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第伍拾参話 マサムネドライブ

 



「この間は血を分けてくれてありがとう、ペペ。お蔭で助かった」


「イエ、サイ様のお役に立ててなによりです」


「これはこの間のお礼だ、受け取ってくれ」


「アリガトウゴザイマス」



 魚人族の長であるペペに、カロリー王国の土産物を渡す。彼等が何を好んでいるかは分からず、またクッキーやチョコといった加工品を食べさせないほうがいいと鑑定眼に教えてもらったので、みかんといった果物を持ってきた。


 お礼というのは、以前彼等に人魚の血を分けてもらったことだ。

 姫様の侍女であるエリスの妹、ユリスは消失病という奇病に犯されていた。その病気を治す薬を作るのに必要だったのが人魚の血だったので、協力してもらった次第である。


 彼等のお蔭でユリスの病気を治すことができ、エリスの信頼を得られたのは姫様を守ろうとしている俺にとって非常に重要なことだった。



「コレオイシー」


「アマ~イ」


「コラ、サイ様にお礼をイイナサイ」


「「アリガトー」」


「うむ、あまり食べ過ぎるなよ」


「「ハーイ」」



 人魚の子供達が川から出てきて、むしゃむしゃと美味しそうに果物を食べている。喜んでもらえてなによりだ。


 ペペにもここ最近変わったことがないか聞いてみるが、魔王リョウマが居た時よりも平穏に暮らせているそうだ。うむ、平和が一番だな。



「また来る」


「ハイ、いつでもキテクダサイ。お待ちしておりマス」


「「バイバ~イ」」



 ◇◆◇



「もうご主人様ったら、小夜を乗り物として使い過ぎではないですか。可愛くないのであの姿には余りなりたくないんですよ」


「すまぬな。だが小夜が動いてくれて助かったぞ」


「へへ~、もっと褒めてください」


(うっとおしいな……)



 ぷんぷんと怒る小夜に気を遣うと、ころっと態度が変わって頭を擦り付けてくる。仕方がないので、ご機嫌取りに頭を撫でてやった。


 ドワーフや魚人族の住処と、小夜にはジャガーノートの姿になって何度も移動してもらっている。ただそこに行くだけなら変わり身の術を使えばいいのだが、酒樽や大量の土産物など、かさばる物があると持っていくことができん。


 だから空を飛べて力持ちで手も沢山あるジャガーノートに運搬を手伝ってもらったのだ。まぁ本人は、怪物の姿は可愛くないとかいう理由で変身したがらないのだが。



「サイ様が小夜の頭を撫でるなら、私がサイ様の頭を撫でますね」


「リズはいいだろ……」


「よくないです! あ~あ、私だって空間魔法とか頑張ったんですけどね~少しくらい癒しがあったって罰が当たりませんよね~」


「……好きにしろ」


「ふふ、ありがとうございます。あぁ~サイの頭を撫でている時が至福の時ですよ」



 俺が小夜の頭を撫で、リズが背後から俺の頭を撫でるという珍妙な光景が生まれていた。お前等、カロリー王国での観光といい少々好き勝手し過ぎではないか。

 いや、こいつらが好き勝手しているのは今に始まったことではないな……。



「リズ様と小夜様は相変わらずだな」


「とか言ってる割りには物欲しそうな顔してんじゃねえかよ。実はシュラもガキんちょに頭ナデナデして欲しいんじゃねぇのか?」


「な、何を言う! 我は子供ではないのだぞ!」


「むっ、シュラも撫でられたいのか?」


「サイ様までご冗談はおやめください……」


「ふふ」


「よいですなぁ」



 枯葉が修羅をからかうので俺も便乗したのだが、修羅は困ったように肩を落してしまう。その姿を見て命がくすりと微笑み、水月も孫を見るような顔を浮かべた。



(タロス達が喜ぶ物は用意できなかったな)



