は、国民に知られる可能性も考慮していた。その時のベストな対応も事前に用意してある。



(この老い耄れの首で収まるかは分かりませんが、民にはそれで納得していただきましょう)



 全ては宰相モティが企んだことだと国民に発表し、スナックだけでも許してもらう方向にシフトする。


 元々国王は国民から好かれているので、怒りの矛先を変えてやればいい。国王自らモティを断罪して処刑すれば、国民の怒りも少しは治まるだろう。


 老い先短い命一つでカロリー王国の平和が保たれるのなら喜んで差し出すつもりだ。ただ惜しむらくは、お馬鹿で可愛い孫のようなスナックが作る美味しいお菓子を食べられないのが残念ではある。



「陛下、私を誰だとお思いですか。このモティに全てお任せ下さい」


「さっすがモティ、頼りになるよ!」


(これから私が居なくて大変でしょうが、頑張ってください……陛下)



 無垢な笑顔を浮かべるスナックに心の中で別れの挨拶を済ませたモティが、覚悟を決めて国民の前に姿を現そうとした――その時だった。



「な、なんだあれ!?」


「魔物だ! 魔物の軍勢が攻めてきたぞ!」


「きゃああああああああああ!!」


「えっ、なになにどうしたの!?」


「様子がおかしいですね」



 突如、王城に詰め寄っていた国民が遠い空を眺めて騒がしくなる。スナックとモティも急ぎバルコニーに出ると、空に黒い霧が広がっているのを確認する。


 黒い霧の正体は魔物の大群だった。ワイバーンやガーゴイルやデーモンなど、飛行型の魔物で埋め尽くされている。その魔物の大群が、王城に向かって真っすぐ飛んできていた。



「うわぁぁあ!? モティ、魔物の大群が押し寄せてきたよ! どうなってんの!?」


「そんな馬鹿な……シノビ様が私達を裏切ったのでしょうか」



 このタイミングで魔物が攻めてくるなど、魔王シノビしか考えられない。


 でも信じられない。実際に会った魔王は友好的でスナック国王とも打ち解けていた。あの魔王が友好関係を破って国を滅ぼそうとしてくるなどモティには受け入れ難いものだった。


 だがこうして魔物の大群が攻めてきているのだから、シノビが裏切った可能性が高い。いや、今は悠長に考えている場合ではないだろう。


 すぐにでもスナック国王や国民を『竜魔結界』があるドラゴニス王国に避難させなければ。



「ギャアアア!?」


「ガアアアア!?」



 そんな事をモティが考えている時だった。

 王城に接近してくる魔物の大群に変化が起きた。訳が分からないが、突然魔物が悲鳴を上げて死んだように落下しているではないか。


 いったいどうなっているんだと困惑していると、多くの国民達が魔物の大群を指しながら叫び出す。



「あ、あれを見ろ! 魔物が魔物と戦っているぞ!」


「本当だ……仲間割れか?」


「仲間割れっていうよりも、魔物が俺達を助けてくれているんじゃないか?」


「馬鹿! そんな訳ないだろ! どうして魔物が人間の為に戦うんだよ!」


(人間の為に戦う? ……まさか!?)



 国民の言葉に耳を傾けていたモティに一つの考えが浮かび上がる。

 その考えが当たっているかどうか見定める為に、モティは固唾を呑んで見守っていた。



「チッ、ガキんちょの頼みだからとはいえ無抵抗の魔物をぶっ殺すのは気が進まねぇなぁ!」


「魔物とはいえ魔王プロティアンが作った人工魔物なんですから、余り気にしない方がいいですよ、アネゴ!」


「ブモー!!」


「サイ様のご命令とあらば、何であれ排除する」



 サイの配下であるクレハ、ゴップ、タロス、シンゲンの四人が魔物の大群を殲滅していた。空を飛べるシンゲン以外の者は、プロティアンが作った空飛ぶ亀のような魔物の甲羅に乗っている。


