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第伍拾陸話 幹部の力

 



「ンフ、誰から戦いますか?」


「シンゲン達には悪ぃけどよ、アタイから先にいかせてもらうぜ」



 魔王プロティアンの問いに名乗りを上げたのはクレハだった。


 サイ達は今、ディストリアン大迷宮第六階層にある闘技場コロセウムに居た。本来ここは最深部へと続く場所で階層主が守護しているのだが、その姿はどこにも見当たらない。


 突如、魔王から手合わせを申し込まれたサイ達。

 唐突な提案にサイが「何故だ」と怪訝そうに短く理由を尋ねれば、魔王から「折角お越しいただいたので、サイ様の幹部方のお力を拝見したいのです」といった返答がされる。


 わざわざ戦う必要などないと断ろうとしたサイだったが、小夜を除いたクレハ達四人は乗り気だった。



「へっ、面白そうじゃねぇか」


「タロス、戦いたい」


「サイ様、是非戦わせてください」


「オレ達がどれだけ強くなったかサイ様に見てもらいたいです」


「そ、そうか……お主等がそういうなら構わんが」



 何故か戦う気満々な四人に、サイは若干戸惑ってしまう。

 単純に面白そうだったり、ただ戦いたかったり、サイに良い所を見せたいとそれぞれ戦う理由は様々ではあるが、四人が共通しているのはプロティアンから“サイの幹部”だと言われて嬉しかったからだ。


 実際彼等が魔王軍サイの幹部であることに間違いないだろう。タロスやゴップやシンゲンは群れのボスと高い地位であるし、彼等と同等の強さを持ちかつサイに物怖じしないクレハもまた魔王軍としての地位は高い。


 サイ本人から「お前達は魔王軍の幹部だ」と明言された訳ではないが、頼りにされていることは重々承知している。


 なので、今回プロティアンからサイの幹部と言われて胸中で舞い上がってしまっていた。さらに幹部として、申し込まれた戦いは受けなければならないといった謎の使命感に燃えているのだ。



「え~、もう帰りましょうよ~。ここに居ると、なんか全部ぶっ壊したくなるんですよねぇ」


「皆がやる気だから、もう少し我慢してくれ」


「は~い」



 子供のように愚痴を吐く小夜を、サイがなんとか宥める。

 やる気のある者達と違って、【破壊の権化】は眠いのか帰りたそうにしていた。とっくに飽きているし、迷宮の中に居ると破壊衝動が疼いてくるからだ。


 こういう誰かが頑張って積み上げてきた物を一瞬でぶっ壊すのはさぞかし楽しかろうが、主君であるサイに注意されるのでなんとか我慢する。


 因みに小夜は戦いに参加しない。どんな相手を用意したところで勝敗は分かりきっているからだ。



「では、こちらもお相手を用意しましょうか。ポイントを消費して作成っと……ぼえええええええええ」


「うげ、何だテメエ……気持ち悪いことすんなじゃねぇよ」


「ぺっぺ! ンフフフ、申し訳ございません。何分強い魔物を生み出す時は、ワタ~クシの身体から作っているんですよ」



 突然プロティアンの腹が膨れると、大きく口を空けて唾液と共に何かが吐き出てくる。その気色悪い光景を見てクレハ達が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていると、魔王が訳を説明した。


 魔王プロティアンのユニークスキル【迷宮遊戯ダンジョンゲーム】は、ポイントを消費してポンポン好きなように魔物を作り出すことができるのだが、レベルが高い強力な魔物を作る時は魔王自身の体内から生み出されるようになっている。


 そしてたった今魔王の口から唾液に塗れて生み出されたのは、禍々しい漆黒色の“木の化物”だった。


 分かり易く例えるなら、両手を失った人間が木の化物に成り果ててしまったような、そんな不気味な外見だった。


 どんな魔物か気になったサイは鑑定眼を発動する。



(鑑定眼)


『ステータス

 名前・無し

 種族・魔物(悪木マリストレント

 レベル・187

 スキル・【自然再生】【闇魔法】』


『【自然再生】スキルとは、身体が破損しても魔力を消費することで再生できる能力』

『【闇魔法】スキルとは、闇属性の魔法を扱える能力』


(確かに、言うだけあってレベルも高いな)