 命が買ってきた抹茶味のチョコレートを食べている水月を見て、ふと思い出す。居残り組みの中でも、タロス達には主だった土産を買ってこなかった。


 全員が食べられるチョコやクッキーなどの菓子は適当に買ってきたが、彼等はそもそも菓子を好んでいる訳ではないからな。


 何か違う物をやれないかと考えた時、そういえば俺と稽古がしたいと言っていたのを思い出す。

 カロリー王国の用が済んだら付き合うと約束したので、ゴップや信玄達の相手をしてやることにした。


 小夜に退いてもらい、屋敷の庭で仲良く話をしていたタロス達のもとへ向かい稽古をしてやるというと、分かりやすいくらい喜んだ。



「さて、誰から相手をする」


「その前にサイ様、オレからもお願いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」


「うむ? どうした政宗」


「いえ、そのぉ……」



 ゴップでも信玄でもタロスでもなく政宗が申し出てきたので尋ねるも、本人は恥ずかしそうに口を噤んでしまう。


 もじもじとじれったい政宗にゴップ達が「早く言えよ~」「サイ様なら聞いてくれる」「気合だ、ムフー」と背中を後押しすると、意を決したのか政宗が口を開いた。



「いいぞ、遠慮せず言ってみろ」


「一度でいいので、サイ様を背中に乗せて走ってみたいのです」


「何だ、そんなことでいいのか。勿論良いぞ、乗せてもらおう」


「あ、ありがとうございます!」



 そういえば、政宗の背に乗って走ったことは一度もなかったな。元々彼の背にはナポレオンがずっと乗っていたので、俺は乗ろうとしなかった。

 恐らく政宗は俺にも乗ってもらいたかったのだろうが、硬派な性格からして頼み辛かったのだろう。


 乗りやすいように地面に伏せてくれたので、政宗の背に乗り出す。

 狼よりも二回り大きいので安定感があり、毛が柔らかいので乗り心地も抜群だった。

 うむ、思っていたよりずっと良いな。



「どうでしょうか」


「うむ、中々良いぞ。いつでも往って構わぬ」


「承知しました。では、いつもの哨戒ルートを走らせていただきます」



 政宗はそう告げると、だっ! と地面を強く蹴り上げて駆け出す。

 何もない草原では馬よりも疾く、森の中に入っても速度は衰えず、障害物を躱しながら縦横無尽に進み、岩から岩へと跳んで崖を登れば、高い崖から跳躍して地面に着地する。



「はは、こいつは凄いな!」



 瞬く間に過ぎ去ってゆく景色に興奮してしまった。

 狼の目線を体感して改めて思う。障害物を物ともせず、上下左右自由に動き回りながらこれほど疾く駆けられる狼の機動力に感動した。人間や馬じゃこうはいかないだろう。


 色々な場所へ行った後、見晴らしが良い場所で足を止める政宗。

 どうやらこの場所が彼のお気に入りらしく、一度俺を連れてきたかったそうだ。広大な魔王領を一望できて、良い眺めだ。



「いかがでしょうか、サイ様」


「うむ、楽しかったぞ。また乗せてもらえるか」


「勿論です! いつでもお声がけ下さい」



 よっぽど嬉しいのか、尻尾が激しく揺れていた。

 そんな政宗の毛並みを撫でながら、ふと気になったことを問いかける。



「ナポレオンはよく振り落とされないな。俺ですら、影縄の術を使わなければ最初の加速で振り落とされていたぞ。あ奴はどうしているのだ?」


「ナポレオンですか……あいつはオレの毛を身体に巻き付けているんですよ。それに、いつもは振り落とすほど本気で走ってません」


「なるほど」



 眉間に皺を寄せるような顔を浮かべる政宗の話に納得する。踏ん張る力もないナポレオンが、政宗と毎日哨戒して振り落とされずに済んでいたのはそういうからくりがあったのか。


 確かに鼠人族のナポレオンは身体が軽いから、毛をしっかり巻き付けておけば振り落とされることもないだろう。



「ナポレオンで思い出したが、政宗によろしくと言っていたぞ。お主も相棒と会えなくて寂しいのではないか?」


「ふっ、ご冗談を。誰が相棒ですか。ウルサイ奴が居なくて毎日快適ですよ。逆にあいつの方はしっかりやっているんですか? サイ様にご迷惑をかけていませんよね」


「あ奴なりに頑張ってくれているぞ。ナポレオンがいるから俺も助かっている」


「それならいいのですが……」


(まぁ、最近は随分と楽しそうだがな……)



 姫様とエリスと白夜に囲まれて毎日楽しそうに時を過ごしている。

 ナポレオンはお調子者というか話が上手く、場を盛り上げてくれるので人気者だ。余り喋らぬ俺と違って、ああいう奴は誰彼構わず好かれるだろう。



「今度ナポレオンもこちらに連れて来よう」


「え、いいですよ」


「そう邪険にするな。さて、そろそろ戻るか」


「はい」



 タロス達との稽古もあるし、余り道草を食ってもいられんだろう。再び政宗の背に乗ってオーガの集落にある屋敷に戻ると、なにやらただならぬ気配を感じた。

 というのも、庭にいるタロスとゴップと信玄が殺気を迸らせながら居間の方を睨んでいるのだ。


 政宗から下りた俺は「何があった」と彼等に問いかける。するとゴップが口を開いた。



「あっサイ様、それがですね――」


「やぁやぁやぁ! 待ちくたびれたよ、新しき魔王よ!」



 ゴップの言葉を切るように、居間の方から聞き慣れぬ声が聞こえてくる。そちらを向けば、修羅と枯葉が恐い顔を浮かべており、命は脅えていて、リズと小夜と水月は呑気に菓子を食べながら茶を飲んでいた。


 その中に一人だけ、見慣れぬ者が混ざっている。

 ドラゴニス王国の将校が着ている軍服のような衣服を纏った、のっぺらぼうの男。正確には目と鼻がなくて口だけがあった。


 如何にも怪しい見た目の奴は、持っていた茶碗を置くと勢いよく立ち上がった。



「んん~会いたかった! ワタク~シは貴方とお会いできるのを心待ちにしておりましたよ! 魔王シノビ様」


「誰だ貴様」



 単刀直入に尋ねると、そいつは道化師のように頭を下げてからこう名乗った。



「ワタクシはプロティアン。若輩ではございますが、これでも魔王の一角でございます」



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