 目の前にいる魔物はクレハ達やカロリー王国の国民を“襲うフリ”はするが実際に襲ったりはしない。何故なら、そういう風にプログラムされて作られた人工魔物だからだ。


 クレハ達が殆どの魔物を倒すと、竜のような大型の魔物が残っていた。それには手を出さないでいると、ジャガーノート(中サイズ)とその頭の上に乗っているサイが現れた。


 顔がバレないように白い仮面を被って魔王シノビに変装したサイは、小夜の頭からジャンプして抜刀する。

 燃え盛る刀で、人工竜の頭から尻まで真っ二つに斬り裂いた。


 ズドーン!! と竜の全身が派手に爆発し、肉体は残らずそのまま霧散する。落っこちるサイを小夜がキャッチすると、その光景を目にしていたカロリー王国の国民が一斉に沸いた。



「「うぉぉおおおおおおおおおお!!」


「凄い! あんなでっかい竜を真っ二つにしちまいやがった!」


「本当に私達の味方なのかしら!」


「いや、まだ安心はできないぞ」



 国の窮地を救ってくれた謎の魔物達に国民が喜んだり警戒したりしていると、サイは声飛ばしの術を使って王都全域に自分の声が届くようにしてから言葉を発した。



『私は魔王シノビ。カロリー王国に隣接する魔界を支配している魔王だ』


「ま、魔王だって!?」


「そんな……ついに魔王が攻めてきたのか……この国はもうお終いだぁ」


「やはり貴方でしたか、シノビ様」


「えっ!? どういう事!? 魔王さんが助けてくれたの!?」



 王都中に響き渡るサイの言葉を聞いて、魔王が攻めてきたと絶望する国民。モティは予想が当たっていたことに微笑み、スナック国王は意味が分からないと首を傾げていた。



『今回、魔物の大群がカロリー王国に押し寄せているとの情報を得た私は、この国の救援に向かうことにした。何故なら私は、カロリー王国の国王と友好関係を結んだからだ』


「えっ!? 王様は魔王の手下になったんじゃないのか?」


「友好関係を結んだって、相手は魔王だよ? そんな事あり得るの?」


「でも、実際駆けつけて助けてくれたし……なくはないのか?」



 聞いていた話と違って困惑する国王達に、サイは畳み掛けるように告げる。



『人間にとって、我々魔族と友好を築くのは信じ難いだろう。だが実際に私とスナック国王が“友”であることは紛れもない事実だ』


「魔王さん……嬉しいこと言ってくれるじゃないか」


『今後もカロリー王国が窮地に陥れば助けよう。しかしそれは、友のスナックが国王だからだ。国王が代わったり殺されるような事があれば、私はカロリー王国から手を引く』


「マジかよ……本当に魔王が味方なのか」


「それって凄くない? だって魔王が味方になってくれるんだよ。兵士や冒険者より頼りになるじゃん」



 国民達は早くもサイの話を受け入れていた。

 それは国の窮地を救ってくれた場面をしかと見ていたことと、サイやクレハ達が繰り広げた圧倒的な戦いに興奮して冷静な判断ができないのと、サイの声が心地よくカリスマ性を帯びているからだった。



『カロリー王国の民にもう一度告げる。私は魔王シノビであり、スナック国王とは友である。どうかその事実を好意的に受け止めてくれることを願おう』


(ありがとうございます……魔王シノビ様。この御恩は必ずお返しします)



 最後にそれだけ言うと、サイは配下を連れて去って行った。そんな彼等を眺めるモティは、事態を良い方向に収集してくれたシノビに心から感謝した。



「いや~、なんかよく分からないけどなんとかなって良かったよ。魔王さんのお蔭で国は無事だったし、僕も国民に吊し上げられずに済んだ」


「ええ、そうでございますね」



 サイがカロリー王国の窮地を救ったことで、国民の怒りも急速に治まった。それどころか「魔王と友達になったスナック国王は凄いな!」と手の平を返すように褒め称える。


 魔王シノビがカロリー王国と友好関係を結んだ情報は、大陸全土に瞬く間に広まっていく。


 吹けば飛ぶような小国であるカロリー王国は、魔王シノビという大きな後ろ盾ができたことで各国から否が応でも注目の的になってしまったのだった。



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