 黒木の化物の正体はマリストレント。

 レベルも高く、スキルを二つも所有している。強い魔物ではあるが、サイが感心している部分はそこではなかった。


 これほどレベルが高い魔物を、ポイントを消費するだけで一瞬で作り出せてしまうプロティアンのユニークスキルに驚いてしまう。


 レベルとは本来、年月をかけて己を鍛え、徐々に上がるものだ。サイやクレハ達もそうだが、厳しい鍛錬をしたことで今のレベルにまで至った。


 だがあの魔物は、一切鍛錬をせず生まれながらに高レベルであり、二つのスキルまで所有している。

 そんな魔物を作り出せてしまうプロティアンの【迷宮遊戯】は、やはり恐ろしい能力だ。


 現在どれだけポイントを所有しているかまで調べていないが、ポイントさえあれば一瞬でレベルの高い軍勢を作り出せてしまう。

 流石は魔界に君臨する七大魔王の能力といったところだろう。



「枯葉、気を付けろ。奴は――」


「おっと、種明かしすんじゃねぇよガキんちょ。手の内を知ったらつまらねぇじゃねぇか」


「うむ……そうか」



 助言しようとしたサイだったが、クレハに遮られてしまう。

 サイの助言は嬉しいが、クレハにしてみれば大きなお節介だった。助言などなくても十分勝てるし、勝てると信頼して欲しかった。


 彼がわざわざ助言するということは、あの魔物は相当厄介なのだろう。

 だからサイは心配してくれたのだろうが、自分は頼りないと思われているのかと少しだけ苛立ってしまう。


 ならば、今目の前の魔物をぶっ倒して信頼を得てやると、俄然やる気が出てきた。



「この魔物はワタクシが即席で作ったものなので、生死とか気にせず思いっ切りやっちゃって構いませんよ」


「そうかい、なら全力でぶっ飛ばせるって訳だな」


「ンフ、どうぞどうぞ」


「しゃあ! だったらすぐにぶっ飛ばしてやるよ!」



 先手必勝。

 ガンッと両拳を叩いて吠えるクレハは、地面を強く蹴ってマリストレントに接近する。しかし、彼の魔物もおいそれと近づけさせてはくれなかった。

 マリストレントの身体から無数の根が生え、クレハに襲い掛かる。



「しゃらくせぇ!」



 迫る根を高速の連打で打ち落としていく。

 全て薙ぎ払ってそのまま肉薄しようとしたのだが、地面から根が出てきて足首を捕らわれてしまう。恐らく、見つからないように足下から地面の下に根を通したのだろう。



「はっ! こんなもんで捕まえたと思ってんじゃねぇよ!」


「【力を吸い取る魔法(パブソリューション)】」


「ぐっ……力が出ねえ!?」



 力任せに根を振り解こうとしたクレハだったが、突如力が出なくなってしまう。その理由は、マリストレントによる闇魔法によるものだった。


 クレハの【金剛不壊】スキルはいかなる状態異常に犯されない能力だが、この闇魔法は力を吸収するという“攻撃”なので適応されなかった。


 片膝をついてしまうクレハにさらに多くの根が絡まり、雁字搦めに捕らわれてしまった。



「ちっ……きしょうが」


「クレハのアネゴ!」


(上手いな。力で押す枯葉に対し、搦め手を使って封殺してくるとは)



 首も絞められて苦しそうなクレハに、ゴップ達が慌てた声を上げる。そんな彼等に対し、サイは冷静に戦いを分析していた。


 クレハが得意とする武術の間合いは避け、力付くで正面突破する戦い方を封殺するような搦め手。とても生まれたばかりの魔物とは思えないほど知略に長けていた。


 いくら頑丈といえど、このまま力を吸われ続ければ成す術もなく絞殺されてしまうだろう。

 ギブアップするかと思われたが、クレハは集中力を高め、体内に流れる魔力の循環を加速させる。


 所謂いわゆる、魔力による身体強化という技だった。


 武術をある程度極めたクレハは、サイから“氣”の概念を教えられた。氣とは即ち魔力であり、これを操ることで身体しんたいを部分的にも全体的にも強化できると。


 習得するのは中々難しかったが、サイが居ない日も毎日毎日鍛錬をして魔力の感覚を掴むことで、身体強化を自分のものにしたのだ。



「オラァ!」


「――ッ!?」



 咆哮するクレハは、吸収を越える身体強化によって根を引き千切った。マリストレントの両目が困惑の色に染まる中、さらにクレハは右手を敵に向ける。

 魔力を右手に集約し、一気に発射した。



魔功弾まこうだん!!」


「ギャアアア――……」



 クレハの右手から放たれた白い球体は、真っ直ぐに飛来しマリストレントに着弾すると爆発した。


 彼女が習得したのは、体内における魔力の操作だけではなかった。身体強化に合わせて、魔力の塊を体外に放出するという攻撃技も習得したのだった。

 まだ連射はできないが、一発だけでも凄まじい威力を誇っている。


 マリストレントは身体に風穴が空いていて今にも崩れ落ちそうだったが、闇魔法で吸収したクレハの力を使って【自然再生】スキルを発動しようとする。


 だが続けてもう一発放った魔功弾によって、マリストレントの身体は木端微塵に飛散した。



「ハッ! あんま使いたくなかったけど、これはこれでスカッとするじゃねぇか」


(格闘だけではなく飛び道具も手に入れたか。また強くなったな、枯葉)



 本当は思いっきり敵をぶん殴って倒したかったのだが、今回は近づけないので魔功弾を使った。でも、敵を吹っ飛ばした光景を見たらムカムカしていた気分も晴れて意外と悪くないなと感じるクレハだった。


 そんな彼女に、氣の扱い方を指導したサイは想像以上に氣を使い熟せていることに感心する。きっと、たゆまぬ鍛錬を続けていたのだろう。



「どうだガキんちょ、ちったぁできるようになったろ」


「うむ、よく頑張ったな」


「……へっ、まぁな」



 サイから素直に褒められたクレハは一瞬驚くも、満更でもなさそうに鼻の下を指で擦ったのだった。


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